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第百十八話 護衛のお仕事

 ホワイトだ……実にホワイトだ……


 無限に創造クリエイトを強要されるデベロ・ドラゴとは違い、魔王国の労働環境は実にホワイトなものだった。


 魔王には既に魔王国最強の護衛がいた。


 俺たちが担うのは、あくまでも追加の護衛。9時17時のシフト制だ。給与は無いがカード使い放題。勤務は2日1回……正直、魔王国に夢中だよ。


「夕食は客人として付き合って貰うぞ。もちろん、外で用事がある場合はそちらを優先して構わない」


 魔王さま……貴方に着いていきます!!


 ……という事だったので、初日の護衛は4人全員で受け持つ事になった。色々と覚えなきゃならない事もありそうだし、最初はこれでいい。


 驚くべき事に、魔王の護衛はたったの一人だった。


 しかし、その護衛がヤバい。鑑定結果からお見せしよう。


名前:バルゼ・グラウス

年齢:31

種族:デーモン

称号:魔王の護衛/魔王国最強戦士

職業:戦士

レベル:192(次のレベルまで8270,400EXP)

HP:426,500 / 426,500

MP:198,000 / 198,000


基本能力

筋力:SSS

敏捷:SSS

知力:S

精神:S

耐久:SSS

幸運:D-


スキル

• 武器術Lv.10

• 格闘Lv.10

• 隠密Lv.9

• 闘気Lv.9

• 魔力操作Lv.3

• 威圧Lv.9



 本人曰く、魔王の次に強いらしいのだが……正直、魔王よりも能力は高い。まあ、魔王は全盛期ではないようだから仕方ないのだが。


 魔王がゴレミと闘った時に、何かしらの奥の手を出していない可能性もある……というか、その可能性は高いと思っている。


 そうでなければ、実力至上主義の魔王国を統べる事は出来ないだころうし、単体で勇者ごとフレイマを更地にも出来ないだろう。


「今日は魔王国の視察に向かう。わからない事があったら、儂かバルゼに聞け」


 魔王デスルーシは、そう言って小さな結界を貼った。そして、結界内にいる全員を瞬時に転移させた。


 今まで出会った転移魔法の使い手は、身体を触れ合っている者しか転移出来なかった。魔王の転移魔法は一段階上の様だ。


 転移した先は魔王城の城下町のようだった。


 所謂魔王国のイメージとは違い、人間国とさ程変わらぬ様相の街並み。


 唯一の違いといえば、その雲の色だ。


 暮らす魔物がすべからく高濃度の魔素を発している。それが大気中に流れて、空の色を紺色に染め上げていた。


「紺色の雲って、不思議な光景ですね」サーシャが言った。


「ああ、魔素が原因だったとはな」


 ゲームの世界で表現される魔王国は、紫や濃紺の空に支配されている場合が多い。


「それ以外は、人間国と何ら変わりはありませんね」ゴレミが言った。


「不可侵とは言っても、王族は定期的に連絡を取り合っていたからな」


 魔王の言葉に、サーシャが反応する。


「私の祖母ともですか?」


「すまない。エルフ王国とは完全に国交を断絶していたんだ。ダーリャがどうしても首を縦に振らなくてな」


「そうなんですか」


「エルフ王国だけに限った事ではない。基本的に各国の窓口となっていたのは人間国だ。七大国それぞれが、一カ国を受け持って、それを共有していたようだ」


「魔王国を受け持っていたのは、フレイマですか?」


「そうだ。軍事力は人間国でも群を抜いていたからな」


 それを魔王は一人で滅ぼした……


 いや、違うな。ギルマスの話では、勇者であり、王子のグレアル・フレイマが国を滅ぼそうとして、魔王デスルーシがそれを止めに来た。


 結果として、勇者と王都を壊滅させてしまった。


「さあ、最初の訪問先はここだ」


 魔王が指さしたのは、小学校……のような建物だ。


「ここは?」


「魔王が個人的に運営する孤児院です」バルゼが言った。


 孤児院の運営って、タルトと同じじゃないか。親子だなぁ。


 孤児院の扉が開く。中には文字を学ぶ魔物の子どもたちの姿があった。真剣な表情で黒板を見詰める子供たち。


 教師の魔物が、魔王の存在に気付いた。


 その瞬間だ……


「まーくん!」


 という絶叫と共に、子供たちが魔王に駆け寄って来る。両手両足を子供たちに掴まれた魔王は、幸せそうな顔を覗かせる。


「まーくん?」


「魔王様のあだ名です。当初は御自身の立場を隠しておられたのですが、魔物の口に扉は立てられず、このような状態になりました」


 説明するバルゼも魔王同様に微笑んでいる。


「随分人気者なんですね」


「魔王様はお優しいですから。周囲への警戒は私一人でも充分です。皆さまは魔王様とご一緒に孤児院を視察なさってください。魔王国を深く知れると思います」


 そう言って、バルゼは姿を消してしまった。完全に気配が消えている……最強戦士の隠密能力恐るべし。


「なんだか、想像していたのと違いますね」ゴレオが言った。


「そうだな。ただの人の良い爺さんだ」


「国王として考えると、国民との距離が近すぎる気もします。我々に対するアピールかもしれません」


 ゴレミは警戒していたが、俺たちにアピールする理由も見当たらない。それに、国民全員と五分の盃を交わそうとしていたヤバい国王を俺は知っている。


「ねぇねぇ、お姉ちゃんたちは、魔族じゃないよね? 何で魔王国にいるの?」


「魔王様と一緒に色々なところを見回ってるの」


 気付くと、サーシャが子供たちに囲まれていた。うちのハイエルフはいつだって人気者だな。


「ねえ、ゴーレムのおじちゃん、一緒に遊ぼうよ」


 生まれたてのゴレオがおじちゃん扱いされていた。ゴレオは困ったようにゴレミの顔を見た。


「本来ならお勉強の時間のようです。魔王の訪問で少し賑わっていますが、すぐに授業に戻るでしょう。教室に戻しましょう」


「うっせー! ブース! ババア! ブース!」


 ゴレミの真っ当な意見に、魔物の子供が反旗を翻した。ったく、どの種族にも悪ガキは居るんだな……


 走り去る子供の背に、強烈な威圧が降り注ぐ。


「ゴレミ!?」


「英太さま、やはり魔族とわかりあうのは時間がかかりそうですね。グゥインさまに頂いたこの身体を……ブッ……ブスなどと……」


 ゴレミは闘気を出す以外の事は何もしていないが、魔物の子供は怯えて、震え出してしまった。


「ゴレミ、怖がってるから……それくらいにしな」


「いえ、子供はしっかり教育しなければならないと、マリィから伺っております。ここは、私なりの教育を施さねばなりません」


 ゴフッ!! という音が響いた。ゴレミは闘気の放出だけで地面を抉っていた。子供を丁寧に避けてはいたが、相当怖いだろう。


「そこらへんにせぬか」


 魔王がゴレミの頭をコツンと叩いた。瞬間、ゴレミの闘気が薄れる。


「子供の言うことだ、本気で捉えるな。其方がブスな訳があるまい。そうだよな、英太」


「ああ、そうだよ。めちゃくちゃ可愛いって」


「うむ、すぐにでも側室にしたいくらいだぞ」


 側室!? 


「昨夜も言いましたが、私はグゥインさま以外に仕える事はありません」


「ならば、自由恋愛ならどうだ? こんな死にかけの爺は嫌か?」


 おい、魔王よ! ついでみたいに口説くなよ。


「……いえ、特に嫌悪感は御座いません」


 えー、ゴレミったら、そんな感じなのか? 確かに人の営みは勉強中だもんな。


「くわっはっはっはっはぁ!! では、それは後ほどの楽しみにしよう。まずは、ボルト、お姉ちゃんに謝るのだ」


 先程の子供がヨロヨロとゴレミの前にやって来る。ビビっているのが、手に取るようにわかる。


「お姉ちゃん、ごめんなさい」


「いえ、私も大人げありませんでした。許してください」


 魔王仲介の元、ゴレミと子供は無事に仲直りを果たした。


 その時、サーシャは子供たちに混ざって、フルテンションで鬼ごっこをしていた。


 サーシャ、負けたく無いのは分かるけど、ドライアドで捕獲するのは卑怯だよ。


 魔王国での鬼ごっこが、オーガごっこと呼ばれている事、この孤児院でのそれが、ゴレミごっこに変わっていく事……


 俺たちはその事実を、まだ知らない。

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