表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

128/214

第百二十話 魔王の息子 前編

 魔王城の会議室に、続々と只者では無い魔物たちが集結していた。


 ゲーム製作者だった俺なら一目でわかる。


 リザードマン、ヴァンパイア、サキュバス、キマイラ、ケンタウロス、サイクロプス、ミノタウロス、バジリスク……その種族の頂点のような魔物たちばかりだ。


 独自の連絡網と転移魔法陣によって、招集から僅か10分程で魔王国の幹部たちが勢揃いしたようだ。なんと素晴らしい統率だろうか。


 ……と、唸ったその瞬間に、もう一人が転移してきた。派手なエフェクトに包まれ、真っ赤な貴族風のスーツを着こなす黄色い魔物だ。種族名は……なんだろう?


「やあやあ、遅れてすまなかったね!」


 人懐っこい笑顔の魔物は、そのまま空いていた席に腰を落とした。


 魔王が立ち上がる。


「急な召集に対応してくれて、ありがとう。先ずは儂の客人を紹介する。皆には報告が入っているとは思うが、改めて儂の方から紹介させてくれ。デベロ・ドラゴという国からやって来た『漆黒』の皆さんだ」


 魔王に促され、俺も立ち上がった。


「『デベロ・ドラゴ』国王の鏑木英太です。よろしくお願いします」


 俺に続いて、ゴレミ、ゴレオ、サーシャも挨拶をしたが、サーシャ・『ブランシャール』という名前に、数名が反応を示した。


 先代の魔王を倒した勇者の仲間、ハイエルフのダーリャ・ブランシャール。目の前に居るエルフの名前がブランシャールである事が、気にならない訳は無いだろう。


「既に伝えてある通り、彼らは客人であり、儂の護衛だ。彼らに過剰な干渉は不要だし、何かあるならば、儂を通してくれ」


「魔王様、宜しいでしょうか?」


 手を挙げたのは、先程の遅れて来た魔物だ。


「何だ?」


「皆、気になっていると思いますので。サーシャ様は、ハイエルフの家系のブランシャール一族でお間違え無いでしょうか?」


 こんなに真っ直ぐ質問するんだ……と感心した。良く見れば魔王と同じ羊のような角を生やしている。もしかして……


「そうだ」「そうです」


 魔王とサーシャの声が重なった。魔物たちは一様に顔を顰めたが、質問者である魔物だけは、表情ひとつ変えずに真っ直ぐサーシャを見つめていた。


 警戒されている。当然だ。しかし魔王の庇護下に居る限り、荒事にはならない安心感はある。


 ……でと、先代の魔王への忠誠心とか、辞めてくれよ。


「ありがとうございます。サーシャ様、魔王デスルーシが七男、カートでございます。以後お見知り置きを」


 やっぱり魔王の息子かよ……って事はお爺ちゃんの敵の孫ってことか?


 確かに、集まった魔物の中でも、特別な雰囲気を感じる。ブランシャールの名前に眉一つ動かさないのも納得だ。


「では本題に入るぞ……英太、先程の素材をここに」


 俺は言われるがままに、クリスタルを含めた全ての素材を取り出した。金銀だけではなく、アダマンタイトやオリハルコンまである。


 量も膨大だ。魔族の幹部たちも驚きを隠せないようだった。


「英太のスキルで、鉱山をひとつ丸々採掘したのだ。採取出来た素材がこれらだ。ここから英太への報酬として、4割を支払う事となる。異論は無いな?」


 魔王の決定に異を唱える者はいなかった。


「そこで儂からの命令だ……儂の客人を個人的に利用しようとする者がいた場合、問答無用で極刑に処す」


 いきなりの言葉に汗が出る。俺を拉致監禁して創造クリエイトさせようとする者への牽制だ。確かに、その発想は出るだろう。常に覚悟はしている。


「そしてもうひとつ。同じ報酬で鉱山の採掘を頼みたい者がいれば、ガリュムに申請してくれ。儂の方から英太に頼んでみる。その場合、採掘を生業にしていた人員に他の職を与えてやらねばならぬが、人手不足の業種も同時に提案するように頼む。儂からは以上だ」


 魔族の幹部たちは、それぞれに了承し、魔王に一礼をして去って行った。


 自己紹介も無しに居なくなってしまうのか……とも思ったが、魔王国としては普通なのかもしれない。


たった一人、魔王の息子であるカートだけがその場に残った。


「父上、早速ですが、私の領内にある鉱山の採掘を英太様にお願いしたいのですが」


 魔王はこの世の物とは思えないような冷たい顔で息子を見やり、言葉を吐いた。


「カートよ、仕事にあぶれた作業員に与える職を同時に提示しろと言った筈だ。儂の言葉を軽んじていると捉えてよいのだな?」


「いえ、滅相もありません。私が父上をどれだけ慕っているか……」


「では、言った通りの手順を踏め」


「承知しました。英太様、また改めてお願い申し上げます。是非我々の領土にもお越しください」


 カートは執事が如く、頭を下げる。


「カート、儂はガリュムを通せとも言ったぞ」


「はっ! 承知致しました!」


 カートは華麗な立ち居振る舞いで跪き、くるりと回転して転移魔法陣に飛び込んだ。


 ……なーんか、不安なキャラだな。


 容姿と立ち居振る舞いは完全に王族なんだけど、俺の嗅覚を刺激するものがある。ダメ坊ちゃんって感じがするな。魔王の話を聞いていないのもそうだが、注意されたという認識すらない感じ。


「サーシャ、ゴレミ、ゴレオ、英太を借りるぞ……バルゼ、至急ガリュムを皆の元に」


 魔王の言葉を受けて、護衛のバルゼが姿を現した。ずっと居たって事か? 気配なんて完全に無かったぞ……


「英太、二人だけで話がしたい」


 その声は、聞いた事の無い程にひりついたものだった。


☆★☆★☆★


「英太はサーシャを抱かぬのか?」


 ……どんな真剣な話が待っているのかと思ったら、一声目がこれだった。


 そうだ。この爺さん、ちょっとスケベ爺いの気があったんだった。


「無いですよ。サーシャはハイエルフなんで」


 魔王ならば事情を知っている可能性もある。どうとでも捉えられる言い回しで、理由を伝えた。


「では、抱きたいとは思わないのか?」


「……知らないんですか?」


「ハイエルフは種と共に、男の全生命力を子供に移すのだろう?」


「それが理由にはなませんか?」


「レベル200を越えれば、死なない可能性もあるぞ」


 この会話……タルトともしたよな? 魔王は知っててやっているのか?


「いや、俺は99でレベルがカンストしていて」


「アンカルディアは知っているか?」


 俺はアイテムボックスから、大魔導師アンカルディアの指輪を取り出した。


「この指輪の持ち主、勇者パーティーの一員ですよね?」


「ふん、やはり人間国の伝承は不確かだな」


「何がですか?」


「アンカルディアは、勇者パーティーの一員ではない。邪神討伐隊の一員だ」


 邪神討伐隊……グゥインが邪神か邪神の子供だと仮定して、それを討伐した? 封印した部隊ということか?


「……それって、違うんですか?」


「『勇者パーティー』は、我が父、魔王デスビートの討伐メンバーだ。始祖の勇者、拳聖レミ、大聖女クラスタ、大魔導師セイメイ、ハイエルフ・ダーリャ、ドワーフ王ベンティ、獣王ローズ、フェアリー王女クイーンからなるパーティーだ」


「そうなんですか? なんか、人間国でも、国によって所々伝承が違うんですよね」


「『邪神討伐隊』は、先の8名を中心としているが、その中の4名を抜き、新たに2名を追加した6名だ。正確には配下の者も数多く戦闘に参加したがな」


「アンカルディアは、そっちのメンバーなんですね」


「そうだ」


「ちなみに、アンカルディアって、クソババアなんですか?」


「ふっ、誰が言った? あいつの性格は真っ直ぐ過ぎる程に真っ直ぐだ。ほんの少しの融通も効かぬのがたまに傷だ」


「そうなんですか」


「何故そのような質問をした?」


「アンカルディアにレベル上限を解放して貰ったというルーフってフェンリルが、ずっとクソババアと連呼していて」


「……まさに、儂が英太に薦めようとしていたのが、その上限解放だ……確かに、アンカルディアなら、相応の代償を要求するだろうな。フェンリルは大切な何かを奪われたのかもしれない」


「呪いの効果でその内容を他言出来ないらしくて、俺たちも中身を知らないんですよ」


「……まさか」


「心当たりあるんですか?」


「いや、可能性の話だ。フェンリルに影響が出るといかん。余計な言及は避けておこう」


 魔王の反応は明らかにおかしい。良くない事で間違いなさそうだ。


「用事って、この話だけですか?」


「いや、本題はこっちだ……儂の息子、カートをどう思った?」


 ……やっぱりね。答えにくいことこの上ないな……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ