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第百八話 妾はダンジョンを創るのじゃ! 後編

 少し離れた場所から、ギルマスたちの闘いを見守り続けた。多種多様な魔物が現れ、『竜狼の導き』……いや、『狼の導き』たちがそれらを楽しそうに退治しておった。


 妾は王じゃ! こんな事では拗ねないのじゃ! 


 でも、楽しそうじゃのぅ……


 ダンジョンマスターの前に魔物が現れない。その設定を変更出来るかどうかは、最上階に到達せねばわからない。ならばもう一度転移魔法を使えば良い……と、思ったのじゃが、そうも上手くいかぬようじゃった。ダンジョンの構造が変化したが故に、もう一度正規のルートを通らねばならぬそうじゃ。


 ならば妾を先頭にして登りきれば良いのじゃが、ギルマスは確認しながらの登頂を譲らなんだ。


 そうして、半日がかりでダンジョン攻略に至った。


「グゥインよ、そう拗ねるな!」ルーフが言う。


「何処を見ておる! 妾は拗ねてなどおらぬ!」


「拗ねているようにしか見えないぞ。ギルマスたちも気を遣って、攻略をかなり急いでいた。許してやれ」


「許すも何も、拗ねておらぬと言っておろうが」


「グゥインの感情は尻尾を見ればわかるからな。いつも浮いているが、今日はずっと引き摺っていたぞ」


 尻尾を振る癖は承知しておったが、浮いていないだけでも気分がわかるのか……気をつけねばならぬ。


「ふむ、王というものは、国民に一挙手一投足を見られているものじゃな」


「王様、お手を拝借」


 妾はギルマスに手を差し出した。妾の手が無ければダンジョンの設定を更新出来ぬのじゃ。


「うーん……ダンジョンマスターの前に魔物が登場しないって設定は無いな……」


「なにっ!? それでは妾はダンジョン攻略出来ぬのか?」


「特殊設定に『ダンジョンマスターもダンジョン攻略可能』って書き込んでみるよ。そんでもダメなら、英太をダンジョンマスターにするか、暫定的に俺がやるかだな」


「むう、ダンジョンマスターにもワクワクしたのじゃが……一度は攻略したいものじゃ」


「その時はまた変わればいいさ。この設定変更で上手く行くといいな」


「では、さっそくダンジョン攻略を……」


「ダメだ。ちょっと微調整がいる」


 ギルマスの隣で、何やらマリィが紙を広げておった。


「なんじゃ?」


「低層の魔物が強過ぎる。俺たちにとっては余裕だが、10階層まではFランク冒険者でも辿り着けるようにしたいからな」


「今だとDランク冒険者の4人パーティーでやっとなの」マリィが説明する。


「逆に70階層以降が弱すぎたな。Bランクパーティーでも100階まで制覇出来てしまう」ルーフも語る。


 後ろから眺めておった妾は、何にも気付かなんだ。何もわかっておらぬな。親になって、子を失って、成長したつもりになっておったが、戦闘力以外はあまりにも無力なままじゃ。


 妾はギルマスに手を貸したまま、マリィに告げた。


「なぁマリィ、妾にも文字を教えてはくれぬか? マリヤも学んでおるのじゃろう?」


「もちろん構いませんよ。マリヤも一緒に勉強する友達がいれば身が入るでしょうし」


「本当に、マリヤはおてんばさんでなぁ……勉強よりウルフさんたちと駆け回るのに夢中だよ」


「うむ、5歳であれだけウルフを乗りこなす少女は見た事がない!」


「妾は立派な王になりたいのじゃ。しっかり学ぶ故に、宜しく頼むぞ」


「もうっ!」


 何故かマリィが抱きついてきおった。マリィはサーシャと違ってあまり、もちもちが無い。しかし、その身体は柔らかく、暖かかった。


「なんじゃ? どうしたのじゃ?」


「失礼しました。とても可愛くて、愛らしくて、つい」


「可愛いはこそばゆいのじゃ」


「さて、設定は終わった。また更新して……一階に降りるか……」


「今日はこれくらいにしましょう。更新したらご飯にして、ちょっとお勉強しましょうか」


「良いのか!? 嬉しいのじゃ!!」


「夕飯後に勉強か。マリヤの嫌そうな顔が目に浮かぶぜ」


 妾たちはダンジョンを更新して、そのままギルマスの家に転移した。ルーフはウルフたちの元に戻り、リーナが作ったご飯を食べるそうじゃった。


 妾はマリィにご飯を作って貰う事にした。手際よく料理を作るマリィに見惚れておったら、ギルマスが不思議な事を言い出した。


「グゥイン、料理にも興味があるのか?」


「料理か。考えてみた事もなかったが、作ってみたいのじゃ」


 魔素があれば食事は必要無いし、肉は生で食しても問題ない。しかし、料理というものには興味がある。


「マリィよ、妾に料理も教えてくれ」


「あらあら、娘が出来たみたいで嬉しいわ」


「いるけどな、娘」


「あのおてんばさんは、まだウルフさんたちと遊んでいるのかしら?」


「第五区画まで行ったら、ウルフの脚でも一時間じゃ戻らないだろ」


「あなた、探して来てくれる?」


「そうだな」


 ギルマスが転移していく。妾はマリィから包丁の使い方を教わった。まな板を破壊せずに食材だけを切るのは難儀じゃった。妾は自らの指を切りつけてしまい、包丁を何本も壊してしまった。


「包丁の予備が無くなっちゃうから、切るのはまた今度勉強しましょう」


「すまぬ。英太が帰って来たら、沢山包丁を創造クリエイトして貰おう」


「そうですね。でも、リーナさんのところにもあるだろうから心配しないで。でも、もう壊しちゃダメよ」


「あいわかった! むっ……そうじゃ、ドラゴンソード改はどこじゃ? 彼奴なら妾の指も切り落とせるぞ」


「そんな危ない事言わないでよ」


「大丈夫じゃ、妾はペロペロすればすぐ傷を治せるでな」


「あら? 私も回復魔法は得意ですよ。奇遇ですね」


「奇遇じゃな。しかし、ドラゴンソード改が見当たらぬな。マリヤが持って行ったのかのぅ……」


 マリィは少し目を閉じて、包丁を置いた。


「グゥインちゃん、ルーフさんのところに行きましょう」


「なんじゃ?」


「とっても嫌な予感がするんです」


☆★☆★☆★


 妾たちはリーナの宿屋へと向かった。宿の中にはオーク肉を喰らう数匹の狼とルーフがおった。


「ねえ、狼さんたち、マリヤは知らない?」


「ガウガウ、ガウガウ」


 ウルフたちはマリィの言葉を理解して、ルーフに何かを告げた。


「うむ、三匹のウルフを連れて冒険に向かったそうだ」


「……それは、何処に?」


「ガウガウ、ガウガウ」


 またウルフたちがルーフに何かを告げる。


「うむ、『純白』というパーティー名を付けて、冒険に向かったそうだ」


「向かった先を聞いているの」


 マリィが覇気を放ち出した。既に行き先に気づいておるようじゃった。


「ガウガウ、クォーン」


 震える狼たちは、ルーフの耳元で囁いた。


「うむ、どうやらダンジョ……」


「グゥインちゃん! 急いでダンジョンに!」


 どうやら、勇者マリヤは三匹のウルフを従えてダンジョン攻略へと向かったようじゃった。

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