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第百五話 妾は『漆黒』を見送るのじゃ!

 英太たち『漆黒』を見送る為に、眠れる魔物たち3人を除いた全員が、第二区画に集結していた。


 『漆黒』とは……実に良い名を賜ったものじゃのぅ。誰がつけたでもなく、自然発生的についたものだそうじゃ。妾の鱗を使った装備を称したものじゃろう。


 漆黒は魔王国へと旅立つ。


 その事は、旅立つ者たちを除いては妾しか知らぬ。


 多くの魔族を連れ帰る事が出来れば、魔素を求める旅は終わりじゃ。それが出来ねば状況は苦しいものになるじゃろう。


 それとは別に、魔物との共存という課題もある。移民となった人間たちは、眠れる3人の魔物を受け入れておる。しかし、それは、3人が人間の姿で活動していた様を知っておるからじゃ。


 魔王国の魔物がやって来る事になったのなら、不安に思う事もあるじゃろう。


 妾は、全てを英太に託す。


「英太よ、吉報を待っておるぞ。じゃが、今度は妾が其方を驚かせる番じゃ。ギルマスたちの力を借りて、デベロ・ドラゴは更なる進化を遂げようぞ」


「期待してるよ。で、期待しててよ」


 小生意気な奴じゃ。それでこそ、妾の友達である。


 英太から預かったマジックバックには、その質量以上の重みを感じておる。英太が人間国で手に入れたほとんどを託して旅立つのじゃ。生かさぬ訳にはいくまい。


「さあ、行くぞ」


 英太の声と共にゴレオが結界へと飛び込んだ。まどまだ未熟な者ではあるが、必ずや英太の力になる事じゃろう。


 妾に一礼をしたゴレミが飛び込んでいく。ゴレミは強くなった。そのゴレミを英太が再構築した。隠蔽魔法で人間の姿になっておったゴレミは、魔法を使用した時と同じ姿に変化をした。スキル『人化』を手にしたゴレミは、どのように進化していくのか……妾は楽しみにしておるぞ。


「じゃあな、グゥイン!」


「頑張ってきます!」


「うむ! 気をつけるのだぞ、英太、サーシャ!」


 次に飛び込んだのは英太じゃ。


 妾は……


 何故じゃろう?


 何も達成しておらぬのに、涙が込み上げてきよる……英太と出会えて……このような状況になっておる……


 沢山の友達が出来た……グゥインと呼んでくれる者が増えた……


 英太よ……信じておるぞ!


 続け様に、サーシャが結界に飛び込んだ。


 妾にとって初めて出来た女性の友達じゃ。死の大地に広がる緑……自らを犠牲にしたバカ息子の誕生……サーシャに見せて貰った景色は忘れられぬ。


 エルフ王国に戻らねばならぬ筈なのに、デベロ・ドラゴの為に奔走してくれているサーシャには感謝しかない。


 最後に飛び込んだのは、妾と同等の力を持つフェンリルのルーフ。此奴がおれば魔王国など恐るるなら足らず……


 その時……バチバチィッ! と、弾ける音がした。


 ルーフの身体に電撃が走ったようじゃったが、当のルーフは電撃の属性持ちである。何事もなく平然としておった。


「ルーフ、大丈夫か!?」


「我には問題ない。どうやら、結界に仕掛けが施されていたようだ」


「仕掛けじゃと?」


「うむ、英太が突入すると同時に結界が閉じていく仕掛け。これは予想していた通りだった。しかし、我を対象とした結界が貼られていたようだ」


「ルーフだけを通さない結界ってことか?」ギルマスが睨みを効かせた。


「我はこの結界を一度体験している。アラミナのダンジョンで我を弾いたものと同じだ。この結界を作った者が誰か……わかった気がする」


「……タルトか」


「うむ。ダンジョンに結界が発生したのも疑問だった。ヒドラにそのような芸当は出来まい。とすると、あの場でそれを行えるのは、タルトだけだ」


「ルーフが結界を抜けると困るって訳か……単純に、強すぎるからか?」


「その可能性は高いな。タルトの目的を阻害する可能性があると言う事だろう」


「二人とも、分析は後回しじゃ! ルーフ抜きで魔王国に行かせるのは危険ではないのか? 誰か……ギルマスかマリィが共に向かうべきでは無いのか?」


 本当ならば妾が自ら行きたい。しかしそれは叶わぬ……結界は妾の身体を粉々にするじゃろう。


「その方が戦力的には安心だろうな」


 そう言ったギルマスは動こうとはしなかった。マリィも同様じゃった。


「グゥイン、私たちはね、英太さんからこの国を託されたの。『グゥインと一緒にデベロ・ドラゴを作り上げてください』ってね」マリィは言った。


「グゥインの友達を信じてやろうぜ。俺が行っても意味あるのか? って思うくらいに『漆黒』は強い」


「どうしてもって言うなら私が行こうか?」


 マリヤがドラゴンソード改を掲げる。マリヤよ、其方に冒険はまだ早い。


「わかった。信じるのじゃ……其方らは英太が魔王国に行くと知っておったのか?」


「確証はないけど、結界から漏れ出る魔素を考えればそりゃな」


「私たちも、元は冒険者ですから」


 二人は不適に微笑んだ。


「『星の導き』って言ったら、知らない者はいないくらいのパーティーだよ」リーナは大きな手振りで二人を讃える。


「半分は死んじまったけどな」


 ギルマスの視線の先にはマリヤがおった。そうじゃの……ここでギルマスに危険な目に遭わせる訳にはいかぬ……


 ゴーレムたちに関しても同じじゃ。死の大地から送り込まずとも、英太なら現地でゴーレムを創造クリエイト出来る。そ奴らがゴレミに近い成長をすれば……


「仕方あるまい。妾たちは、妾たちにしか出来ぬ事をするぞ」


「だよっ! グゥイン、ひとつ問題が発生だよ!」


「なんじゃ?」


「ルーフは大量の魔素を吸収するよ。グゥインのドラゴン形態と同じくらいだよ」


「我を責めるな、ドライアド。我は肉を喰らう事も出来る……グゥイン、すまぬが食糧を分け与えてくれ。ウルフたちと同量で構わぬ」


「あいわかった! しかし、国民であるルーフとアドちゃんに、妾からの命令じゃ! この一ヶ月で仲良くなるのじゃ! 喧嘩の絶えぬ国は望まぬ! 出来なければ、サーシャに叱って貰うぞっ!」


「だよっ!?」


「なんだとっ!?」


 二人はほぼ同じ反応をしておった。チョロいものじゃ。なんとか仲良くなってくれれば良いのじゃがのぅ……


「だよっ!? でも、仲の良さなんて不確かなものを誰が判別するんだよ? そんなの主観が入るんだよ?」


「そうであるっ!! デベロ・ドラゴは国民に優しい国にすべきだっ!」


「安心せよ。仲良くなったかどうかの判断はみんなで決める。もちろん精霊とウルフは抜きじゃ。ゴーレムも妾に追従するから控えよう。人間たちと目覚めた魔物、そして妾の全員が認めなければ、サーシャに冷たく叱ってもらう!」


 二人は予想以上におとなしくなった。サーシャの力は恐るべしじゃ。


 そうこうしておるうちに、結界は完全に閉ざされてしまった。英太、サーシャ、ゴレミ、ゴレオ……全てを託したぞ……

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