第百十五話 妾は『漆黒』を迎えるのじゃ!
リーナの妊娠によって、家畜の世話係を変更せねばならぬ事になった。当然のようにギルマスが手を上げたが、既に多忙を極めておる。他の者に任せる事にした。
手を上げたのは3人じゃった。
冒険を取り上げられた『元勇者』マリヤ。
ダンジョン攻略もひと段落した、スライムのアイラ。
同じくオークのラブランじゃ。
まず最初にマリヤが脱落した。審査員のマリィからの「任せられない」という寸評に憤慨しておったが、妾としても同意見じゃ。
作業の多くはゴーレムが担当する。その管理をするだけなので、ダンジョン攻略班でも問題無かろう。問題は、ラブランとアイラのどちらがそれを担うかじゃったが……
一対一の様相になった途端、ラブランが立候補を取り下げた。
「アイラと争ったら、いつまで経っても責められ続けるから」
ラブランの辞退理由は、幼き頃からの経験によるものじゃった。
「でも、アイラは適任ですよ。生活魔法も使えるし、水魔法も使える。本当の意味での優しさがある、ちゃんと責任感もあるから……」
リンガーの言葉にラブランが反発した。
「俺だってあるよ」
「知ってるよ。でも、ラブランは家畜の生命をいただく覚悟あるの?」
「……あるよ」
そうじゃ、鶏と乳牛とは違い、豚は食用として育てておるのじゃ。今はまだ繁殖のみを考えておったが、近い将来、その日は訪れる。
「私は平気だよ。責任持って家畜を育ててみせる」
アイラの覚悟は見事じゃった。此奴になら、妾の国の大事な家畜を任せる事が出来るというものじゃ。
☆★☆★☆★
ついに満月の夜となった。あと数時間で結界が開く。
英太たちは第二区画の隙間から現れるじゃろうが、今回は総出での出迎えとはいかんかった。
子を孕んだリーナは、体調を考えて宿に待機させた。側には僧侶のリンガーがついておる。
六芒星の各区画の先端には、それぞれ20体のゴーレムを配備した。結界の隙間の大きさと位置を掌握して、侵入者を管理する為の関所を建設するのじゃ。
ギルマス、マリィ、ルーフは人間国に向かう。商業ギルドに向かい、法に関する書物を買い漁って来るそうじゃ。
サーシャがおらぬから、隠蔽魔法が使えない。指名手配犯のギルマスと大聖女は変装をしていたが、ルーフもおるし、転移魔法もある。見つかったとしても二人なら問題なく対応出来るじゃろう。
その他のメンバーで、英太たちを出迎える。
「邪魔者が居ないから、ワクワクなんだよ」
アドちゃんは、ルーフ不在を喜んでおったが、ルーフはアドちゃんに友好的じゃ。仲良くしないといけないという指示を忠実に守っておる。なんと賢いフェンリルじゃ。反面ドライアドと来たら……本当、欲望に忠実な奴じゃ。
月がまん丸に光っておる。最大限に結界の隙間が開く時じゃ……第二区画の結界の隙間は、小指程に開いておった。前回も時間差があったようじゃ……次期に大きくなるじゃろう。
そこにゴレバルドがやって来た。
「グゥイン様、無事にギルマス様、マリィ様、ルーフ様が人間国に向かわれました」
「あいわかった! 結界の隙間に関しては変わらぬ様子か?」
「はい。目立った変化は御座いません」
「転移魔法があるから問題なかろうが、時間勝負じゃな」
妾たちは第二区画の結界が開くのを待ったが、隙間の大きさは一向に変わらんかった。
「だよ。もしかしたら……第二区画の結界はこれ以上開かないかもしれないんだよ」
「何故じゃ?」
「前回のアレは、誰かが無理矢理結界を開いたんだよ」
「タルトだ」アイラが言った。
「そのタルトが結界を調整しない限り、隙間はこれ以上開かないんだよ」
「タルトとやらは魔王国におるのではないのか?」
「タルトには目的があったから。無事に達成したとしても、タルト自身が無事とは限らないよ」ラブランが言った。
「では、英太たちは戻って来られぬという事か?」
「だよ。第一区画を経由してくるか、一ヶ月では戻れない状況になっている可能性もあるんだよ……とりあえず、待つしかないんだよ」
☆★☆★☆★
待って、待って、待ちくたびれた……
夜が更けて来た事もあり、マリヤは家に帰す事にした。ちょうどその時にギルマスたちが第二区画に転移をして来た。
ルウィネスという国の商業ギルドから、法に関する書物だけではなく、裏のルートでしか手に入らない様々な物を仕入れて来たのだという。
普段なら楽しくて仕方ない報告じゃったが、妾の心は沈んでおった。もう第一区画の結界も、人が通れぬ程に縮み切っておる。
ギルマスたちと別れ、各区画に散っておったゴーレムたちから、結界についての報告が入った。
各区画共に、第二区画と同様の小指程の隙間が発生しているようじゃった。それは、サーシャが通り抜けて来た第五区画も同様で、人が通り抜けられる程のものにはなっておらぬ様じゃった。
妾は、ゴレンヌ以外のゴーレムを持ち場へと戻した。妾は待ち続ける。結界が完全に閉じるまで、何日であろうとも。
いつの間にか、ラブランとアイラが眠りこけておった。アドちゃんもサーシャの夢を見ているようじゃった。夜は終わり、灰色の空に太陽が昇り始めた。
英太たちの姿はない。
結界の隙間が少しずつ縮んでいるのがわかった。触れて、無理矢理にでも広げてやりたかったが、妾が触れると何が起こるかわからぬ。ただ見守る事しか出来なんだ。
その時、結界の隙間から、筒の様なものが滑り落ちた。細い細い、小指程に丸まった何かじゃ。そして、それを受け取ると同時にら第二区画に開いておった結界の隙間は閉じてしまった。
妾はその丸められたものに手を伸ばす。それはどうやら、手紙のようじゃった。
【グゥインへ
少し遅くなる。
サーシャはエルフ王国に戻った。
移民を沢山連れて行く。
楽しみに待ってて。 英太】
……英太の奴め……毎度毎度楽しませてくれるわ。
少しとはどれくらいなのじゃろうか?
サーシャはエルフ王国に留まるのじゃろうか?
移民は魔物なのか、エルフなのか……はたまた他の種族なのか……
とりあえず、英太が無事なようで安心じゃ……
どれどれ、英太が戻るまでに何が出来るかのぅ……
妾の国創りは始まったばかりじゃ……
第四章完結です。
明日は幕間の物語、『時をかけるドライアド』を投稿します。
人物の追加がほぼ無いので、設定資料はその他編のみ投稿します。
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3日後から第五章『老いぼれし大魔王』を投稿します。よろしくお願い申し上げます。