第百六話 妾はダンジョンを創るのじゃ! 前編
英太たちが魔王国へと旅立った翌日、妾たちはさっそく例の件に取り掛かる事にした。
そう! ダンジョンの作成じゃ!
「ずるいー! 私もダンジョン作りたいー!」
当然マリヤも参加したがったのじゃが、魔物の暴発も含めて何があるか分からぬ。マリヤはリーナの宿屋に預ける事になった。
参加メンバーは、妾、ギルマス、マリィ、ルーフの4人じゃ。
ギルマス曰く『4人で世界を滅亡させられる程のメンバー』じゃ。何かあったとて問題無いじゃろう。
先ずは英太が作った箱物の塔に入る。何をどのようにしたらこのようなものを想像出来るのかわからぬ。視線に入る全てが立派で、芸術的な造りじゃった。
「凄えな、英太の創造って奴は……こんな塔、見た事も聞いた事も無えぜ」
「他種族の国の古代建築でしょうか?」
ギルマスもマリィも塔の佇まいに感嘆しておった。かくいう妾も例外ではない。
「わからぬ。英太はこのような塔に入った事があるのかの?」
「いや、英太の口ぶりからすると、そんなことありえないんだがな」
ふむ、想像だけで作ったのか。妾の友達は本当に凄い奴じゃの。
妾たちは二階へと上がった。内装はほぼ同じじゃ。三階も四階もそうじゃった。
「なんじゃ、変わり映えせぬのぅ」
「いや、内部はダンジョンの異空間に変わるから、こだわり過ぎてるくらいだよ。充分すぎるって」
ギルマスはいつも英太をフォローするのう。国王への配慮が行き届いておる。
「では、妾は一足先に100階に向かうぞ。其方らはルーフと共に参れ」
「なんだと?」
驚くルーフの背にギルマスとマリィを乗せ、妾は翼を広げた。ダンジョン化しておらぬ故に、魔物も出現せぬ。妾抜きでも危険などあるまい。
階段を添うように飛行して、一気に最上階へと辿り着いた。最上階だけは少しばかり内装が違うようじゃ。祭壇のような物がある。
「ダンジョンコアを設置するに相応しい場所じゃな」
妾には悪気が無かった。本当に何となくじゃ……祭壇にダンジョンコアを置いてみたのじゃ……
その瞬間……ゴゴゴゴゴッ……という音が鳴り響く。塔の空気が一変し、祭壇の上に何やら文字のようなものが浮かび上がる……
むぅ……もしや、ダンジョン……出来上がってしもうたのか……?
妾は祭壇の上の文字を見る。
「読めぬ……」
痛恨の極みじゃった。
ギルマスたちの元へ向かおうか……いや、これ以上勝手に動くわけにはいかぬ。
……ダメじゃ! 何をどうすれば良くて、どうすると危険なのかがさっぱり分からぬ。
下の階への扉は閉ざされておる。妾の力であればこじ開けられるだろうが、無理に壊して外に出て何が起きるかわからぬ。
せめて文字が読めればいいのじゃが……
妾は文字を見る。『ゴレ』と『ス』だけは覚えておる。
無理じゃ! 全然わからぬっ!
妾は待つ事にした。ダンジョン化してしまったとしても、ルーフがいれば魔物など一捻りである事は間違いない。
ここで慌てふためくのが一番の愚策じゃ。妾は1000年以上何もせずに寝転んでおった経験がある。待つ事に苦はない。
……筈じゃったのに、全然待てぬっ!!
英太たちとの暮らしに慣れすぎてしまった。退屈で退屈で仕方ないのじゃ! 何時間経ったのじゃ!? 昼も夜もわからぬではないかっ!
もしや何日か経ったのではないか? 何故ギルマスたちは現れぬ!?
ついぞ扉を破壊しようとしたその時……よくやく扉が開いた。
「グゥイン、無事か?」
そこには、ボロボロになったギルマスたちの姿があった。
☆★☆★☆★
妾は急ぎ3人をペロペロした。
聖なる雫でみるみるうちに元気を取り戻して行く。回復した3人から聞こえたのは、感謝の言葉ではなく、強烈な説教じゃった。
「王様!! なんでダンジョンコアが祭壇に祀られてるんだよ! 勝手にダンジョン作るんじゃねー! いきなり目の前にブラックドラゴンが現れたんだぞ」
「全くだ! 我はクソババアの呪いを受けてから、初めて死を意識した!」
「私だってそうです。MPが枯渇したの、10年ぶりですよ」
どうやらこのダンジョンは、一定のレベルを超える侵入者に対しては、その強さに合った敵をボスとして排出するようじゃった。
妾抜きだとしても最強メンバーとなる3人。相対するボスには、最強種であるドラゴンの中でも、一際高尚なブラックドラゴンが選択されたようじゃ。
運が悪い事に妾の与えた『黒竜の友達』の称号が原因で、ルーフがドラゴンに対して弱体化してしまったそうなのじゃ。苦戦に次ぐ苦戦……マリィの聖属性魔法によって何とかブラックドラゴンを退治したという。
「その状態で妾に勝つとは、其方らもかなりやるのぅ……」
「ブラックドラゴンではあったが、グゥインとは雲泥だったよ」
「そうだ! 問題は、それが40階層の段階での出来事だった事だ!」
「次のボスも、その次のボスも、なんならフロアに出現する一般モンスターまでドラゴンになり始めたの」
「ふむ、それは……大変なのか?」
「ったりめーだろ! ドラゴンの恐ろしさったらもう……ん? なんだありゃ?」
ギルマスは祭壇の上に書かれている文字に気がついた。どうやらそこにはダンジョンの設定という文字が浮かび上がっていたらしい。
「……おいおい。まさか、グゥインがあの鬼畜設定を考えたのか?」
「違うっ! ……すまぬ、妾は文字が読めぬのじゃ……よって、ギルマスたちを待つ事にしたのじゃが……このような事になるとは思っておらなんだ……すまぬ」
「まあ、ダンジョンに入る前に説明しておけば良かったからな。俺たちに非がない訳じゃねぇ。まさか、勝手に祭壇にダンジョンコアを置くとは思わなかったがな」
「本当にすまぬ」
「わかりました。この話はおしまい。ダンジョン作成に移りましょう」
落ち込む妾を見兼ねたのか、マリィが助け舟を出してくれた。
「うむ、幸か不幸かレベルも大量に上昇したし……それに、滅多に見られぬものも見る事が出来た」
「滅多に見られぬもの?」
「罰だ! 教えてやらぬ!」
王に対しての口の聞き方では無かったが、責める訳にもいかんかった。そのうち教えてくれるじゃろう。ともかく、今はダンジョンじゃ。
「グゥイン、書いてある事を読み上げるぞ……」
ギルマスが読み上げたダンジョン作成の手順はこうじゃった。
1. ダンジョンマスターはグゥイン・鏑木。
2.ダンジョンの目的を設定せよ。
3.階層構造を決定せよ。
4.魔物配置を指定せよ。
5.ダンジョンのルールを決定せよ。
6.環境設定を決定せよ。
7.宝箱・報酬システムを設計せよ。
8.ボスモンスターの選定と配置を行え。
9.転移装置の設置を決定せよ。
10.ダンジョンコアの防御機構を設定せよ。
11.特殊ルールの追加を検討せよ。
12.決定後、ダンジョンを再起動せよ。
「って事だな。ダンジョンコアを祭壇に設置したグゥインがダンジョンマスターになっている。これはそのままでいいな……これ以外の設定は、現状アラミナにあったものが引き継がれているらしい」
「アラミナの時の設定はいかなるものだったのじゃ?」
「地獄だよ。英太たち加護持ちに対しては、ドラゴンばかりが出現するような最悪の設定さ」
再び国民たちの冷たい視線が妾を突き刺す。国王に向ける視線ではないぞ!
「とりあえず、今日は帰ろうや……マリヤも待っているし、回復したと言っても精神的にボロボロだ」
「そうですね。もう夜ですし」
「我も腹が減った! グゥイン、尻尾を差し出せ!」
妾の肉を喰らいたがるとは、流石はフェンリルじゃ。
ひとまず、本格的なダンジョン作成は明日に持ち越しとなった。