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第百三十三話 死んだ筈の息子

 魔王がスヤスヤと眠りにつく中……魔王国最強の戦士が永遠の眠りについた。


 その情報は、即座に魔王国中を駆け巡った。最強の戦士・バルゼを破ったのは、魔王国内でも評価の低いカート王子だったのだ。


 その反応は様々だった。


 元々新国王筆頭候補だったカートが、次点の最強戦士バルゼに勝利し、その可能性は限りなく100%に近づいた。


 カートの気質に不安を抱く者。


 カートの覚醒を喜び期待する者。


 魔王国のならわしと静観する者。


 カート暗殺を本気で検討する者。


 そして……カートの中身が、カートに扮した別人であると疑念を抱く者たちだ。


☆★☆★☆★


 部屋に戻った俺たちは、再び話し合う事となった。まずはゴレミが口を開く。


「英太さま、やはりカート王子はタルトに殺されているとお考えですか?」


「……可能性はある。軟禁……監禁の類かもしれない……色々情報を整理しなければならないが、タルトがカートに扮している可能性は否定出来ない」


「だとすると強すぎます。英太さまに肉体を再構築していただいた私は別として、タルトが短期間でバルゼに勝利する程の力を身に付ける事は、非現実的ではありませんか?」


「そうだな」


 ……本来の能力を俺たちに隠していた可能性もあるが、その素振りはなかったし、俺たちにそれをする意味も無いよな……?


「カートの能力は未鑑定ですか?」サーシャが言った。


「ああ、戦闘力だけならバルゼと魔王に次ぐとは聞いていた。所持スキルはわからないが、コロシアムが結界で覆われていた事、フレイマを壊滅させたのと同じ種類の爆撃魔法が使用された事、その中でカートのみが無事だった事……全てが魔王の血を引く者の能力に相応しい」


「……それだと、カートとタルトのどちらにも当てはまりますね」


「そうだな。カートに変わった事が無かったか調べないとな」


☆★☆★☆★


 翌日、俺たちは魔王に謁見する……と言っても、いつも通りだ。


 そこにバルゼの姿は無かった。それ以外はいつも通りで、最強戦士が命を落とした事も、勝利したのがダメ王子である事も、普通の話題としてしか出てこない。


「くっくっくっ……どうやら、バルゼの死が相当堪えているようだな」魔王が言った。


「堪えるほど共に過ごした時間はありませんが、なんだか、あまりにも普通過ぎるなと」


「許せ、これが魔王国の文化だ。真正面からぶつかり合って死んだ戦士に対するせめてもの餞なのだ」


「そうなんだろうとは理解してますけど」


 戦闘による死の日常感……これまでで、最も魔王国を感じた瞬間だった。長らく平穏であった筈の魔王国においても、それは当然の事なのだろうか。


「バルゼが儂に三度挑戦した話は聞いているか?」


「魔王の全盛期にですよね?」


「いいや、今ほどではないが、とうに衰えが来ていたわ。奴が子供だっただけだ」


「子供……?」


「奴は三十かそこらだったからな。儂に挑戦して来たのは、十歳かそこらだろう」


「……そんなにですか」


「子供と言っても、あのバルゼだからな。全力でぶつかって、何とか凌いだ……バルゼと言っても子供だからな、儂が負ける訳がない。殺せと喚いていたが、魔族の誇りを語れる年齢でもない。儂は三度ともトドメは刺さなかった」


 正式な闘いで敗れて死ぬのは、魔族の誉れ……か。


「大人になったバルゼにとって、戦闘による死は本望だという事ですか」


「少なくとも、儂にはそう言っていた。今際の際でバルゼがどう思っていたのかは知るところではないがな……かくいう儂も、一度は死を覚悟しながら、今では生にしがみついているしな」


 事実上最強のバルゼが退場し、評判以外は全てにおいて王の座に相応しい王子カートが後継者筆頭になった。魔王が暗殺されたところで、後継者はカートで変わりないだろう。実力云々で文句は出ない。それが魔王国にとって衰退を意味していても。


 中身がタルトである場合を除いて……だが。


「王位は、生前に継承なさらないのですか?」


「継承する予定だった。儂が元気なうちにと考えていたが、少し早めても問題無さそうだな」


「カートが王位についた場合、どんな事が懸念されますか?」


「奴とて壊滅的な馬鹿ではない。すぐには変わらないだろう。奴に擦り寄る者たちに利益を与え続けるうち、100年……200年とかけながら、ゆっくり変わっていくだろうな」


 諸行無常……変わっていく事は当然だ。魔王はカートに不変を無理強いするつもりは無いようだ。


「魔王様にお伝えしなければならない事があります」


 俺の言葉に、魔王は表情を一変させる。


「ガリュム」


「はっ!」


 即座に音声が遮断される。


「なんだ?」


「俺たちが人間国で出会った結界師、タルト・ナービスに関してです。彼は人間に扮した魔物でした。自分で申告するまでは、俺にも見抜けない高い精度のものです。結界魔法を応用した隠蔽魔法だそうです」


「……それで?」


「本人は、自分を魔王の子供だと言っていました。魔王に捨てられて、エルフ王国に迷い込んだのだと……その際に、エルフたちから矢による攻撃を受けて致命傷を負い、エルフの子供に助けられたそうです」


 魔王がサーシャに視線を移した。サーシャの瞳はまたしても紫を濃くしている。


「一命を取り留めたタルトは、人間国に渡り冒険者になりました。この辺の経緯は俺も詳しくは知りません。知っているのは、タルトが王族や貴族に気に入られる程の冒険者になった事、不当な扱いを受ける奴隷や、違法に売買されていた他種族の奴隷を報酬として貴族から受け取り、孤児院で育てていた事……そして、その孤児院が勇者と魔王の闘いで消し飛んだ事です」


 魔王は何も言葉を発しなかった。俺は少し迷いながらも、話を続ける。


「タルトは俺に正体を明かした時、こう言いました。違法に奴隷を弄ぶ貴族と教会を根絶やしにする。そして、フレイマを壊滅させた魔王に復讐すると……根絶やしにはなっていませんが、数十の貴族が没落しました。違法奴隷の売買に深く関わっていた教会も同様です……目撃者の情報では、襲撃したのは一体の魔物だそうです。赤い身体に羊のような角、そして天使のような羽が生えていたそうです」


 その特徴は、目の前にいる魔王の特徴と言っても過言では無かった。息子だから似ていたのか、わざと魔王に似せて姿を変えたのかは、俺の知るところではない。


「タルトは能力値も含めて姿を変えられます。王族の血を引いた者にしか使えないスキルも使いこなせるかもしれません」


「つまり、バルゼを倒したのは、そのタルトだと言うことか……」


「可能性の話です。俺たちはカート王子を調べようと思っています」


「それは構わない。其方らは自由だ……ガリュム、最善の手助けをしてやってくれ」


「承知しました」


「『漆黒』の面々よ、すまないが今日の護衛は中止にしてくれ……体調が悪くてな、バルゼの葬儀まで少し休みたい……サーシャ、またR.I.Pをかけてはくれぬか?」


「それは、構いませんが……」サーシャは戸惑いながら俺に視線を向ける。


「それならば、より一層護衛が必要なのでは?」


「ガリュムもいる。タルトが儂の寝込みを襲うような輩なら、魔王国の魔物たちが奴を放ってはおかないだろう。それに、奴は儂を殺そうとしているのではなく、復讐しようとしているのだろう?」


「……それは、そうですが」


 それが=殺害にならないとは限らない。


「ガリュム、カート陣営に『漆黒』との面会を申し入れてくれ。サーシャ、R.I.Pを頼む」


 そう言って、魔王はサーシャを連れて寝室へと向かってしまった。


 ガリュムが《音声遮断魔法ノイキャン》を解く。それと同時にゴレミが反応した。


「ドアの外に気配があります。敵意は無さそうですが……膨大な魔力を感じます」


 ゴレミの言葉に、ガリュムが笑った。


「ならばドアを開けば良いではないですか」


 そう言ってガリュムはドアを開ける。ドアの外には、ボロボロになりながらも何とか立っているゴーレムがいた。


「ゴレオ……だよな?」


 そこには、たった一晩で見違える程に強くなったゴレオの姿があった。

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