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第百二十一話 魔王の息子 後編

 魔王が俺を呼び出した本当の理由、それは息子の値踏みだった。


「……それ、本音を言ったら激怒のパターンじゃないですよね?」


「正直な感想で構わない」


「あまり詳しくはわからないですが、苦労知らずのお坊ちゃんって感じがしました。気品はあるし、頭も悪くなさそうだけど、状況判断出来ていないというか、見ていて不安になるタイプですね」


「くわっはっはっはぁ! 詳しくわからぬ割にハッキリ言ってくれるわ!」


「ご所望だったので。怒らないでくださいよ」


「儂も全くの同意見だ……でな、順当に行けば、そのカートが次の魔王になる」


「魔王国は実力至上主義なんじゃ?」


「そこは儂譲りでな。あれでいて、カートの戦闘力はかなり高い」


「魔王の血を引いていて、戦闘力も高い……魔王国の慣わしとしては順当な王位後継者ですね」


「時代は移り変わっている。2,000年の平穏の中で、強さの必然性は失われつつある」


「必然性ですか……魔物や魔族の持つ本能は強さを追い求めはしないのでしょうか?」


「英太は面白い事を言うな。それが魔族の本能か……しかし王の資質とは、血や力といったわかりやすいものばかりではない。世の流れを読む力、自らを犠牲にしても成さねばならぬ時がある。カートにはそれが判別出来ない。儂が求める『王たる資質』が決定的に欠けておる」


「そっちの方が辛辣ですね」


「カートが王になれば、国の為にと、カートを殺害しようとする者が現れるやもしれんな」


「わかっているなら、最初から不安要素を取り除いたら良いのでは?」


「強者が支配をするというのが、魔王国のならわしだ」


「でも世襲制でもあるんですよね?」


「偶々そうなっただけだ。先代の魔王デスビートの時代には、勇者という明確な敵がいた。王の座を争って内紛を起こしている場合ではなかった」


「勇者が先代の魔王を倒したのに、魔王国は滅びなかったんですか?」


「国としての機能は崩壊したが、種族としての魔族は滅ばなかった。攻撃する意思の無い女子供を殺すような勇者ではなかったからな」


「魔王も子供だったんですか?」


「そうだ。孤児院の子らと同じくらいの年ごろだった。その段階で、父上に匹敵する力を持っては居たがな」


「って事は、全盛期だと……」


「当然、儂の方が数段上だろうな。歴代最強の魔王と呼ばれているしな」


「歴代最強の魔王ですか」


「もう1,000年以上も前の話だ。単純な戦闘力なら、今は儂より上の者もいくらかおる」


 ゴレミも含めて……か。


「今でもお強いですが、当時はそんなものじゃないと?」


「そうだな。全盛期ならば単体でも邪神と渡り合えた自信がある……と言ったら大袈裟かもしれぬな」


「カート王子は、そこまでには見えませんでしたね」


「ふっ、カートごときでは鑑定もしなかったか」


「それは、あの場の空気を読んでですよ。何なら全員鑑定したかったのに、自己紹介すらなかったから」


「誰か目ぼしい者はいたか?」


「目ぼしい……」


「どうせサキュバスのハルパラだろう? 胸ばかり見よってからに」


 俺ってそんなに胸を見てるの? グゥインもそうだけど、みんな視線探知能力高くない?


「みんな凄い迫力でしたけど、バルゼには遠く及ばない感じですよね?」


「ふむ、では……戦闘力以外で感じるものはあったか?」


「戦闘力以外……魔王を裏切ったり、カートを狙ったりとかですか? うちのゴレミならそういうのに敏感なんですけど、俺は特別何も感じませんでした。強いていうなら……」


「誰だ?」


「カートですかね」


「カート以外の息子は、全てカートの配下の者に殺された」


 確か暗殺されたんだよな?


「……全てって、わかっているなら何故?」


「暗殺ではないからだ」


「それはどういう言葉です? 確か暗殺だと……」


「殺された息子達は、それぞれカートを殺害しようと計画を立てていた。それを掴んだカートの護衛が、息子を返り討ちにしたのだ。正々堂々の真剣勝負で」


「正々堂々勝負をして負けた……それを隠す為に暗殺だと言っているってことですか?」


「そうだ」


 急激に話が重たくなったな。でも、この事情なら、護衛の必要性も理解出来る。


 同時に1つの可能性が浮かんだ。


 その配下は、結界魔法で姿を変えたタルトなのではないか?


「その配下について詳しく聞きたいです。カートの配下となったのはいつ頃ですか?」


「名はボルバラ・ネフェリウス、デーモンの魔導士だ。配下となった正確な時期は儂も把握しておらぬが、少なくとも三年は経つだろうな」


「……そうですか」


 であるならば、タルトではない。


 ボルバラを殺害して、入れ替わった場合を除いて。


「結界師が入れ替わったと考えているな」


「俺が考えつく事くらいお見通しですね」


「結界魔法で姿を変える事は容易ではない。そのタルトには、その技術があったのだろう?」


「ええ、その通りです」


「ふむ……そうか」


「魔王、正直な事を言います。俺はタルトのやろうとしている事を聞きました。しかし、具体的にどうするのか、何故俺たちを魔王国に呼びたかったのか、魔王の部屋に転移させた理由も知らないんです」


「タルトのやろうとしていることは何だ?」


「……魔王への復讐。そう言っていました」


「『漆黒』は、それに協力する為にやって来た?」


「いえ、目的はお話しした通り、魔素を獲得する為の移住者探しです。タルトが魔王国との結界を緩めてくれたから、目的の為にやって来た……それだけなんです」


「そうか」


「……魔王、亡くなられた御子息とカート、ボルバラに関して調べさせて頂く事は可能ですか?」


「構わない。ガリュムに伝えてくれれば必要な資料は手に入るだろう」


 魔王は本当にタルトに心当たりが無いのか、タルトの存在自体に興味も無いのか……実子であるタルトを捨てた理由……タルトは本当に魔王の息子なのか……並行して調べなければならない。


 俺たちはタルトの味方をしに来た訳じゃない。


 しかし、魔王の護衛としてタルトと戦闘するのは望んでいない。


 魔王は目を閉じて、ゆっくりと息を吐いた。


「英太よ……儂は魔王国で唯一、人を喰らった事がある魔物だ」


「それは……」


「安心しろ、2,000年以上前の話だ。しかしな、魔族の本能というならば、人間を殺し、喰らう事も本能だとは思わぬか?」


「それは……認めたくありませんね」


「人が獣を喰らうように、魔族は人間を喰らう……我が父デスビートの時代では当然の事だった……その時代の生き残りは、もうこの国に儂しかおらぬ。もう慣れてしまったがな、最初の頃は我慢するのが大変だった。部下たちもそうだったやもしれぬ」


「本能的に、美味いと感じるのですかね……」


「そうでもなかったよ……だがな、時々考えるのだ。不可侵条約を守り続ける事で、配下の者たちから大切なものを奪ってしまってはいないかとな……」


「肯定も否定も難しいですが、俺は現在の魔王国を素晴らしい国だと思いましたよ……少なくとも、今日まで見た限りでは」


「英太よ、時間がない……話はここまでだ。続きはまたの機会にするとしよう」


「はい……え、時間って?」


「そろそろ夕食の準備をせねば、子供たちを待たせることになってしまう」


 自分たちの問題よりも子供たち優先か。やっぱりこの魔王は変わってるな。

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