第百二十二話 お料理クリエイター
デベロ・ドラゴ帰還時に受けたブラックドラゴン労働のお陰で、創造のスキルレベルは7になっていた。
その真価がようやく発揮される事となる!
それは、お料理でだっ!
創造でアイテムボックスの食材を切り刻んだり、混ぜたり、焼いたり、煮込んだり出来るのは言わずもがな。
二段階のスキルレベルUPによって、アイテムボックスに入っている食材から、自分が作りたい味に寄せた食材を自動的に選別する事が出来るようになったのだ!
ちなみに、足りない食材や調味料も教えてくれるし、使いたくない食材は自動的に除外もしてくれる。
今回で言うと、魔物の肉は使用禁止だし、魔王国にあるガラムマサラの代用となるスパイスを提案してくれた。前回の『何となくスパイスを重ねたカレー』も人気だったが、今回の『記憶の中にある家庭の味カレー(スパイスちょい足し)』は……
大絶賛だった!!
「美味い!」「美味!」「うまいっ!」「おいしー」「こんなのはじめて食べた!」
孤児院の子供たちの賛辞の声が鳴り響く。魔王なんて感動して涙を堪えている。
その反応も当然! このカレーには伝説級の素材、ブラックドラゴンの尻尾肉が使われているからね!
子供たちは、どこにそんなに入るのかと言うくらいにおかわりを繰り返すし、サーシャは隠し味の果物をことごとく当ててくる。ゴレオは味覚を手に仕掛けているゴレミを羨ましそうに見つめている。
和気藹々の夕食タイムとなった。
この作り方なら、デザートも作れるんじゃね? そう思った俺は、プリンをイメージしてみた。作った事は無いが、たしか材料が少なかった気がする。
卵と牛乳と砂糖……カラメルも砂糖だよな? 材料は足りてるみたいだ。味のイメージは出来ているし……行けるっ!! ちょっとカラメル焦がしちゃえっ!!
一口食べた瞬間に魔王が立ち上がる。
「英太ぁっ!! 何だこれわぁぁあっ!!」
ラスボス然とした魔王の咆哮は、賛辞の現れだった。
どうやらプリンは世界の理を変えてしまう程の物だったようだ。魔王は涙し、子供たちは俺に抱きつき、『漆黒』のメンバーは俺に祈りを捧げた。
「英太、このプリンなるもののレシピを魔王国に売ってはくれぬか?」
魔王の提案は丁重に断らせて頂いた。
こんなに感動していただけるならば、デベロ・ドラゴのウリにしなければならない。というより、今のスキルレベルでは、レシピ自体は把握できないのだ。
俺のイメージ通りに出来上がってくれるだけで、その過程に関与していない。完全にオートマなのだ。
作っているのは俺で間違いないけれど、クリエイターとしての矜持は得られていない。
自分が魂を込めて作って来たゲームだと思って考えたら複雑な気持ちになる。過程を省いて完成させたものに、俺は愛を持てるだろうか?
まぁ、本業ではないスイーツに関してまでそんな事は思わない。過程なんか関係なく、みんなが喜んでくれるだけで幸せだ。
創造のスキルレベルが上がる事で、こんな恩恵を得られるとは思ってもみなかった。レシピを把握出来るようになったら、それを教えて、デベロ・ドラゴの郷土料理として売り出していこう。
☆★☆★☆★
孤児院の皆さんは、贅沢にも魔王の転移魔法で帰宅していった。魔王クラスになると《転送魔法》も使えるみたいだが、一緒に送り届けるようだった。
……って事は俺も使えるよな? 今度試してみよう。
食事会が始まった段階で、初日の護衛は終了の時間となっていた。全くもって護衛をしていた実感は無いのだが、大丈夫だろうか?
観光と採掘と料理と……魔王一族のハードな話もあった。
ちょっと疲労感はあったが、デベロ・ドラゴのブラック創造に比べたら、天と地の差がある。
「サーシャ、お腹いっぱいか?」
「いっぱいおかわりしちゃいました」
「ゴレミ、味はわかって来たか?」
「少しずつですが、理解して来ました。私には満腹という感覚が御座いませんので、まだいくらでも食べられます」
「俺はまだ全くわかりません。姐さんは凄いです」ゴレオはゴレミを讃える。
「姐さんって呼ばれてるのか?」
「はい。グゥインさまが、ゴレオは私の弟だと仰っていましたので」
ゴレミの言葉に、サーシャが反応した。
「英太さん……ちょっといいですか?」
サーシャは俺の腕を引っ張り、《音声遮断魔法》をかけた。
「どうした?」
「……魔物の子供たち、魔物のお肉を食べないんですよね? あのカレーに入ってたお肉って、何ですか?」
「いや、そりゃ……」
尻尾肉……アイテムボックスにあるぶんには腐らないけど、大量に余ってたから……あっ……ドラゴンも広い意味では魔物か?
「グゥインちゃんの、ですよね?」
「あ……ごめん、サーシャも苦手だよね」
サーシャは真剣な顔で首を横に張った。
「私はいいんです、何度も食べましたから。問題は私じゃありません。グゥインちゃんのお肉、ゴレミちゃんたちに食べさせたんですよ。それを知ったらあの子たちどう思いますか?」
「あっ……」
やってしまった。二人の胃袋にはマジックバックが収納されている。食べているというよりは、収納しているイメージを持ってしまっていた。
ゴレオは味も食感も理解していないが、ゴレミは理解し始めているのだ。
グゥインに対する忠誠心の高いゴレミだ。主人の肉を食べてしまった事実を知れば、確実にショックを受けるだろう。
「……どうしよう」
「隠しましょう。伝えて、謝っても、それは英太さんがスッキリするだけです。これから、二度と二人にグゥインちゃんのお肉を食べさせないでください」
サーシャは言いながら泣いていた。自分の事のように、二人の事を思って怒ってもいた。本当に申し訳ない事をしてしまった。
「ごめん、本当に馬鹿な事をした」
「謝らなくていいです。子供たちに美味しいものを食べさせたかったんですよね? その気持ちはわかります。グゥインちゃんが居たら、『英太よ、妾の肉を振る舞え』って言いそうですから」
「……絶対に言うな」
俺たちは笑った。泣いて、怒って、笑ったサーシャを見たら、何だか涙が込み上げて来た。俺が泣く場面じゃないのに……変な話だ。
サーシャが《音声遮断魔法》を解くと、すぐにゴレミが話しかけて来た。
「英太さま」
「何だ?」
「お取り込み中のところ申し訳ありせんが、魔王がお待ちです」
そこには、子供たちを送り届けた魔王がいた。どうやら、しばらく俺たちを見守っていたみたいだ。
「話は済んだのか?」
「はい……すみません。何でしょうか?」
「サーシャとの会話の内容も気になるが、先ずは、先程のカレーライスの件だ。あのカレーに入っていた……」
「すみません。ここだとアレなので、二人だけでお話しさせてください」
☆★☆★☆★
再び魔王の部屋に戻った俺は、魔王からのゴリ押しを受けて、カレーライスのレシピを教える事になった。その際に、今回使われた肉が特別な肉である事と、それは『漆黒』の仲間にも秘密である事を伝える。
「今日のカレーはスキルで作ったので、レシピに落とし込めないんです。似たもので良ければお教え出来ますし、魔王国の料理人さんたちなら、それをブラッシュアップして貰えると思います」
「ふむ、そうか……報酬は何が良い? 鉱山ひとつ、丸ごとくれてやろうか?」
え……カレーのレシピで鉱山丸ごと貰えるの? でもな、創造で採掘するだけで4割手に入るから、それはあんまり旨味が無いかな。
「見合ったものが良いですね。ひとまずは魔王様に貸しを作ったと言う事で、いかがでしょうか?」
「ぐわぁっはっはっはっはあああああ!!!」
魔王は豪快に笑った。戦闘前のラスボスみたいな笑顔だ。怖っ。
「よかろう。いずれ最高のものをプレゼントしてやろうぞ」
ニッコリと微笑む魔王の笑顔には、何処か既視感があった。例え隠蔽魔法で姿かたちを変えていたとしても、笑い方は似るのだな……と、そんな事を考えていた。