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第百三話 妾は宴を開くのじゃ!

 英太は空き区画に人間国の宿屋設置した。


 リーナが経営しておったという宿屋を、アイテムボックスで持ち込んだのじゃ。土の家しか無かった街に、人間国に建っていた趣のある宿屋がある……移民を迎えたという実感が湧いてくるではないか!


「さぁて! 今宵は歓迎会じゃぁ! 皆には最上級の肉を振る舞うぞ!」


 国王である妾の提案は、もう1人の国王によって却下された。


 最上級のドラゴン肉ではあるが、やはり本人を目の前にして食べるのは皆辛いだろうというのが英太の判断じゃ。国王としても、国王の考えは聞き入れるしかあるまい。


「肉は俺が持って来た」


 そう言った英太は、アイテムボックスから切り分けた魔物の肉を取り出した。なんと、英太はアイテムボックスの中身を創造クリエイトで料理出来るようになったそうじゃ。


 創造クリエイトとは、なんと便利なスキルじゃろうか。そのまま焼き上げる事も可能だと言ったが、皆をもてなすのは妾の役目でもある!


 大胆かつ繊細な炎加減でオーク肉を炙ってやった。妾の炎で焼くと、肉の旨味が違うのじゃ!


 そうこうしておるうちに、マリヤとウルフたちも戻って来た。ゴーレムたちも集結する。いつの間にか妖精たちもおる。島のほぼ全員がここに集結しておる。九割以上がゴーレムなのはご愛嬌じゃ!


 料理を女性たちに奪われた英太は、キョロキョロと周りを見渡しておった。


 なんじゃ? 妾を探しておるのか? やれやれじゃの。


「英太よ、どうしたのじゃ?」


「いや、ツバサは?」


 そうじゃ……英太にもツバサの事を伝えねばならぬな。


「英太さんたちが飛んで行ってからでしたね。グゥインちゃんから聞いたの」


 サーシャよ、悲しそうな顔をするな。其方には笑顔が似合う。


「何が?」


「英太よ、落ち着いて聞くのじゃ……ツバサは死んだ」


 深刻な顔をする英太に、妾とアドちゃんで、出来る限り暗くならぬように事実を伝えた。


「既に割り切っておる」


 それに、今宵は楽しむべき日なのじゃ。ほれ、国王の挨拶を待つ民がおるぞ……挨拶を待たずして果実を貪るローエルフもおったがな。


☆★☆★☆★


「えー! 妾がグゥインである! 堅苦しい挨拶はいらぬ! 皆が楽しめる国家を創りたい! 共に楽しもうではないか!」


「えー、英太です。僕はまたすぐに結界の外に出てしまいます。国と街の発展には、みなさんの協力が不可欠です。色々協力してください。よろしくお願いします」


 妾たちの手短な挨拶が終わるや否や、サーシャの「かんぱーい!」という声が鳴り響いた。


 妾たちにコップをぶつけたサーシャは、すぐに精霊とウルフに取り囲まれてしまった。本当に人気者じゃのぅ……


 表情を見るだけで、皆が楽しんでいるのがわかりった。宴は何度か経験しているが、今夜は格別じゃ。食事や酒だけが理由ではない。


 国民たちの楽しそうな顔は妾に栄養を与えてくれる。


「英太、時間あるんだよ?」


 乾杯からずっとサーシャにべったりじゃったアドちゃんが、ふわりふわりとやって来た。


「ん? どうした?」


「英太に最低限作って欲しい物リストだよ。今夜は作らなくていいから、頭に入れておいて欲しいんだよ」


「妾と! アドちゃんで考えたリストじゃ! 頼んだぞ」


「……なるほど、水路ね。わかった。創造クリエイトしておくよ」


「だよ。法案も纏めたいんだけど、今はみんなと『デベロ・ドラゴ』の橋渡しをしてくれるのが優先だね」


「アドちゃんは凄いな。デベロ・ドラゴの大臣だね」


「そんなものには興味ないんだよ。僕が求めるのはサーシャの幸せだけだよ」


「サーシャは幸せそう?」


「見ればわかるよ。でも、フェンリルはちょっと邪魔だよ」


「自分勝手な精霊じゃの」


「冗談だよ。サーシャが楽しそうなら僕はそれでいいよ」


「なぁ、アドちゃんはR.I.Pの事はどこまで知ってるんだ?」


「安眠魔法としか知らないよ」


「そうか……じゃあ、サーシャが助けた子供の魔物に関しては?」


「うーん、それは知ってるけど、あんまり言いたくないんだよ」


「どうして?」


「あの魔物は嫌いだからだよ」


「嫌いって……何があったんだ?」


「英太よ、何故魔物の事が気になるのじゃ? 其方が言い淀む者に詰め寄るなど初めて見たぞ」


「……人間国で会ったんだ。人間の姿だったけど、鑑定したら魔族って出た」


「助けた魔物がサーシャに近づいて来たということか?」


「いや、偶然……だとは言ってた。その魔物がさ……自分は魔王の息子だって言ってて」


「それは本当の事だよ。だから僕はあの子が嫌いなんだよ。魔王の子供がサーシャに近づくのはダメなんだよ……僕はそれ以上の事は知らないよ……知ってる事といえば……」


「なんじゃ?」


「あの子を人間国に捨てたのは僕なんだよ」


「アドちゃんが?」


「正しくは、ドライアドの精霊たちみんなで、なんだよ。契約していないエルフに加担しているのが精霊王に見つかったら、消滅させられちゃうレベルの危険な橋なんだよ」


「精霊王って聞き覚えあるな……どこでだろう?」


 うむ、妾も聞き覚えがある。誰が話しておった事じゃろうか?


「あの子の話はこれまでなんだよ。僕はサーシャのところに戻るよ。話たくないことを話したんだから、ご褒美欲しいよ。僕がサーシャに甘える為に、英太はフェンリルを引きつけるんだよ」


「わかったよ」


 英太はアドちゃんの言う通りに、ルーフを呼んで、改めて妾に紹介した。


 最強クラスの魔物であるフェンリル……此奴は妾に近しい力を持っておるな……


 まぁ、戦闘になれば、相性含めて妾の方が上ではあろう。


「グゥインはクソババアの事は知っているか?」


「クソババア?」


「アンカルディアな。ルーフ、流石にそれじゃわからないよ」


「うむ、クソババアは紀元前から生きているからな。グゥインなら知っているかと思ってな」


「すまぬ、妾は外の世界での記憶が無いのじゃ」


「そうか……」


 ルーフは妾の身体の匂いをクンクンと嗅いだ。


「なんじゃ?」


「うむ、クソババアの臭いはしないな。奴の呪いはかけられていないようだ!」


「呪い?」


「うむ! 我はレベル上限の解放と引き換えに呪いをかけられた! 呪いの中身を口にする事も禁じられている! クソババアに会っていないという事は、グゥインもレベル上限の解放が出来るかもしれぬな」


 はて? 上限の解放?


「グゥインも出来るって……今以上になるって事か? どんだけ強くなるんだよ」


「全世界全ての総がかりでも、勝てないかもしれないな」


 多対一か……外の世界におった邪神は、当然そのような戦いばかりじゃったろうな。


「そろそろサーシャの元に戻るぞ、あのドライアド、我のいぬ間にサーシャの耳をはむはむしていた! 万死に値するっ!」


「喧嘩はダメだよ。サーシャに嫌われるよ」


「わかっているっ!」


 ルーフは雷のような速度でアドちゃんに突進しおった。喧嘩にもならない圧勝じゃ。アドちゃんよ、不死で良かったな。


「ねぇグゥイン、マリヤと遊んで」


 やれやれ、早速次の客が来よった。国王暇なしじゃな。


「こら、王様を呼び捨てしちゃダメよ」


 マリィがマリヤを嗜める。しかし、マリヤは母にも負けない。


「でも、グゥインが呼び捨てしろって言ってたよ」


「だけどね……」


「良いぞ、妾は王であると同時にマリヤの友達じゃからな」


「ねー!」


「しかしの、マリィも妾の友達じゃ。母の言う事は聞かねばならぬぞ」


「わかった! グゥインちゃんでいい?」


 さてさて、何をして遊ぼうかのぅ……


☆★☆★☆★


 夜は更けてゆき、ユグドラシルの大樹とツバサの様子を見る為にみんなで第五区画に向かった。


 皆がユグドラシルの大樹にくびったけになっておる間に、英太をツバサの元に連れてゆく。


「……デカっ……これ、ツバサなのか?」


「そうじゃ。あれよあれよと成長しおっての……」


 英太は神妙な顔でツバサを鑑定した。ツバサの状態はなんと出るのじゃろうか……


「仮死状態で間違いない。本人の決めた条件を満たすまで……」


 英太は一点を見つめて思考を巡らせておった。


「どうした?」


「ユニークスキル……文字化けして……いや、古代言語か? 読めないんだけど……何かしらのユニークスキルを手に入れてる? 手に入れようとしている?」


 ツバサにユニークスキルが生まれたというのか……ならば、あれしか考えられぬ。


「うむ、リポップかもしれんな」


 ユニークスキルは個体唯一のもので、他の者が持つ事はない……というのが英太の見解じゃった。


 しかしツバサはホムンクルスじゃ。妾の子であり、分身とも言える。イレギュラーがあっても不思議ではない。


 妾は親として、ツバサに関する全ての責任を負う。それが彼奴の命を奪う事になったとしても……共に封印される事になったとしても。


 妾の考えを聞いた英太は、このような事を言った。


「起こってもない事で悩むのはやめよう。暴走するって決まった訳でもないし、そんな事は鑑定されてない」


 懐かしいのぅ……これはあれじゃ……英太が得意げに使う小難しい言葉のひとつじゃ。


「うむ、シュレディンガーのドラゴンじゃろ? そのつもりじゃ。だからバンバン移民を集めるがよい」


「よく覚えてたな」


「忘れてたまるか。妾は、英太と出会ってからの事は全て覚えておきたいのじゃ」


「なぁ、俺たちが外に出てからの事を聞かせてくれないか? 必要な事だけじゃなくて、無駄な話も、たくさん聞きたい」


 妾に構ってくれずにおった癖に……まあよい。妾は寛大なる王じゃ。


「ふむ、反省したようで何よりじゃ。そうじゃのぅ……では、余す事なく聞かせてやろうかの」


 妾たちは、お互いが過ごした1ヶ月の出来事を余す事なく語り合った。

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