第十四話 忘却のリポップ
ブラックドラゴン装備を身に纏ったグウィンは、尻尾をぶるんぶるんさせながら火を吹いていた。
「うれしょん」ならぬ「うれ炎」を吹くその姿は、とても可愛らしい。
しかし鑑定スキルを得た俺は、その炎のスキル名が『煉獄の炎』というえげつない名前である事を知っている。
「無闇に火を吹かない!」
「はぬぅっ!」
「ダメダメー! 癖にしておかないと、島に友達が増えた時に間違えて焼き殺しちゃうかもしれないよ!」
「ううー、それは嫌なのじゃ!」
グウィンは必死で炎を堪えた。人間で言うところの咳やくしゃみを我慢する感じなのかな?
俺はステータスを開いて現状の能力を確認した。
ステータス
名前:鏑木英太
年齢 : 15
職業:デベロッパー
称号:ドラゴンスレイヤー
レベル:99
HP:6,800/6,800
MP:7,200/7,200
ユニークスキル
•創造 Lv.2
スキルスロット
1.全属性魔法 Lv.2
2.言語理解
3.万能鑑定 Lv.2
4.アイテムボックス Lv.2
5.
6.
ユニークスキルの創造もレベル2に上がった。レベル2で得た能力は消費魔力の減少だけだったが、全ての『創造』が捗る事は間違いない。
更には全属性魔法だ。各属性だけでなく、全属性魔法のレベルも上がった。全属性魔法持ちのデバフである魔力消費量増加が軽減され、属性別の成長による消費魔力量減少の恩恵も受ける。
唯一レベル2になった土魔法に関しては、土から鋼鉄を生み出す能力が生まれた。問題点としては、鉄を作る為に消費する土の量が1000倍であるという事だ。一キロの鉄を生成するのに一トンの土を使う。気軽に使用出来るものでは無かった。
万能鑑定は、レベルアップによって能力差のある相手の事も鑑定出来るようになった。グウィンの鑑定が出来たのは、グウィンが鑑定を望んだからのようで、試しに鑑定させないぞ! と思って貰ったら、能力は何一つ見えなかった。
アイテムボックスは、収納力が二倍になった。限界まで収納した事は無いが、グウィンの尻尾3本分の干し肉を入れても容量は1%も埋まっていない。
とまあ、大幅な進化を遂げた。一日で! たったの一日でだ!!
風呂に入り、ドラゴン肉でグウィン復活を祝った。全くもって特別感はないが、隣にグウィンがいるだけで充分だ。
その夜、俺たちは久しぶりに並んで星を見上げた。この日も星はキラキラと輝いていた。灰色の空には星を輝かせる効果でもあるのだろうか?
空に関しては気になる事もあった。グウィンが死んでいた期間に取り戻していた空の青さは、グウィン復活と共に消え失せていた。この大地を『死の大地』たらしめているものが、グウィンそのものでない事を祈る。
解決した謎もあるが、増えた謎の方が大きい。
グウィンという存在。
生命の存在しない島。
俺がここに転移した理由。
「クリエイト」「リポップ」というゲームのようなスキル。
積極的に謎を解明しようとは思っていない。しかし、どんな答えが出ようとも向き合う覚悟は出来ている。
その時、グウィンが口を開いた。
「英太よ」
「なんだ?」
「国作りはどうする?」
「もちろん続けるさ……創造で生命を生み出す事が出来なくても、この島で暮らしたいって人が現れるかもしれないからな」
「そうか」
「落ち込むなって! グウィンのお陰で前に進んだのは間違いない……俺も頑張るさ」
「落ち込んでなどない。妾たち二人と数百万のゴーレムが暮らす国も悪くはないからの」
「数百万のゴーレムですか」
え、作るの? 本気で言ってるのか? 本気で言ってそうだな。嘘だろ!?
「星が綺麗じゃなぁ」
人の気も知らず、グウィンはのんきに星空を眺めている。
「ああ、こんなに綺麗な星空は見た事無いよ」
「いつも見ておるではないか」
「ここに来るまでは、って事だよ」
生まれも育ちも東京だった。東京では星が見えにくいとは良く耳にする話だ。夜でも明かりが灯っているからなのだが、俺にとってはそれが普通で、たまに行く田舎の星空が特別なものだ。灯りの無いこの島の星空は更に格別だ。
「この島の星空は、世界で一番綺麗だよ」
「そうなのか?」
「あぁ、俺が暮らしていた街は夜でも明るかったからな。星は暗い場所の方がよく見えるんだよ」
「英太が暮らしていたのは、人間国のどの街なのじゃ?」
「うーん……小さな島国なんだけど……」
「島国か……ヒノモトかのう?」
「ヒノモト?」
日の本って……確か日本の事だった気がする。邪馬台国だったか、大和だったかの別称だった……ような記憶がある。
「グウィン、そのヒノモトってどんな国なんだ?」
「うむ……わからぬ」
「え?」
「ヒノモトという呼び名は覚えている……しかし……」
グウィンは顔を歪めていた。
「グウィン?」
「英太よ、お主に伝えてなかった事があるのじゃ」
その瞬間、暗黒竜という種族名が頭に浮かんだ。
「なんだ?」
「『リポップ』の事じゃ」
「リポップ?」
「うむ、リポップをするとな、妾は記憶を失うのじゃ」
「え? それって……」
「英太の事は忘れておらぬ。この1000年の記憶は失っておらぬからな。しかし、前々回『リポップ』した以前の記憶は失ってしまった」
前世の記憶は引き継げるが、前々世の記憶は引き継げない、という事か。
「であるから、今の妾には外界の知識がないのじゃ……世界の理を英太に教えてやる事が出来なくなってしまった」
「……そうか」
それをわかった上で俺のレベルを上げようとしてくれたんだな。
「迂闊であった」
「グウィンには、もうたくさん教えて貰ったよ。そのお陰で今がある。今度は俺がクリエイトで頑張る番だ。一緒に頑張ろう」
「うむ、あいわかった!」
「出来れば一日の労働は、今日の半分以下にして貰いたいけど」
「要検討じゃな!」
「ゆっくりいこうぜ」
「英太……妾はこの命にかけて立派な国を作ることを誓うぞ」
「ダメだ! 命最優先! 俺はグウィンに死んで欲しくない!」
「そうか……」
グウィンは嬉しいとも悲しいとも取れるように瞼を細めた。
前々回のリポップをする前は、外界の知識を得られる状況にあったという事になる。グウィンは外の世界からここにやってきたのだと思う。自らの意思で? 何者かの手によって?
その時だった。遠くから「ゴォォォォッ!」という音が聞こえた。
「なんじゃ、この音は!?」
「……あれは?」
音のした方向に目を凝らす。音は落ち着いたが、異変があった事は間違いない。
「英太よ、向かおうぞ」
グウィンが翼を広げる。ゴーレムハウスからゴレンヌとゴレミが顔を出す。
「グウィンサマ、ワタシタチモムカウ」
「ならぬ、安全が確認出来るまで貴様らは待機じゃ! 分かり次第、妾が炎を吹く。それが合図じゃ、確認出来たら行動を開始せよ」
「ワカリマシタ」
ゴーレムたちを尻目にグウィンが舞い上がる。グウィンに抱かれた俺は音の方向に目を凝らした。
「水か……?」
地平線の彼方、結界の外から大量の水が噴き出していた。
「滝? 滝なんて……」
俺たちが向かう先は、六芒星の形をしたこの島の六つの先端の一つ。8時の位置にある先端……滝が流れていた痕跡を見つけた場所だ。
「もしや、滝が復活したのやもしれぬ!」
グウィンの尻尾が大きく揺れるのがわかった。
「グウィン! 火は吹くなよ! ゴレミたちが来ちゃうから!」
グウィンはゲフゥゥ、と危なげな音を出していた。
「あいわがっだぁ!」
「ギリギリじゃねーかよ」
「仕方あるまい、興奮不可避なのじゃ」
俺たちは同時に笑った。
「さあて、急いでいこうぞ! あの先には何か特別なものがある!」
「ああ、急ぐのはグウィンだけどな」
聞き終える前にグウィンが速度を上げた。風圧で潰されそうになる。グウィンの気持ちはわかる。俺も高揚していたから。
俺たちは確信していた。
今から向かう先に『生命』が存在しているという事を。
第一章完結です。
明日、明後日は第一章の修正作業を行います。修正完了後に第二章を投稿しますので、是非お願い致します。
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しばいぬ