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第百十四話 妾は楽しく生きておるのじゃ!

 英太たちが旅立ってから、一ヶ月が経とうとしておった。今回の一ヶ月は、慌ただしく過ぎ去った。新たな友達と、国を創り上げるという楽しみに満ちたひと月じゃった。


 そんな中、楽しくない事が起こった。


 病じゃ。


 宿屋のリーナが病に伏せてしまったのじゃ。


 昨日まで平気な顔をしておったのに、急に吐き気を催して、寝込んでしまったのじゃ。


☆★☆★☆★


「どうするのじゃ? ギルマス、なんとかならぬのか? アドちゃん、なんとかならぬのか?」


「マリィが診てるから、いい加減落ち着け」


「だよ。ちょっと具合悪いだけで慌てすぎなんだよ」


「そうは言ってもだな……妾の統べる国で病が発症するとは……毒キノコの影響かのぅ」


「風評被害だよ! マナファンガスのお陰で魔素が増えたっていうのに……恩知らずな王様だよっ!」


 アドちゃんが急に暴れ出しよった。此奴は癇癪持ちじゃのぅ。


「喧嘩すんなよ。とにかくマリィを待て」


「何を騒いでいるんですか。リーナさん眠れないでしょう」


 ようやくマリィが戻って来よった。


「原因はわかったのか? マナファンガスの影響ではないのか?」


「違います。落ち着いて聞いてね……リーナさん、妊娠したみたいなの」


「妊娠……」


「本当か?」


「私も医療は専門じゃないけど、妊娠経験者ではあるから。たぶんそうだと思う」


「そりゃめでたいけど……そうか……」


 ギルマスとマリィは寂しそうに笑っていた。どうやら、お腹の子の父親は死んでしまっているようじゃった。


「リーナさんには伝えたのか?」


「本人もそうじゃないかって言ってた。まだわからないから、安静にしてて貰わないとね」


「リーナのところに行ってもよいか?」


 妾の言葉に、ギルマスは焦った素ぶりを見せる。


「いいけどよ……あんまり無茶はさせるなよ」


「させぬ。ただ話したいだけじゃ」


 妾は一人、リーナの部屋へと向かった。


「リーナ、体調はどうじゃ?」


「グゥインちゃん、おかげさまで。マリィさんが魔法をかけてくれたから」


 《状態異常回復魔法キュアヒール》かのぅ? さすがはマリィじゃ。


「子が出来たかもしれぬのじゃろう?」


「……うん。そうかもしれないって」


「皆、喜んで良いのかどうか迷っておった。妾は喜びたい。安静にして、元気な子を産んで欲しい」


「私に出来るかなぁ」


「其方なら出来る。この妾の友達なのじゃ、自信を持つが良い」


「本当に、可愛い王様ね」


「ふむ、可愛いは苦手じゃ」


「そうなの? どうして?」


「妾は雄でも雌でも無いからの」


「あら、そうだったの? 当然のように女の子だとばかり思ってたわ」


「じゃから、妾は子を孕む事が出来ぬ。ツバサという子はおるが、彼奴は英太やサーシャ、みんなで生み出した人造ドラゴンじゃ」


「そうだったのね」


 妾はリーナのお腹を撫でた。


「其方はデベロ・ドラゴで初めて産まれる人族の赤子じゃ……会えるのを楽しみにしておるぞ」


「……ありがとう」


「王命じゃ! リーナ、ゆっくり眠れ!」


 妾はリーナが眠りに就くまで、隣のベッドで寝転ぶ事にした。眠れぬだろうが、目を閉じて呼吸をする。しばらくすると、リーナの寝息が聞こえてきた。


☆★☆★☆★


 ギルマスたちの元に戻った妾は、リーナの番が何故死んでしまったのか、その理由を聞いた。


 アラミナという街で起こった人間国の諍い。


 悪いのは、暴動を起こした野盗たちではあるのじゃが、それを起こすきっかけを作ったのは、ギルマスであり、英太でもあった。


 ……つまり、発端は妾なのじゃ。


「いずれは起こった事だよ」


 ギルマスたちは否定したが、妾が英太たちを外の世界に出立させなければ、リーナの番が死ぬ事は無かった。


 妾は……久しぶりに一人になりたくなった。


 アドちゃんと共にツバサを見舞った後、2ヶ月ぶりに秘密の巣に向かった。


 以前とは違い、マナファンガスに占領された巣を掃除する。不気味なキノコじゃが、妾たちに魔素を供給してくれる大事なキノコじゃ。なるべくそのままにしておこう。


 ひとりぼっちで過ごして来た1,000年間とは大違いじゃ。ゴーレムたち、アドちゃん、ギルマス一家にリーナ、黒竜の牙たち……皆と共に過ごす毎日が楽しゅうて仕方がない。


 英太がもたらしてくれたものじゃ。サーシャも、ゴレミも、よく頑張ってくれた。


 しかし、楽しければ楽しい程に考えてしまうのじゃ。妾は邪神なのじゃ。確定はしておらぬが、限りなくクロなのじゃ……


 外の世界と繋がった時、妾を消し去ろうとする者も現れるやもしれぬ。


 ……そ奴らとの争いが起こったら、国民に危険が及ぶ可能性もある……じゃからゴーレムを鍛えておる。彼奴らは、妾の為に命を張ってくれるじゃろう。妾だって同様じゃ……国民の為にならば、この命……捨てても構わぬ……


「そんなことを言うたら、英太は怒るかの……」


 彼奴の前では口には出来ぬな。


 妾は産まれた時から邪神だったのじゃろうか? それとも、邪神になってしまったのじゃろうか?


 わからぬ。


 覚えておらぬ。


 怖いのぅ……


 この楽しい時間が、妾のせいで失われてしまうのが……本当に怖いのじゃ。


 泣いてしまいそうじゃ、炎を吹いてしまいそうじゃ。


 王として強くあらねばならぬのに、なんたることじゃろうか。


 その時……微かに音が聞こえた。


 何者かがこちらに駆け寄ってくる音じゃ。そこからは二つの大きな魔力が発されておった。これだけの魔力を放つのは、ルーフしかおるまい。そして、もうひとつは……


「グゥインー!! 何処行ったのー!? グゥインー!?」


 マリヤじゃ。彼奴は妾の捜索にかこつけて、ルーフに乗って遊んでおるのじゃろう。やれやれ、困った勇者様じゃのぅ……


「ここじゃ! マリヤよ、騒ぐでない」


「グゥイン!」


 マリヤはルーフの背に立ち、妾の巣まで跳んで来よった。なんたる跳躍力じゃ。


「グゥイン、心配したんだよ。みんな心配してるよ」


「心配をかける様なことはしておらぬぞ」


「何でもかんでも自分のせいにしないの! グゥインは邪神じゃないし、邪神だったとしても良い邪神だよ! 私は知ってるよ! 友達だもん!」


 矢継ぎ早に捲し立てよってからに……


「妾が邪神かも知れぬ事、其方らは知っていたのか?」


「知ってたよ。ここに来る前に英太が説明してくれたもん。大人だけじゃなくて、私にもちゃんと説明してくれたもん。みんな、英太を信じてここに来たんだし、今はグゥインを信じてるよ」


「……そうか、英太の奴はちゃんとしておるのぅ」


「我は説明を受けていない。英太は我を適当に扱っていたのだな!」


 ルーフは余計な事を言いよるな。


「其方なら言わなくても平気じゃろ? どうせサーシャがいれば何でも良いと言ったのじゃろう」


「その通りだ!」


「グゥイン、帰ろう。みんな待ってるよ。グゥインが帰ってくるまでご飯食べないつもりだよ。私、お腹ペコペコだよ」


「わかったわかった。しっかり捕まるが良い」


 妾はルーフとマリヤを抱えて、空高く飛んだ。マリィの作る晩御飯を食べる為に、帰宅するのじゃ。


 ああ、妾は今日も楽しく生きておる。

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