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第百二話 妾は『牙』を鍛えるのじゃ!

 宴の翌日、妾はリーナの宿を視察した。三人の魔物の様子を見る為じゃ。


 妾が部屋に到着したその時、ちょうどラブランがリンガーに《状態異常回復魔法キュアヒール》をかけられているところじゃった。


「あ、おはよう、グゥイン」


 スライムのアイラは昨日の酒など感じさせぬ素ぶりで、ぴょんぴょんと跳ねておった。


「おはようなのじゃ! 其方らは外の世界では上位ランクの冒険者だったのじゃろう?」


「パーティーとしてはそうだけど、ほとんどタルト一人の力だよ。俺たち三人だけだと、まぁCランク……いや、Dランクがいいところかな?」ラブランが言った。


「それは凄くないのか?」


「そりゃ、一般人を基準にすれば凄いっちゃ凄いけど、冒険者としては平均のちょい上程度かな」


「私たちって、低ランクの魔物だから、成長限界も低かったの。ダンジョンで白竜ホワイトドラゴンを倒した時にわかった。ああ、もう成長しないんだなぁ……って」


「そうか。でもそれは、レベルの話であろう?」


「ん? どういうこと?」


「スキルを鍛える余地はある。ということじゃ! 例えばアイラやリンガーは、新たな魔法を覚える事も出来るじゃろう?」


「うん。確かにそうだけど」


「ラブランにしたってそうじゃ。盾のスキルレベルが上がれば、いつか大切な人を護れるかもしれぬぞ」


「レミさんを護れるって事?」


「話が逸れそうじゃて、ゴレミの話は無しじゃ。じゃから、妾が其方らを鍛え直そうと思っての」


「グゥインが!?」


「え、ちょっと不安なんだけど」


 アイラとリンガーは、わかりやすく顔を歪めおった。


「大丈夫じゃ! 妾と一緒にダンジョンに挑戦するだけじゃ! とは言っても、基本的に妾は力を貸さぬ。其方らの戦いっぷりを見て助言するだけじゃ。其方らはらダンジョンを攻略しつつ、スキルを磨くが良い」


「なるほど……ダンジョンって、アラミナにあったダンジョンを移転したの?」


「そうじゃ。ダンジョンマスターの妾が設定を変えた。安心せよ、ギルマスと話し合って、低層は初心者でも進める仕様になっておる」


「なら、やってみたい!」リンガーが手を挙げた。


「そうだね。ちょっとでも強くなって、タルトに自慢してやるんだ」アイラも続く。


「俺は……」


「ゴレミの話は禁止じゃ」


 妾はラブランの長話しを元から止めて、三人をギルマスの家へと連れて行く。


「なんでギルマス?」


「転移魔法じゃない?」


「そうではない。其方らに仲間を紹介しようと思っての」


「仲間?」


 ギルマス宅で待ち構えておったのは、5歳児相当の小さな身体を持つゴーレム『ゴレア』じゃ。


「ゴーレム? 英太が作ったの?」


「そうじゃ。元々はマリヤの身代わりじゃったが、無事に帰還したそうでの。魔力の充填をすればまた動くのじゃ」


「え、じゃあ、あの時攫われたマリヤちゃんって……」


「此奴だそうじゃ」


 ピクリとも動かないゴーレムに、妾が魔力を流し込む。器を壊さぬように、慎重に……もうお手のものじゃ。


 魔力を充填されたゴレアは、子どもらしく欠伸をした。


「おはよう。あれ、パパとママは?」


「ギルマスとマリィのことか? ギルマスはおらぬが、マリィは台所じゃ」


「あなたたちは誰?」


「妾はグゥイン、この国の王じゃ」


「グゥイン……さま。失礼致しました。私は英太さまに作っていただいた……あれ? 名前……」


「知っておる。名をつけられぬままにマリヤの身代わりとして変身させられておったのであろう。其方の名前はゴレアとした。そう名乗るがよい」


「有り難き幸せ。このゴレア、粉土砕身の覚悟で仕えさせていただきます」


「うむ、でじゃ……此奴らとゴレアでパーティーを組んで、ダンジョンに入って貰いたくての。ダンジョンでゴーレムがどれだけ強くなるかの検証したいのじゃ」


「承知しました」


 ゴレアとラブランたちは、牽制するように様子を伺っておった。


「どうした? 其方らにとっても知らぬ仲ではないのだろう?」


「いや、そうだけど……お互い、姿かたちが全く別物だから」


「マリヤちゃんがゴーレムだったなんて、信じられないよ」


「……あの寝てた魔物、紅蓮の牙の皆さんだったんですか?」


「さあ、ダンジョンに向かおうぞ! 其方らは今日から『黒竜の牙』じゃ!」


☆★☆★☆★


 妾たちはダンジョンへと向かった。


 ラブランは自分たちの実力を低く見積もっておったが、なんのなんの、すいすいと30階層をクリアしていた。


「やるではないか!」


「いや、必死だよ」


「30階層でこの感じだったら、50階層が限界だろうね」


「うん。この辺で留まって、ゴレアのレベルを上げつつ、俺たちのスキルレベルも上げて行こう」


 ラブランの提案に皆が頷いた。妾がおるから、多少の無理は出来る筈なのじゃが、本人たちの決めた事が正解じゃろう。


 しかし、ゴレアのポテンシャルには驚かされる。ダンジョン出禁のマリヤから取り上げたブラックドラゴンソード改を与えたのじゃが、これを使いこなす使いこなす……牙の三人も剣士との連携が得意の様で、ゴレアを活かす戦い方を見せてくれておった。


 その後はひとつの階層に留まる時間を伸ばしつつ、一週間かけて、50階層をクリアした。その頃にはアイラの火属性魔法と、リンガーの聖属性魔法のスキルレベルが上がっていた。ゴレアはというと……


☆★☆★☆★


「ゴレアのレベルは18だ。HPは7,500で、MPも同じ……全ての能力がDまで上がってるよ」


 帰宅したゴレアを鑑定したギルマスは、呆れたようにそう言った。


「ほう……英太くらいになっているという事かの?」


「英太の真骨頂は創造クリエイトだからな。でも、あいつはレベルがカンストしてその数値だ。ゴレアは多分違う……レベルも数値も違うが、この能力のバランスの良さは……マリヤそっくりだ」


「マリヤと? どういうことじゃろうな?」


「隠蔽魔法を使い続けると、そういった事が起こり得る……って言っても、それは年単位で使用した場合だ。ゴレミが人化のスキルを手にした件もある。サーシャ嬢の隠蔽魔法には、想像を超える何かがあるんじゃねえかな」


「サーシャはハイエルフじゃからの。当然の事じゃ」


「よりによってマリヤかよ……っつーか、マリヤがあの強さになったのもなぁ……」


「何か問題でもあるのか?」


「……いや、いや……あるんだけどな……すまん。もう少し家族の問題にさせてくれ。グゥインにも英太にも迷惑はかけない」


「あいわかった! ギルマスを信じておるからな!」


 ゴレアはマリヤと共に勉学に励んでおった。何やら算数という数を司るものらしい。妾は当面は文字だけで充分じゃ。計算なるものは、英太に魔道具を作らせればよい!


「あれ……グゥインは算数やらないの? あ、マリヤに負けるからやらないのか……負けるのは嫌だものね。負けない為には戦わない方がいいものね。いいわ、ゴレア、私たちは勉強しましょ!」


 やれやれ、勇者マリヤめ……そんな安っぽい挑発に、高尚な妾が乗るわけが……あるのじゃあああああっ!!


 マリヤよ、妾の知性を舐めるでないぞっ! 掛け算など恐るるに足らずっ!! 割り算じゃとっ!?


 くぬぅっ……負けぬっ! ブラックドラゴンの誇りにかけて、妾は負けぬのじゃっ!

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