第十三話 チートになってもブラック労働させられる件
「では英太よ、高まった魔力で心の友ゴーレムを作って妾を楽しませるがよい」
人の心を持ったゴーレム。
……って事は生命体になるのか? 人造生命体ならホムンクルスのような気もするが……いや、分類はこの際どちらでもいい。リーダーゴーレムであるゴレンヌの知性を高めて、感情を持たせるイメージだ。
「やってみるよ……《創造》」
土が隆起する。それ以外の表現が無かった。驚くほどの速さでゴーレムが完成する。魔力が足りずにパーツを分割して作っていたリーダーゴーレム。それと同等以上のゴーレムが完成した。
「おお! 一瞬じゃな! しかも、核に魔力まで込めておるではないか!」
魔力の消費量を確認する。消費魔力は諸々含めて600。少ない数字ではないが、今のMPであればグウィンの肉で魔力を回復しなくても、一気に10体は作れる計算だ。
「嬉しーのじやー! 嬉しーのじゃー!」
グウィンはウキウキでゴーレムに魔力を注ぎ始めた。ゴーレムが起動する。
「ゴレミよ! 貴様は妾の友達じゃ! 妾が王である事を充分理解した上で、友達としてフランクに接する事を許可する!」
「……ワカリマシタ」
ゴーレムはそのまま直立している。
「……」
「…………」
「……英太ァ? 心は作れなんだのか?」
「イメージはしたよ。魔力が足りなかったわけでもない」
「ふむ、鑑定スキルを使うのじゃ」
「そうか……やってみる《鑑定》」
ステータス
名前:ゴレミ
年齢 : 0
種族:作業用ゴーレム
レベル:1
HP:1800/1800
MP:300/300
スキル
・言語使用
種族は作業用ゴーレム……レベル1でこの基礎能力は高い……のか? スキルの『言語使用』は会話出来るという意味だろう。
「どうじゃ?」
「ステータスからじゃ読み取れない。とりあえず喋る言は出来そうだけど」
「ふむ、では英太よ『クリエイト』を鑑定してみるのじゃ。スキルの詳細がわかるやもしれん」
そうか、鑑定は自分にも有効なのか。
『創造』は自由度が高いが、不明点も多い。鑑定出来るならありがたい
「やってみるよ……ステータスオープン!」
ステータスを開いてユニークスキル『クリエイト』に集中する。
「《鑑定》」
ステータスウインドウの隣に新たなウインドウが浮かんだ。
ユニークスキル:創造 Level 1
・生命を除く全ての物を作り出す事が出来る。
・スキルレベルが上がる事によってMP消費効率が向上する。
・現在のスキルレベルでは、素材の無い物を作り出す事は出来ない。
想定の範囲内ではあった。俺がゲームのキャラクターにこのスキルを与えるとしても、生命を生み出せない縛りはつける。もしくは条件を付けて終盤までお預けにする。
他二つの情報は、今まで試して来た事と結果の答え合わせになった。そうだろうとは思っていたが、確定するのは有り難い。
「グウィン、創造では生命を生み出す事は出来ないみたいだ」
「そうか。心は生命か……仕方あるまい……ゴレミよ」
「ハイ」
「我が名はグウィンじゃ。其方等の使えし王であり、友達じゃ……共に『デベロ・ドラゴ』を発展させようぞ!」
「ハイ、グウィンサマ」
グウィンはゴレミの頭を撫でていた。女の子の話し相手が欲しかったのかもしれない。ゴレンヌもそうだが、グウィンがゴーレムにつける名前は妙に女の子っぽい。
「時に英太よ、草木や果実は生み出せぬのか? 大地を肥やす事はどうじゃ?」
そうだ。大地に栄養を与える事が出来れば、草木や果実など、植物を定着させる事が出来るかもしれない。
創造のスキルウインドウに視線を戻す。
生命(草木・果実・大地の肥やし)を除く全ての物を作り出す事が出来る。
グウィンの質問を反映させたのか、ステータス画面の説明書きが追加・変更されていた。
「えと……出来ないみたいだ」
「そうか……それもまた一興じゃな」
生命を生み出す事が出来ないと確定した。『死の大地』再生への近道は無くなってしまったが、出来る事と出来ない事がわかっただけでも充分だ。
「どうする? ゴーレムたちを増やす?」
「うむ、まずは高まった魔力を用いてスキルレベルを上げる事に集中しようぞ。火、水、土、風、聖、強化魔法を持っているじゃろう? それ等のスキルレベルを上げると同時に、使える属性も増やしておくのじゃ」
生命は生み出せないとしても、魔力の枯渇問題がほぼ解消されたのはチート過ぎるな。
使用回数が多かった土魔法だけスキルレベルが上がっている。あの時の数倍のMPを持つ今ならば、一度魔力を枯渇させるだけでスキルレベルが上がるかもしれない。
もしかして、と思ってウインドウに視線を移す。ウインドウはまた更新されていた。
・全てのスキルは使用した魔力量が一定の数値を超えるとレベルアップする。スキルによってレベルアップに必要な数値は違う。
何でも答えてくれるじゃん。便利ではあるが、スマホが個人情報を吸い取ってる的な都市伝説を思い出したりもする。
「鑑定した。使い続ければレベルは上がるらしい」
「そうか、では、今ある全てのスキルレベルを向上されるぞ。それが終わり次第にグウィン様の復活祭じゃ」
「え、全部? 復活祭?」
「覚えている属性魔法全てと、言語理解、鑑定、アイテムボックスの全てじゃ! 達成したら風呂と妾の肉のステーキでもてなしてやろう」
「干し肉どれだけ食べる事になるんですかね」
「さあ、まずは強化魔法をかけて、妾の尻尾を切るのじゃ!」
グウィンは空高く舞い上がり、ブラック……ではなく、ダークドラゴンに変身した。正直、グウィンを殺したトラウマが残っているんだけど、話の通じる相手じゃないから従うしかない。
それから俺は、身体強化を何度も重ねがけし、グウィンの尻尾を切り落とし、肉を切り分けて、風魔法で乾燥させ、干し肉を作ってはアイテムボックスに収納した。
グウィンの尻尾に回復魔法をかけるが、全く傷が塞がらない。干し肉を何度も何度も食べてスキルレベルが上がったが、その段階で、何となく血が固まりかけたかな? という程度だった。
骨付きステーキ肉は火魔法で作ろうとしたが、全く火が通らなかった。幸か不幸か低温調理のプルプルサラダドラゴンが発明される。
土魔法でドラゴン形態専用の風呂を作らされ、そこに水魔法で大量の水を投入する。火魔法で湯を沸かしてグウィンを風呂に促す。
「今日は英太と一緒に入りたいのじゃ、スキルレベルが上がるまで待っておるから頑張るのじゃ」
というお風呂キャンセルを頂いてしまった。その後もゴーレムたちを鑑定したり、やたらめったらアイテムボックスに収納したりしながら、「言語理解」以外のスキルレベルを全て上げる事に成功した。
意外だった、というか、想像を絶していたのはグウィン干し肉の効果だ。たった一枚食べるだけで、レベルアップによって膨大に膨れ上がったMPを枯渇状態から全回復したのだ。
それにしても……
「疲れたー」
風呂も飯もいらないから眠りたい。そんな俺にグウィンはウキウキで声をかける。
「そうじゃ、忘れておった! カッコいいドラゴン装備も作らねばならぬな!」
ブラックドラゴン労働超えてダークドラゴン労働ですよ。辛い。