第百三十話 漆黒の指輪
サーシャからの誤解は呆気なく解けた。
事情を説明して、サーシャの指輪に幾つかのスキルを付与してみる事になった。
魔王にもアドバイスを貰う為、サーシャのステータスを開示する。
名前:サーシャ・ブランシャール
年齢 : 330
種族:ハイエルフ
称号:暗黒竜の友達
レベル:73(次のレベルまで1,820EXP)
HP:19,800/19,800
MP:33,200/33,200
基本能力
筋力: D
敏捷: A
知力: B
精神: A+
耐久: D
幸運: S
ユニークスキル
• R.I.P Lv.4
スキル
•生活魔法Lv.4
•隠蔽魔法Lv.8
•精霊魔法Lv.5 (契約精霊:ドライアド)
魔王はじっくりとサーシャのステータスを確認してから話し始めた。
「ふむ……付与の件とは違うのだが、契約している精霊はドライアドだけなのか?」
「はい。召喚してみようとした事もあるんですけど、上手くいかなくて」
「指輪で精霊との契約も付与出来ますかね?」
「それに関しては、可能だとしても正規のルートで契約した方がいいな。本人との繋がりこそが精霊魔法の強みでもあるからな……精霊の祠の様子を見てみるか……バルゼ、そのように手配を」
「かしこまりました」
バルゼは何処からともなく現れ、即座に消えて行った。
「付与したスキルがサーシャの負担になる可能性もある。先ずは3つまでにしよう」
魔王が最優先としたのは、状態異常耐性だった。
毒、麻痺、眠りといったオーソドックスなものだけでなく、隷属魔法にも効果がある。
「でも、R.I.Pのオートスキルとの相性が悪くないですかね?」
精神的ダメージを異常なまでに緩和する……あれも一種の状態異常だと思う。
「ならば、ユニークスキルは除く……というデメリットを加えられないか?」
ったく、簡単に言うな……あ、出来た。
「出来ました」
「簡単にこなすな……スキルレベルを少しずつ……そうだな、週に一度ずつ段階を上げて行ってくれ。状態異常耐性のスキルレベルが5になった段階で、状態異常無効に変える……詳しくはガリュムに纏めさせておく」
「指輪の件、極秘ですよね? ガリュムは知ってもいいんですか?」
「良いからこそ其方らを任せているんだ」
「……まぁ、確かにそうですね」
「二つ目の付与はオートヒールだな。比較的ポピュラーなモノだが、それだけ便利なものだ。これは使用者への負担も無いので、英太が付与出来る最大限の性能で構わない」
「わかりました……《付与魔法》」
指輪に二つ目のスキルが付与された。HPとMPか消費されている場合のみ、一分間に最大値の1%ずつ回復する。
「……って感じです」
「英太、これ以上のオートヒールが付与された魔道具を儂は知らぬぞ」
「……身内の前なので、針千本は御勘弁を」
「ということは儂も身内か……くわっはっはっはぁっ! よし、次に行くぞ!」
魔王は嬉しそうに笑う。あれ……ちょっと待てよ?
「魔王、元々あった位置共有のスキルを含めると、これで三つ目ですが……」
「うむ、オートヒールと『これ』は使用者への負担が無い。数にカウントしなくていいぞ」
「じゃあ、次のともうひとつですね」
「うむ、次は自動経験値獲得だ」
「自動経験値獲得って……歩くだけで……ってやつですか?」
「いや、時間経過だけで、だな。一分間で1程度なら、何の負担にもならん筈だ。経験値の獲得量を増やしたいなら、スキル習得をここまでにして、経験値の獲得量を増やしてみるか?」
「英太さん!」
サーシャの意思が伝わった。
「経験値獲得量を増やしてみます」
「あまりやり過ぎるなよ……一分間で3……いや、5までにしておけ」
「わかりました《付与魔法》」
言われた通り、経験値が一分間で5獲得出来るようになった。一時間で300、1日で7,200……生き物を攻撃出来ないサーシャはダンジョン以外でレベルを上げられない。これは重要なスキルだ。
とりあえずは、こんなものだな。最も大事なのは状態異常無効だ。焦らず段階を上げていけ。
「はい。わかりした」
「英太さん、魔王さん、ありがとうございます」
「英太、『漆黒』のメンバーにも指輪を付与しておくがいい。状態異常耐性は全員に、あとのひとつは本人と話し合って決めるのだ」
「わかりました」
「儂は少し疲れた……バルゼ、今日は夕食は要らぬとミュゲルに伝えておいてくれ。英太たちは部屋で食事を摂るように」
「承知しました」
そういうと、魔王はベッドに潜ってしまった。
☆★☆★☆★
部屋に戻ると、ゴレミが爆食していた。
「どうしたんだよ……」
「味が……味が分かりかけているのです」
人間国に居た時から言ってたな。あの時よりも進化したのかな?
「それ、魔王のカードで買ったのか?」
「はい。魔王から自由に使うようにと言われてありますので」
机の上いっぱいに広げられた空の皿たち。ゴレミめ、休暇を全部買い食いに費やしたな……
「まぁ、飯だけでそんなにお金はかからないとは思うけど、あんまり無茶な食べ方はしちゃダメだよ。人間には胃袋のキャパがあるんだ。ゴレミも適切な量を食べるようにしないと、人化の妨げになるかも」
「……なるほど、食べれば良いという訳ではないのですね……目から鱗です」
その時、ゴレミの目からブラックドラゴンの鱗が落ちた。
「ゴレミちゃん!?」
「……これは、グゥインさまの……?」
「ゴレミ、ちょっと様子がおかしいな……鑑定させて貰っても良いか?」
「はい」
能力を解放した筈だが、俺の鑑定は弾かれてしまった。
「鑑定出来ない?」
「……何故でしょうか?」
嫌な予感がビンビンした。
ステータス開示の意思さえあれば、魔王やバルゼのものでも確認出来るようになった。何故ゴレミのステータスが見れないんだ?
「サーシャ、ゴレミ、時間をくれ。鑑定出来るまで何度でもやる」
俺は《詳細鑑定》を幾度となく繰り返した。魔力が切れてはグゥインの干し肉を加えて、鑑定を続ける。1,000を超えた頃だろうか? スキルレベルが上がった感覚を覚えると同時に、鑑定が通った。
名前:ゴレミ
年齢 : 0
種族:ゴーレムドラゴン
称号:暗黒竜ダークドラゴンの側近
黒竜拳
レベル:178
HP:278,000/278,000
MP:30,000/30,000
基本能力
筋力:SSS
敏捷:SSS
知力:S
精神:SSS
耐久:S+
幸運:S
スキル
・言語 Lv.5
・変形 Lv.6
・献身 Lv.10
• 人化 Lv.2
• 魔族化 Lv.1
レベルが変わってないのに、また強くなってる……その理由はすぐにわかった。
「ゴレミ、心当たりがあったら教えてくれ。先ずは、人化のスキルが2になっている」
「……それは、喜ばしい事です」
「そして、魔族化というスキルが増えている」
「魔族化ですか……うーん……あっ!」
「何だ?」
「ええ、魔王のですね……」
まさかあの爺さん……本当にゴレミに手を出した訳じゃないよな?
「魔王の、何だ?」
「……いえ、魔素が膨大でしたから、どうにかしてデベロ・ドラゴに持ち帰れないかと思いまして……それを相談したところ、魔王がクリスタルに魔素を詰めて、魔晶石にして下さりまして……」
「……その手があったか。で、どうして魔族化なんて?」
「私はマジックバックを持っておりませんでしたから、ちょうど胃袋がマジックバックでしたし……」
「飲み込んだって事か?」
「はい」
俺はすかさずマジックバックを広げた。ゴレミの胃袋に入ったぶんは、共有ストレージに保管されている……なんだ、この膨大な食べ物は……ゴレミ、知らないうちにこんなに食べてたのか?
そして、発見した。
それは魔晶石ではなく、普通のクリスタルだった。
「……どうしましたか?」
「魔晶石が無い。代わりにクリスタルがあった……たぶんだけど、魔王の魔素が体内に取り込まれてる」
「……それは……何か問題ありますか?」
ゴレミは平然と言い退けた。