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第百二十七話 サキュバスと魔王

 今日は俺とサーシャが魔王の護衛だ。


 魔王が余命一年である事は国民全員の知るところらしい。俺たち漆黒以外は、皆受け入れているのだろう。


 R.I.Pの効果が発動しているサーシャは、時おり悲しそうな顔を見せては一瞬で立ち直る。それを繰り返すうちに、いつも通り魔王に接するようになっていった。


 本日の魔王のご予定は、魔八将のハルパラ、クライン、カンパネルラの領地にある鉱山の採掘と、魔道具工房での魔道具作成体験だという。


「今日も随分と俺たちに合わせてくれますね」


「鉱山の発掘は国家事業だしな。人件費とかかる年月、取りこぼしを考えれば、英太に頼まない手はない」


「カートの領地には行かないんですか?」


 会議の後に直接頼まれたんだが、リストには名前が無い。


「知らん。ガリュムに連絡は無かったそうだ」


「そりゃまた……」


 目の前では良い顔するくせに、話が全然違っていたり、平気で支払いを滞らせる業界人は多く目にして来た。そのタイプか?


 いや、単純に忘れているだけだろうな。


「英太、カートから連絡があったら、必ずガリュムを通すように言うのだぞ。サーシャ、カートとは口も聞くなよ」


「それは可哀想じゃないですか?」サーシャが言う。


「本来、儂の客人に直接声をかける自体が間違っているのだ。わかってくれ」


「はい。わかりました!」


「教育って大変ですね」


「ふん、60歳にもなりおって……」


「御子息も長命なんですか?」


「儂が長命なのは、魔王という立場によるものだ。称号……加護の成せる業だな。かくいうカートにも魔王子という加護がある。病に対する耐性もあるから、王の座に就かなくとも500歳くらいまでは生きるだろうな」


 暗殺されなければ……か?


 平和すぎる魔王国だが、気をつけておかないと。


☆★☆★☆★


 俺、サーシャ、バルゼの三人は、魔王と共にハルパラの領地へと転移した。


 ハルパラは魔八将の紅一点。種族はサキュバスで、年齢は17歳と若く、史上最年少で八将になった凄腕だ。


 まぁ、堅っ苦しい分析を抜きにして言うと、エロい。可愛い。あとエロい!


「デスルーシ様、わざわざ領地まで足を運んでくださってありがとうございます」


 さり気ないタッチが魔王を襲う。手の甲に触れるか触れないかの指先……魔王の集中力がその一点に絞られているのが手に取るようにわかった。


 何故かって? さっき俺もやられたからね!


 それでいて、サーシャやバルゼを蔑ろにもしない。気配りの中にある特別感っ!! ハルパラ……お主やりおるな!


「《創造クリエイト》」


 俺は例によって、鉱山を丸ごとアイテムボックスに収納した。即座に分別して、石以外の素材を全て並べる。


「素晴らしいですわっ!」


 目を輝かせるハルパラは、すぐさま決断を下した。領地にある全ての鉱山を採掘して欲しいとの事だ。


「俺は良いけど、魔王的にはどうなんですか?」


 魔王は仕事にあぶれる魔物が出てしまう事を懸念していた。


「既にハルパラから話は聞いている。英太のスキルを確認してから決定したいという事だった」


「是非ともお願い致しますっ!」


「そういう事なら問題無いですね……《創造クリエイト》」


 俺は隣の鉱山も収納する。途端に身体が痺れる……どうやら、またアイテムボックスのスキルレベルが上がったようだ。レベル6か……流石に鉱山収納は鍛えられるな……


スキルを《詳細鑑定》してみた。


 スキルレベルの上昇によって、土→石→鉄→ミスリルという上位互換への錬成ではなく、素材そのものの錬成が可能になったみたいだ。全ての鉱物の素材としての純度とクオリティを上げる事が出来る。


 ハルパラに確認して、素材を錬成する。量は減ったが、純度の高い金、銀、鉄、ダイヤモンド、鉛、銅、エメラルド、アダマンタイト、オニキス、オリハルコン、クリスタルを取り出した。


「素晴らしいですわっ!」


 ハルパラの歓喜を尻目に、魔王は眉間に皺を寄せる。


「これだけの純度を誇る鉱石は、通常の倍の価格では治らないぞ……やはり、英太は自衛を常に心掛けねばならん……ハルパラ、この鉱石は儂が買い取る。他の者には内密にしてくれ」


「えーっ……どうしてもダメですか?」


「ならん。英太の身に危険が及ぶやもしれん」


 ハルパラは、魔王にヒソヒソと何かを語りかけた。魔王は苦虫を噛み潰すような顔をして、首を横に振る。


「……ならん。その提案は捨てがたいが、英太の為……」


 ハルパラはハートの形をしている尻尾の先端で魔王をツンツンした。


「お、ね、が、い」


 トドメとばかりにハートが魔王の胸をツンっとする。


「……儂が良いと言うまで表には出すなよ」


 負けた! 魔王負けた! 老いとか関係なく欲に負けたよ!


「魔王、国賓の安全よりツンツンですか?」


「ふん、ハルパラの交渉力の賜物だ」


 ……いったい何を交渉されたのか? いや、何となく方向性だけは分かるけど。


「凄いです。あれが大人の色気ですね」


 サーシャは感心していたが、330歳と17歳なんだよな。見た目は同い年くらいに見えるけどな。


「サーシャ、其方は添い遂げる男だけを愛するのだぞ」


「添い遂げる……」


 サーシャは耳を垂らして黙り込んでしまった。


 ハイエルフの子作り事情を知ってる癖に……魔王は余計な事を言う。


 その後も、ハルパラの領地の鉱山を四つ、クラインとカンパネルラの領地の鉱山を一つずつ採掘した。


 ケンタウロスのクラインとサイクロプスのカンパネルラの領地にはそもそも鉱山がひとつしかないそうで、二人は大変悔しがっていた。


「今日の成果を知ったら、他の八将も依頼をするだろうな」


「まぁ、俺は構いませんよ……ガリュムを通してくれれば」


 きっと、カートからは最後まで連絡が来ないだろう。来るとしたら、またガリュムを通さず直にだと思う。


「これは一本取られたなぁ!」


 魔王はいつも通りに、豪快に笑った。


 鉱山の儲けはかなりのものになるだろう。しかしそれは、ある一定の条件を満たした場合のみだ。


 それに気付かないほど、間の抜けた者には見えなかったのだが……人を、魔物を見抜くのは難しい。


 儲けの見込みの高揚感からか、今日会った三将は快くステータスを開示してくれた。彼らの能力を把握したかった事もあるが、タルトが隠蔽魔法で化けている可能性も捨てきれない。



名前:ハルパラ・ミューズ

年齢:17歳

種族:サキュバス

称号:微笑む夢魔/世界の綻び

職業:魔術士

レベル:73(次のレベルまで19,900EXP)

HP:6,400/6,400

MP:33,300/33,300


基本能力

筋力:D+

敏捷:C+

知力:D

精神:A+

耐久:C

幸運:S


スキル

・幻惑魔法Lv.5

・魅了Lv.7

・精神干渉Lv.4

・夢歩きLv.2

・潜在魔力解放Lv.1



名前:クライン・フォルクス

年齢:51

種族:ケンタウロス

称号:雷脚の戦騎

職業:弓騎士

レベル:80(次のレベルまで33,500EXP)

HP:22,800/22,800

MP:6,100/6,100


基本能力

筋力:A

敏捷:S+

知力:B

精神:C

耐久:A−

幸運:B


スキル

・弓術Lv.5

・騎突Lv.4

・走力強化Lv.4

・遠視Lv.3

・馬体制御Lv.3

・跳躍強化Lv.2



名前:カンパネルラ・ゴルダ

年齢:48

種族:サイクロプス

称号:鋼鉄の職人戦士

職業:クラフトウォーリア

レベル:85(次のレベルまで39,200EXP)

HP:31,000/31,000

MP:7,500/7,500


基本能力

筋力:S+

敏捷:C

知力:B

精神:B+

耐久:S+

幸運:C


スキル

・大槌術Lv.5

・武具修復Lv.4

・物理反射Lv.2

・硬化皮膚Lv.4

・鍛冶知識Lv.3

・構造解析Lv.3



 各々の能力はわかった。しかし、変身したタルトかどうかの判別は難しい。鑑定スキルを上げたところで、それを識別するのは難しいのではないか? と思っている。


 幹部のフリをしなくても、魔王があれだけ自由に歩き回っているのだから、街の人々や孤児院の子供に変化した方が手っ取り早く復讐出来るだろう。


 復讐……暗殺……はないだろうな。


 俺は確信している。主人公気質のタルトならそれはしない。


 それを実行するくらいに父親を恨んでいるならば別だが……そうでないと信じたいものだ。

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