第百四話 妾は国民と触れ合うのじゃ!
移民組の皆は移住二日目にして精力的に働いておった。
ギルマス一家とリーナは、ゴーレムたちが整えた畑に英太が持ち帰った種を植え、ゴーレムたちが作った牧場に家畜たちの住まいを拵えた。
妾たちの視察を受けたギルマスは、興味深い事を口にしおった。なんと英太は人間国からダンジョンのコアなるものを持ち帰ったというのじゃ。
真っ先に国王に報告せぬとは、国王の片割れ失格じゃの!
「英太よ! 特大のダンジョンを創るのじゃ!」
妾の命令のもと、英太は島の北東部、第一区画と第二区画の間に100階建ての巨大な塔を創造した。
圧巻じゃった。妾の尻尾肉を喰らいながらとはいえ、このような大規模の創造が出来るようになったとは、英太も人間国で成長したのじゃな。
「この塔は勇者マリヤが制覇するわよ!」
そこには巨塔にも怯まぬ勇者の姿があった。
「では勇者様、お勉強の時間ですわよ。ダンジョン攻略には読み書きが出来ませんとね」
勇者マリヤは母マリィに抱き抱えられ、拉致されてしまった。幼いながら勇ましい奴じゃ。マリヤなら本当に勇者になれるかもしれぬの。
しかし、マリィはそれ以上に興味深い事を言っておった……文字の読み書きじゃ。
妾が字を書けぬ事を伝えると、英太は驚いた顔を見せた。妾程の知性を誇るブラックドラゴンが文字を書けぬとは、思いもせなんだのじゃろう。
妾もマリヤと共に学ぶ事を決めた。しかし……
「今日は英太と共に過ごすぞ!」
文字もダンジョンも興味深いが、今日は英太と遊びたいのじゃ!
それにしても、宿屋のリーナという女性は見どころのある奴じゃ。英太をわかっておる。
英太は無茶な要求に対して、嫌そうな顔をしながらも、なんだかんだと創造してくれる。それを見越して次から次へとお願いごとをする様は、他人のものとは思えんかった。
人間国にある『魔道具』というものにも興味を惹かれた。全て魔法で事足りるものではあったが、人間国の高貴な者は魔道具を好んで使用するようじゃ。
高貴な妾が使わぬ訳にはいかぬのじゃ!
英太が設置した魔道具は後ほどのお楽しみとして、次の場所へと向かう。
第五区画にも、新たな種が植えられていた。サーシャが持ち帰った果実は、アドちゃんの手によって精霊創樹に実を宿しておった。
「どういう仕組みなんだ?」
英太は不思議そうにしておる。果実が他の木に生命を宿すのは、珍しい事のようじゃ。
「僕は死の大地に根付いたドライアドだよ。この場所ではこれくらいお茶の子さいさいなんだよ」
アドちゃんはよくわからぬ言葉を使った。まるで英太のようじゃ。
「サーシャはどうしたのじゃ?」
「ルーフと一緒だよ。ウルフさんたちの家を作ってるよ」
「家ならば英太に任せればよい」
「だよ。ウルフの家なんて雨風凌げれば充分なんだよ。あんまり英太の手を煩わせてはならないんだよ」
アドちゃんの言葉に英太が勝ち誇ったような顔をしておる。まぁよい。今日の創造はダンジョンだけで許してやる。
妾たちはウルフの寝床を作っていたサーシャとルーフと合流し、王都へと戻った。まだ目覚めぬ国民の様子を見る為じゃ。
妾たちの自宅のすぐ隣に建てられた家で、ラブラン、リンガー、アイラの3人は眠っておった。否……眠っておったのは4人じゃった。
「ゴレミは本当に人間に近づいたのじゃな」
「理屈はわからないけど、隠蔽魔法の影響らしい」
「我も話には聞いた事がある。しかし、それは良い事ではない」ルーフが言った。
「ラブランが言ってた事だよね?」サーシャはルーフの首を弄っておる。
「うむ、ゴレミ程の身体的な強さがあればこそだろうな」
「逆に言うと、前例は無かったのか? 外の世界にもゴレミくらいの力を持つ奴はいるだろう?」
「いるにはいるだろうが……英太と我では認識にズレがあるかもしれないな」
「ズレ?」
「うむ、我が今まで出会って来た中で、最強の生物はグゥインだ」
「当然じゃ! 妾は唯一無二の存在じゃからのぅ」
「僅差で我が二番目だな。それ以外の生命体だと……魔王デスルーシだ。我の足元にも及ばぬが、三番目に強いだろうな。続くのはショウグン・トクガワだ」
ショウグン? はて、聞き覚えがあるの……
「ギルマスが? 鑑定した時は俺より弱かったけど」
「それは鬼の手を取り戻す前の話だろうな。ショウグン・トクガワは単体で魔王に匹敵する戦力を持っている。世界で四番目の強さだ」
「ふむ、つまりは……ルーフとギルマスの2人がかりであれば、妾に匹敵するということかの?」
「単純な足し算は適応されない。グゥインと我の戦力値は僅かな差だが、10,000回戦って一度勝てるかどうかだろう」
「ふむ、ルーフよ! 気に入った! 友達の称号を与える!」
「……称号のせいで、我の勝てる確率は限りなくゼロになってしまったな」
どうやら、妾の称号を待つとドラゴンに対して弱体化してしまうようじゃった。ゴレミはそれに苦しめられ、人間国では苦労したようじゃった。
「すまぬのぅ……妾のせいで」
「ゴレミちゃんは、誇りに思ってましたよ」サーシャは妾の頭を撫でておる。
「それで、ゴレミの強さはどの辺なんだ?」
「続くのは、現在存命の5人の勇者と、タルト・ナービスだ。ゴレミはその中に割って入る。まだ見ぬ強者も多いだろうが……まあ、世界20位を争うくらいだろうな」
「……それは凄いな」
「それくらい凄い者が、長期間隠蔽魔法で姿を変えていた例を我は知らぬ」
「ゴレミちゃん、この姿を気に入ってましたからね」
「とても可愛いしの……人間になれると良いのぅ」
「副作用が無ければいいんだけど」
妾たちはゴレミの未来に想いを馳せた。魔物の3人とゴレミはその後も起きる気配が無かった。
妾たちも少しばかり昼寝をし、夜に備える事にした。
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英太たちが帰って来てから二日目の夜も宴となった。もう英太がいなくなってしまうのは寂しくて仕方なかったが、妾はそんな事をおくびにも出さんかった。国王に甘えは禁物じゃからの。
リーナが手にしていた映写機魔道具とやら。妾たちの姿を映して保存する魔道具なのじゃ。
その段階で妾のワクワクは止まらなんだが、英太はそれを更に小型化して、綺麗に映し出す魔道具を作り出しよった。炎を吹かそうとしておるのか? 妾が成長しておって残念じゃな!
どれ、妾に献上するがよい……と、カメラとやらを持つ妾に、割って入ろうとする者が現れた。
「私も撮りたい!」
勇者マリヤめ……子供と奪い合ったら、妾が大人がないようではないか……その勝負、受けて立つのじゃっ!!
しばしマリヤとカメラを奪い合っていたが、英太に「仲良くしないとダメだよ」と言われて、しぶしぶ譲ってやる事にした。
妾とマリヤは英太にカメラの使い方を教わった。
和気藹々とした撮影会が始まる。最初は照れていた被写体のサーシャも、徐々にこなれたポージングを始めておった。
妾とマリヤが充分楽しんでから、ギルマスたちもカメラを囲んでおった。
何やら小難しい話をしておるようじゃ。妾はマリヤに抱きつかれ、こっそりと宴会を抜け出した。島を飛び回りたいという勇者様からのお願いじゃった。
結界に触れぬ範囲の最高高度を舞っても怖がりもせぬ……本当に肝の据わった娘じゃのぅ……早くツバサに合わせてやりたいものじゃ……