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第百十七話 護衛部隊『漆黒』

 俺たちは、滞在予定の一ヶ月限定で『魔王の護衛』という職に就く事になった。その条件は事のほか悪く無い。


1.魔王国に居る間の身分の保証。魔王の客人として扱われ、配下の者が過度に干渉する事はない。


2.デベロ・ドラゴへの移住者を募る許可。応援はしないが、募集に制限は加えない。


3.家畜として育てられている『魔獣』の譲渡。種類と数は未定だが、500匹前後を予定。


4.四人のうち二人は、毎日9時から17時まで魔王と共に行動する。それ以外の二人は自由にしていて構わない。


5.報酬として、魔王国に伝わる魔道具を3品譲渡する。譲渡可能な魔道具リストは後日提示。


6.魔王国に滞在中の生活費は全て国が負担する。自由に使える貨幣代わりの魔導カードを各個人に配布する。


 というものだった。


「サーシャ、無駄遣いするなよ。誰が何に使ったかは、儂のところに届くからな」


「はい! わかりました!」


 まるで孫にくびったけの爺さんの絵面だ。一番無駄遣いの可能性が高いハイエルフに釘を刺すとは、さすが魔王だ。


「魔王国からの干渉は無いと言っても、そもそも魔王が狙われているからこその護衛なんですよね?」


「儂の子供たちが暗殺された事は知っているか?」


「噂程度ですが……子供たちが何歳かも、何人かも知りません」


「子供は8人いたが、そのうち6人は暗殺された」


 暗殺率の高さたるや……魔王国では普通の事なのか?


「残りは2人……後継者争いが原因なら……」


 犯人はそのどちらかだろ。と言うのはギリギリ飲み込んだ。そんな事は魔王もわかっているだろうし、他人から言われて気分の良いものでもない。


「1人は幼い頃に死んでしまってな。後継者は実質一人だ……奴も何度も暗殺されかけているという報告もある……ゴレミが魔王になってくれたら話は早かったんだがな。ぐわっはっはっはぁ!」


 魔王は豪快に笑った。魔王ジョークは笑えないですって……死んだとされる子供は、十中八九タルトだろう。


「魔王も暗殺される可能性がある、ということですか?」


「可能性はあるな」


「では、護衛そのものは、特別な誰かを対象にしたものではないという事ですかね?」


「そうだったが、其方らをここに転移させた結界師は、少々厄介そうだ」


 魔王、勘がいいですね。


「わざわざ結界魔法に長けた儂の部屋に転移をさせるとはな、交戦的とも捉えられる。そのタルトとやらは、儂と其方らを交戦させたかったのか、引き合わせたかったのか……英太はどちらだと思う?」


 ……復讐するなら交戦だろうけど……復讐って自分でしたいものだよな?


 ましてや、サーシャが危険な目に遭うような事をタルトがするとは思えないし。


「どちらもあり得ないと思います。偶然って事はあり得ないですか?」


「其奴が『デベロ・ドラゴ』という国の存在を知っていて、結界を広げたのなら、偶然はあり得ないな……結界師としての能力も儂に匹敵するだろう」


「タルトは結界師ではなく、冒険者でしたよ」


 サーシャはワインを飲みながら言った。お酒デビューがつい最近とは思えないような優雅な飲みっぷりだ。なんというか、絵画のように美しい。


「結界師ではなく、冒険者の所業だとするなら、勇者クラスの力を持つという事だな……人間国の勇者は、儂と闘ったグレアル・フレイマが最強で、他の者は全員合わせて、ようやくグレアルに並ぶ程度だ……勇者以外の強者など考えられぬ……と、つい先刻まではそう思っていた」


「私は魔法自体が使えませんよ」


 魔王以上の強さを持つゴレミは、平然とワインを飲み干していた。


「時代が変わり始めているのか、儂が老いぼれてしまったのかはわからぬが……儂の想像を超える何かが起こり始めているのだろうな」


「そうなんですかね」


 想像を超える何か……


 俺が15歳のレベル1で『死の大地』に居た事も解決していない謎のひとつだ。想像を超える何かに導かれて、なのだろうか?


「其方らに部屋を用意する。部屋は4人一緒にするか? 個室にするか?」


「4人一緒がいいです!」と言ったのはサーシャだった。


 確かに、一緒にいた方が安心だ。


「では、そうしよう。ガリュム」


 魔王が呼ぶと、フッと執事らしきバンパイアが姿を現した。


「ガリュムだ。魔王国に居る間、其方らの世話をする」


「執事のガリュム・ノストラフゥで御座います。以後お見知り置きを」


☆★☆★☆★


 ガリュムに連れられて、俺たちが滞在する客間へと案内された。充分な広さのその部屋には風呂とトイレも設置されており、俺たちの待遇の良さが伺えた。


「毎朝10時にメイドがベッドメイキングに参ります。同じ者を来させますが、念の為に鑑定魔法で確認してください。私めの事も、出される食事も、全て鑑定する事をお勧めします」


「やはり、それくらい危険という事ですか?」


「いえ、基本的には安全極まりないですよ。魔王の寝室に賊が入り込んだ事など、この2,000年で一度も御座いませんでしたし」


 ……あ、ちょっと嫌味入ってるか?


「俺たちは、自分たちに危害を加えようとされない限りは、何もしませんよ」


「貴方様方を疑うつもりはありません。しかし転移させた結界師は別です。想定外の事を想定せざるを得なくなった……という事ですね。私達だけではなく、貴方様方にも警戒を強めていただきたい。全ての魔物に許可なく鑑定魔法をかけて頂いて結構ですので」


「魔王の従者に魔法を使って構わないと?」


「攻撃魔法や隷属魔法は駄目ですよ。我々は魔王の許可なく反撃出来ませんので」


「なら遠慮なく《鑑定》」



名前:ガリュム・ノスフラトゥ

年齢:不明

種族:ヴァンパイア

称号:魔王の執事/血の忠臣

職業:執事

レベル:58(次のレベルまで41,300EXP)

HP:9,000 / 9,000

MP:12,500 / 12,500


基本能力

筋力:E

敏捷:C

知力:A

精神:A

耐久:E+

幸運:D


スキル

• 剣術Lv.5

• 吸血Lv.4

• 闇魔法Lv.4

• 影移動Lv.3

• 執務Lv.5

• 威圧Lv.2



 魔王やゴレミのステータスと比べると見劣りはするが……まぁ、強いな。


「ガリュムさんは、魔族の中でも上積みですよね?」


「ええ、魔王直下の魔物ですから」


「こんなに強い人がゴロゴロしてるのかと焦りましたよ」


「私は魔王国で200位程の強さです。それをゴロゴロというならば、ゴロゴロおりますよ」


 それは充分ゴロゴロですよ。


「人間とエルフの姿は、隠蔽魔法で変えておきますか?」


「魔王様からのご指示はありましたか?」


「いえ、特には」


「ではそのままで結構です。客人として扱われますので、御心配は無用です」


 でも、街ブラ中に下級の魔物に襲われたりしないかな? 色々と面倒なんだよな。


 最後にもうひとつ、確認しておきたい事があった。俺は心の中で《交渉》と唱える。


「ひとつ聞いてもいいですか?」


「はい」


「俺たちをここに転移させた結界師……タルト・ナービスに心当たりはありますか?」


 ガリュムは薄く微笑んだ。


「いえ、そんな大馬鹿者、想像も付きません」


☆★☆★☆★


「英太さん、タルトは魔王を殺そうとしているんですか?」


 ガリュムが去ってすぐ、サーシャは真っ先にそれを口にした。魔王城の中で効果があるのかはわからないが《音声遮断魔法ノイキャン》をかけて、会話を続ける。


「殺す……みたいな物騒な事は言ってなかったが、腹に抱えるものはありそうだった」


 嘘は言っていない。タルトは復讐といっていた。


「英太さんは、本当に転移先が魔王城だとは知らなかったんですか?」


「知ってたら伝えてるよ」


「そうですよね」


「明日からはどうしましょうか? 護衛は二人だけですし、基本的に私とゴレオが受け持って、英太さまとサーシャさまは、魔王国の視察を行っていただきますか?」ゴレミはそう提案した。


「俺、頑張ります!」ゴレオも気合い充分だ。


「そうだな、落ち着いたらそうしよう。俺も魔王の護衛に興味はあるし、当面は全員で順番に担当しよう」


 魔王の警護という視点からすると、一番警戒しなければならないのは、やはりタルトになるのか?


 護衛の組み合わせは、俺、サーシャ組と、ゴレミ、ゴレオ組に分かれる事になった。


 戦闘力の順番でいうと、ゴレミ>>>>>>>>>>>>英太>サーシャ>>>ゴレオの順になる。


 サーシャは依然として攻撃出来ないままだったが、護衛という点ではドライアドの力は優秀過ぎる。エルフである事を隠さなくて良い状況なら、精霊の力は使い放題だ。


 ゴレオは現在の能力こそ、まだまだだが、人間国に行った時点のゴレミと同等の力はある。伸び代がゴレミと同等と考えると、末恐ろしい存在だ。


 ゴレミに関しては、もう一人でよくないですか? ってレベルだ。


 変に組み合わせを入れ替えず、一日交代で交互に護衛にあたる事に決めた。

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