第百二十六話 漆黒会議
魔王の部屋を後にした俺たちは、自分たちの部屋に戻るまで、誰一人として口を開かなかった。
「私はここで失礼致します。ではゴレオ様、早速ですが御準備のほど宜しくお願い申し上げます」
最初に言葉を発したのは、執事のガリュムだった。
「準備?」
「魔王様からの詫びの品、ダンジョンでの戦闘訓練です」
「ダンジョン!?」ゴレオは怯えた声を上げる。
「ええ、魔王様はゴレオ様の潜在能力を高く買っていらっしゃいます。ゴレミ様に勝るとも劣らない戦士になれる可能性がもしやあるやもしれぬ……と、くふふっ」
最後の方は『かもしれない』の連続で誤魔化していたが、確かに加護とスキル以外の素質はゴレミと同等の筈だ。
俺はゴレオを鑑定する。
名前:ゴレオ
年齢:0
種族:ゴーレムドラゴン
称号:暗黒竜ダークドラゴンの側近候補
レベル:1
HP:3200/3200
MP:600/600
基本能力
筋力:E
敏捷:D
知力:C+
精神:B+
耐久:E+
幸運:C
スキル
・魔力操作Lv.1
・暗黒属性適性Lv.1
・防御強化(魔法)Lv.1
……ゴレミと違って魔力操作がメインなのか。面白いな。
「ゴレオ、強くなりなさい。楽しみにしていますよ」ゴレミは拳を突き出した。
「姐さん……わかりました! 俺頑張ります!」
ゴレミに背中を押されて、ゴレオは覚悟を決めたようだ。ポーション入りのマジックバックを握りしめて、ガリュムと共に転移して行った。
行かせてから気づいた。
「俺たち、魔王たちの事をすっかり信じきってるよな?!
「はい。普通に考えれば、罠の可能性もありますね」ゴレミが言った。
「魔王さんはそんな事しないです!」
サーシャの根拠は勘でしかないが、その勘は正しいと思う。
「ゴレミ、サーシャ、魔王から聞いた話を整理しよう」
俺たちは念入りに《音声遮断魔法》をかけ、テーブルを囲んだ。
「大前提として、俺は魔王が嘘を言っていないと信じる」
俺の意見に、二人は同意した。
「情報を整理します。魔王デスルーシは、紀元前の勇者パーティーと共に『邪神』討伐部隊に参加した。全世界対邪神の構図である……結果として『邪神』は封印された。それを魔王は『死の大地』だと確信している。その儀式によって、魔王は呪いを受けている」
ゴレミの言葉をサーシャが懸命にメモしている。俺は欠けている情報を付け加える。
「魔王は封印した『邪神』を『ブラックドラゴン』だと言った。俺たちがブラックドラゴンの加護持ちだと言う事も受け入れていたし、『邪神』は『ブラックドラゴン』で間違い無いだろう」
「始祖の勇者が関わっているとすると、グリア暦が制定されたタイミングと、封印のタイミングが同じと考えるのが妥当ですね。魔王討伐時ではなく、数十年後に紀元が制定された……無関係とは思い難いです」
「グゥインの年齢は2,025歳だ。グリア暦もそうだろう? 邪神封印と年齢が微妙に噛み合わない」
「では、封印されたのはグゥイン様の親……ですか?」
「魔王もグゥインではなく親の可能性があると言っていた。グゥインは雄でも雌でも無いと言っている。子を孕めないとも……親がいるけど、グゥインがそうなのか、グゥインがそうだと勘違いしているのか……親なんていないのか……」
「親が居ないなんて、有り得ますか?」サーシャが言った。
「私たちゴーレムの例もあります。しかし、それに関しても、英太様が親という考え方がしっくり来る様にも思えます」
「どちらも有り得ると言うことで、一旦保留しよう。グゥインが邪神でなかったら嬉しいが、邪神だったとしても何も変わらない。邪神の子供だとしたら、当然世界はグゥインを新たな邪神扱いしてくるだろうしな」
「そうですね!」サーシャは拳を突き上げた。
「では、何故封印されるに至ったか……それがクリア出来ていれば、デベロ・ドラゴの封印も解けるかもしれません」
「封印の理由か……単純に考えれば、強過ぎて危ない」
「それは今のグゥインちゃんも一緒です。グゥインちゃんは誰かを傷つけたりしませんよ」
「いや、サーシャが来る前に、俺はバラバラにされたみたいだよ」
サーシャは明らかにドン引きした。
「いや、人間がいたから嬉しくて飛び込んだみたい。バラバラにされたけど、すぐに回復させられた。その後もしばらく引き摺り回されたけど」
「……グゥインちゃん、成長したんですね」
「成長……ですか」ゴレミが呟いた。
「なんだ?」
「いえ、現在のグゥイン様の戦闘力を持ちながら、生まれたてのツバサのような粗暴さだったとすると……」
「それは考えたくもないな」
ゴレミはツバサに核を残して粉々にされている。無邪気に弱者を蹂躙するグゥインがいたとしたら、邪神とされても致し方ない。
「封印の儀に参加した者は、全員何かしらの呪いを受けたのでしょうか?」
「確かに……生存者は……サーシャ、長命種ってどれくらいいるんだ?」
「アンデットを長命に入れていいのかわかりませんが、浄化されない限りは不死な筈です。あとは機械族も……それを除くと、ハイエルフだと思います」
「封印の儀式に参加して生存している可能性があるのは、魔王デスルーシと、大魔導師アンカルディア、それに加えて、アンデットと機械族か……そう言えば、魔王は『邪神討伐隊』が六人だと言っていた」
「六人……六芒星ですか?」
「六芒星の結界が、邪神討伐隊の主要メンバーの国と繋がっているとしたら、人間国は始祖の勇者、エルフ王国はハイエルフのダーリャ、魔王国は魔王デスルーシ……アンカルディアは人間? 種族は知らないな」
「不老不死の呪いを受けた……と聞きました。呪いの種類は様々なのでしょうか?」
「それも可能性がある……としか言えないな。先代の魔王を討伐したパーティーから4人が討伐隊に加わったと言っていたから、それも始祖の勇者とダーリャは濃厚で……あと二種族……ハッキリと覚えていないけど、妖精、獣人、ドワーフだった気がする」
「伝承の通りだとすると、そうですね」サーシャが言う。
「あの伝承も語り継ぐ事が禁止されているなら、正しい事は書けない筈だしな……」
「もしくは、語り継ぐ為に死を選んだのかもしれませんね」
ゴレミの言葉には説得力があった。絵本の製作者、レミ・タキザワの姿をしているからだろうか?
「次に何をどうしたいのかを整理しよう」
「デベロ・ドラゴに移住者を集める……のような事ですか?」
「いや、その先のことだ。そして、デベロ・ドラゴを国にする……より前」
「結界を無効化して封印を解く……とかですか?」サーシャが言った。
「そうだな。それが第一目標だ」
「その方法を探す……今やっている事ですね」
「いや、どんどんブレストしていこう」
「ブレストは、話し合いという意味ですか?」
「無駄になってもいいからアイディアを出すんだ」
「邪神問題の真相を探る……他国が邪神を討伐しに来ないように備える……グゥイン様が邪神化しない方法を見つける……」
「ゴレミ……グゥインの邪神化って……有り得ると思うか?」
「……考えたくはありませんが、可能性としては」
「今のグゥインが元々邪神と呼ばれていたのではなく、これからグゥインが邪神化するかもしれない……か」
真相にたどり着くのは、まだまだ先になりそうだが、事実と可能性を知れただけでも前進だ。
グゥインが邪神化する可能性を知ってしまった事も……良かったと思えるようにしていくしかない。
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【邪神封印に関する要点メモ】
•勇者パーティー → 魔王デスビート討伐
構成:始祖の勇者、拳聖レミ、大聖女クラスタ、大魔導師セイメイ、ハイエルフ・ダーリャ、ドワーフ王ベンティ、獣王ローズ、フェアリー王女クイーン
•邪神討伐隊 → 邪神封印に参加した6名
→ 勇者パーティーから4名抜け、新たに2名追加(全6名)
→ 追加の2名は魔王デスルーシ、大魔導師アンカルディアで確定
→ 始祖の勇者、ダーリャは濃厚
→ 残りは妖精・獣人・ドワーフの中から2名か?
•邪神の正体 → 「ブラックドラゴン」=グゥイン? あるいはグゥインの親?
→ グゥインの年齢(2025)とグリア暦の始まりが同じ=封印時期に微ズレあり
→ 魔王曰く「親の可能性もある」
→ グゥイン本人:「雌雄なし」「子を孕めない」=特異な存在。親はいるのか?
•封印後の影響 → 儀式参加者に“呪い”発生
→ 魔王:呪いを受けていると明言(話すと死亡)
→ アンカルディア:不老不死の呪い?
→ 他の参加者にも各種呪いが?(種類不明)
→ 儀式参加者で生存しているのは、魔王、アンカルディア(確定)。中心メンバーではないが、全世界が参加したという意味でなら、アンデット族、機械族(不死の種族)
•封印構造の可能性
→ 六芒星の結界?
→ 封印隊メンバーの出身地で構成されている可能性あり。人間国(勇者)、魔王国(魔王)、エルフ王国 (ダーリャ)、他3国?
•グゥインの本質について
→ 現在のグゥインは精神的に成長している
→ ただし「当時は粗暴だった」可能性あり
→ 成長前のグゥインが“邪神”と認識された可能性
→ グゥインが“これから”邪神化する可能性も示唆されている
•現在の課題
→ 邪神封印の真相を探る
→ グゥインが再び邪神化しないための方法を探る
→ デベロ・ドラゴの封印との関連性調査