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第百三十五話 王の資質

 カート=タルト説を基本線としていたが、目の前にいるカートは、魔王城で顔を合わせたカートそのものとしか見えなかった。


 良い格好しいのナルシスト。ネット小説に登場するような悪質王子とは違う、コメディタッチのキザダメ王子。


 俺やサーシャの隠蔽魔法では、発言や仕草まで瓜二つには出来ないだろう。タルトが使っていた『結界魔法の応用』としての隠蔽魔法ならどうなのか?


 それが解けた様を俺たちは見ていない。単純に姿が元に戻った状態ならば、人間に扮していた『紅蓮の牙』のメンバーたちで確認済みだが、彼らは眠りから覚めなかった。


 どう見てもカートそのものなんだけどな。


 隣のボルバラは……何とも言えない。種族で言えば、バルゼと同じデーモンなのだが、タイプがあまりにも違いすぎる。


 モロに戦士タイプのバルゼとは違い、黒のローブを羽織り、手には水晶玉を持っている。その佇まいは召喚士や呪術師のもの。怪しさは充分にあるが、それはボルバラという個体そのものが醸し出すものだろう。


「わざわざ足を運んでいただけるとは、光栄の極みで御座います。それで、本日はどのようなご用件でしょうか? 英太様とは一度ゆっくりお話ししてみたかったのですが、なにぶん交流が制限されておりましてね」


 勿体ぶった口調だが、鼻にはつかない。悪い奴じゃないと言われれば、そうだなと思ってしまう。


「魔王から許可は得ているので大丈夫です。俺たちもカート王子と話してみたかったですし、昨夜の事も気になりますし」


 初手から少し攻め込んでみた。ここまで来て、雑談だけで終わる訳にはいかない。


「私と話してみたいと? それは光栄ですな。サーシャ様も、ということでしょう? いやはや感激です。あ、ですが……私に惚れてしまうのはご遠慮くださいませ。私はあまり立場にこだわらない性質ですが、父上に嫉妬されてしまいますから」


 こいつ、王の客人に何言ってんだ?


「私は恋というものを良くわかっていないので。そうでなくとも、カート王子には惹かれないと思います」


 サーシャ……めちゃくちゃハッキリ言うじゃん。カートの失礼さに怒ってる素ぶりもないんだよな……普通に答えただけなの?


「ははは……これは一本取られましたな」


 カートは何も堪えていない。感受性ゼロといった様子で受け流した。捉え様によっては、王の余裕とも取れる……のか? 


「さて、お茶でも飲みながらお話しましょう。我が領地の特産である“月夜の魔素茶”でございます。ぜひご堪能いただきたい」


 絶世の美女と言っても差し障りないゴブリンのメイドが、お茶を注ぐ……俺はカートに断りを入れて、お茶を詳細鑑定した。


名前:月夜の魔素茶

ランク:S級嗜好品

製作者:魔王の息子


効果:

・魔族の美容効果(肌・髪・魔力の質が整う)

精神安定リラックス

・副作用なし(魔族以外はただの美味しいお茶)


 どうやら普通のお茶みたいだ。しかし、製作者が「魔王の息子」とは……そこぼやかすかね?


 隠蔽看破のオートスキルがあるが、タルトが絡んでいるなら通じない可能性もある。重ねて看破を試みるも、特に変化は無かった。


「……美味しそうなお茶ですが、製作者がカート王子とは記載されておりません。何か心当たりは?」


「いやはや、さすが英太様。こちらのお茶は、私の兄であるファーファ王子が栽培していたものでしてね」


 カートに暗殺を仕掛けた息子か。当然、権利関係はカートに移るよな。


「さあ、遠慮なさらず。ハルパラもサーシャ様も、美味しそうに飲んでおられますよ」


「え?」


 その通りだった。サーシャはニコニコでカップを握り、ハルパラはメイドからティーポットを奪う勢いだ。


「英太さん! このお茶、とっても美味しいですよ!」


 サーシャは既にお茶の虜のようだった。しかし、注目すべきはハルパラだ。


「ハルパラ、どうしたの?」


 魔王国のマナーは知らないが、ハルパラはセルフでお茶を継ぎ足してはぐびぐび飲んでいた……そんなに喉が渇いてるのか? 何かの禁断症状か?


「英太様、口にするものを疑うのは当然ですが、相手はカートです。人を欺く狡猾さも無ければ、領地の資産を量る技量もありませんわ。一杯で城が建つ程の価値あるお茶を、惜しげもなく振る舞うなんて」


「……え、そんなに高いの?」


「ええ、それに魔族への美容効果たるや……他に例を見ません」


「ハルパラ! あまり私を褒めないでくれ! 結果的には兄から譲り受けた形となったが、溜め込むよりも未来の友に味わっていただくべきだと考えたまでです」


 未来の友……ね。新興国家『デベロ・ドラゴ』の王と、エルフ王国の女王だ。政治的お付き合いをしたいって訳か……


 ……ん……そうでも無いのか?


 それから暫くは、俺の聞きたい事など何も聞けない。スーパーカートタイムに突入した。


 話す話す。ぶっちゃけ話が止まらない。相手に話をさせるという技術も意識もない。


 魔王デスルーシの浮気騒動から、自分とハルパラの情事まで。未来の王族の初交流とは思えないような下世話な話の連発。それも話が下手過ぎて脱線しまくりだ。


 時折り、国民の事を考えているぞとばかりに、新たなテーマパーク建設やら、ミュージックフェス開催やら、色々話していたが……理想は良いとして、本当に予算の事など何も考えていなかった。


 魔王国は税率が高くない。俺が掘り出した鉱石があるとしても、他国と国交を広げなければ富には繋がならなのだ。


 悪い奴には思えない。一人のキャラとしての好感度は上がったが、大国の王を任せるには……不安が過ぎる。


「あの、バルゼとの決闘に関して聞きたかったんですけど……」


 4度目の本題カットインで、ようやくカートの口が閉じた。


「ボルバラ、昨日の映像は残っているか?」


「はい。決着の場面は、砂埃しか写っておりませんが……一連の流れはここに」


 ボルバラが水晶玉を持ち上げた。


「映像……映像が残っているんですか?」


「カート、勝手に何してますの? また魔王様に叱られますわよ」


 ……この様子だと、普通は映像を記録してはならない決まりがあるのだろう。


「そう言うな。バルゼにも許可は取ってある。偉大な戦士バルゼと、王子の一騎打ちだ。後世に伝える価値があると思ってね」


「英太様、魔王様には必ず御報告くださいね」


「おいおいハルパラ、勘弁してくれよ!」


 それは褒められている時のリアクションだった。もしくは、お笑い芸人がする、やめてくれ、のネタ振りのようだった。


「嫌ですわ! 戦士の決闘を映像に残すのは構いませんが、それが興行のようになるのは許せませんわ!」


 あれ? ハルパラって意外とその辺の考えはちゃんとしてるんだな。


「興行になどせぬ。バルゼの葬儀の際に、父上にサプライズでお見せする為に撮ったのだ」


 え、ダメだろそれ……逆鱗どころか、その場でカート自身が消されてしまいかねないぞ。


「それは最悪ね。国民全員の前にバルゼの死に様が晒されてしまいますわ。魔八将権限で、拒否させていただきますわ」


 ハルパラは先程の通信魔法を発したが、結界によってかき消されてしまう。


「カート……いつの間に」


「いや、ボルバラが念の為に……ってさ、なぁ?」


「はい。申し訳ございません。皆様に危害を加える気などは全くございませんが……カート様は魔王様に伝わると立場が危うくなってしまう発言が多々あります。その不安因子を取り除く為です。映像は葬儀にはお出し致しませんし、私が責任を持って管理致しますので、ご容赦ください」


 ボルバラは丁寧に言葉を発した。


 こっちも意外に出来た奴だな。降りかかる火の粉を払っただけとは言え、魔王の息子を次々と殺した奴とは思えない。


「ちなみに、カート王子とバルゼの戦闘力には大きな差がありましたよね? どの様にして勝利されたのですか?」


「それはだな……」


 ボルバラは、そっと唇の前に人差し指を立てた。


「だそうだ!」


 カートの発言を遮る側近か……


 ……違和感。


 なんの根拠も無い……違和感と直感だった。こいつだ……こいつは本物のボルバラじゃない。


 何か、俺とタルトだけに通じる言葉はないか?


 見つかったその言葉は、この場に最適なものだった。


「レベル200を超える方法を教えては貰えませんか?」


 この言葉の意味を知るものは多くない筈だ。


「はて、どういった意味でしょうか?」


 意味がわからない……という反応を示したボルバラ。


 しかしその眼は、視界の端でサーシャを捉えていた。

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