第百二話 妾は構って欲しいのじゃ!
英太が連れて来た移民たち。
なんと、その半分は状態異常にかかっておった。
「英太よ、まさか拉致して来た訳ではあるまいな?」
「人聞きの悪い事を言うな。魔物の3人は訳あって眠ってる。一週間くらいで目覚める筈だ……人間の二人はアドちゃんのせいだよ」
「風評被害だよっ! キノコに対するやべー反応が出ただけで、害は無いから安全なんだよ」
「ふむ。魔素にあてられたのじゃな。しっかり休ませるがよい」
マナファンガスとやらは、魔素を放出すると共に人間を興奮状態にさせるのじゃったな。
「眠ってる人たちは後ほど紹介するとして、こちらがショウグン・トクガワさん。俺たちはギルマスって呼んでる。将来的にはデベロ・ドラゴのギルドマスターになって貰う予定だ」
「ショウグン・トクガワと申します。よろしくお願い申し上げます。グゥイン様」
「グゥイン・鏑木じゃ! 宜しく頼むぞ」
「鏑木って、英太と同じ名字だよな? 家族なのか」
「そうなのじゃ!」
「グゥインが勝手に付けたんだよ」
本当に英太は、細かい事をいつまでも。
「マリヤです! 宜しくお願いします、グゥイン様!」
小さな娘が頭を下げる。スカートに手をやっておる。この挨拶は貴族のものじゃな。
「ほー、これは可愛いのぅ……グゥインじゃ、宜しく頼むぞ」
「マリヤちゃんはギルマスの娘なんだ」
娘……か。纏っておる魔力は似ておらぬが……それを言うなら、外見の方が似ておらぬしな。
「で、ゴレミが檻に入れてるのが、家畜さんたち……と、ウルフのお爺ちゃんたち。言葉は喋れないけど、理解は出来る」
「うむ、宜しくな、ウルフたち」
ウルフたちは平伏した。礼儀のわかる奴らじゃのぅ……
妾を眺めながら、英太は何やら頭を捻らせておった。ふっふっふっ……ようやく気づきおったか……身長じゃ、妾は背が伸びたのじゃ。
違いがある事には気付いたが、場所の見当がついておらぬのじゃろう。カンの鈍い英太にヒントをやらねばのぅ……どれ、少し背伸びでもしてやるか。
「グゥイン、旅のお供に新たなゴーレムを生成する。名前をつけてやってくれないか?」
なんじゃ、妾の事を考えておったのではないのか……まぁ良い。ゴーレムが増えるのは良いことじゃしの。
英太はアイテムボックスから、土の欠片とゴーレムの核を取り出した。それにミスリルと妾の鱗を加えて、《ゴーレム創造》と唱える。
久々じゃのぅ……ワクワクするのぅ……
誕生したゴーレムは、どこかゴレミに似ておった。妾は迷う事なく、名をゴレオに決めた。
ゴレオが平伏し、隣でゴレミも頭を下げておった。
「ゴレミよ、ゴレオを弟だと思って可愛がるのじゃぞ!」
「承知しました。グゥインさまの鱗に誓って」
ゴレミ……成長しおったな。今のゴレミならツバサなど足元にも……いや、成長したツバサの力はゴレミと同等じゃろうか。
「さて……あと50分……サーシャ、グゥインに思い出話をしてやってくれ」
「はいっ!」
50分……僅かな時間で英太たちはまた外の世界へと旅立ってしまう。魔素はまだまだ足らぬ。仕方ない事じゃ。
「英太はどうするのじゃ?」
「俺はアドちゃんと話しがある」
何故じゃ!? 一ヶ月ぶりの妾なのじゃぞ!? 何故アドちゃんなのじゃ!?
「待て! 妾は……」
「すぐに戻るよ……ゴレミ、ドラゴン形態になれるか?」
英太はアドちゃんを連れ、慌ただしく飛び立ってしまった。
「……なんじゃ、妾をほっぽってからに」
「グゥインちゃん、私たちとお話ししましょ」
サーシャが背後から抱きしめてきよった。久しぶりのもちもちじゃの。どれ、味わってやるか。
「あれ、グゥインちゃん、少し背が伸びました?」
「サーシャは気付いたのか?」
「はい」
「少しだけだが伸びたのじゃ……英太の奴は気付かんかったのに、流石はハイエルフじゃな」
「はい。エルフです!」
やはりサーシャは可愛いのぅ……英太の奴、ちゃんと番になる努力はしておるのか?
「英太はグゥイン様の為に色々考えてたんだよ。ちょっとは多めに見てやってくれ、王様」
さりげなく英太をフォローしおった。ギルマスは野蛮な外見とは裏腹な優しい男のようじゃな。
「そうですよ。英太さんったら、何かにつけて、グゥイン、グゥインって」
なんじゃ、サーシャという雌が居ながら、英太は妾の事を考えておったのか……
「安心せよ、妾は其方たちが番になる事を応援しておる」
「グゥインちゃん……私はね、英太さんの番になれないんです」
「何故じゃ? ハイエルフだからか?」
「うーん……そうですね」
英太の奴は振られてしもうたのか……後でゴレミに詳しい話を聞かねばな。
「そうか、無理を言ってすまなんだな。サーシャ程の器量じゃ……あの様な男では番など務まらんな」
「そんな事ありません。英太さんは素敵な人です」
「良い良い、気を使うでない。雌も増えた事じゃしな、英太を番にしても構わぬという変わり者も現れるじゃろ」
サーシャは少し項垂れて、キョロキョロと周りを見回した。
「どうしたのじゃ?」
「いや、ツバサちゃんが居ないなぁって……また檻に入れられているんですか」
そうじゃな……ツバサのことを伝えねばならぬな。
妾はサーシャとギルマスたちに、ツバサの成長と、仮死状態になっておる事を伝えた。移住早々に我が愚息の事で暗い気持ちにさせてしもうた。
どれ、楽しい話でもして貰おうではないか。
「サーシャ、ギルマス、マリヤ! 妾に外の世界の話を聞かせてくれぬか?」
サーシャは従魔になったフェンリルと、美味しかった果物の話を、ギルマスは英太の活躍と凡ミスを、マリヤはギルマスに内緒で挑んだ冒険譚を聞かせてくれた。
そのどれもが愉快な話じゃった。
そうこうしておるうちに、キノコ酔いをしておった人間2人も体調を取り戻した。マリィとリーナという雌たち。サーシャ程ではないが、なかなかの器量じゃ。
そんなこんなをしているうちに、背後に英太の気配を感じた。隣の強大な魔力の持ち主は……サーシャの従魔のフェンリルか。
「グゥイン、戻ったよ!」
英太は相変わらず惚けた顔をしておった。まだ妾の成長に気付いておらぬな。
やれやれ……妾は背筋をピンと伸ばしてやった。ほれ、気の利いた事を言うてみい。何をしておる。わからんのか?
「グゥインちゃん、背が伸びたんですよ」
結局サーシャに言われるまで気付かなんだ。
「あ、そ、そうだよな。わかってたよ……ははは」
「全く、英太は鈍感な男じゃの……それだからサーシャと番になれぬのじゃ」
「……あっ! そうだグゥイン! お前に言わなきゃならない事が沢山あるんだよ!」
なんじゃ……妾に言いたい事?
その時、妾と英太の前にゴレミが入り込んだ。何やらヒソヒソとやり取りしておる。此奴らも外の世界で仲良くなりよったものじゃ。
英太はサーシャではなく、ゴレミを雌として見ておるのか? 魔法の効果とはいえ、可愛い顔になっておる。もちもちもサーシャに負けず劣らずじゃ。
ゴレミとでは子は作れぬが……子を作るばかりに囚われるのも違うかもしれぬな。
「英太よ、サーシャと番になるのは諦めよ。他にも生きの良い雌が増えたしのぅ」
「マリヤ、ちょっとウルフさんたちと遊んでおいで」
「ウルフちゃん、おでかけしよう。パパったらおかしいよね。私もつがいくらいわかるのに」
ギルマスの娘はなかなか頭が切れそうじゃの。ツバサが復活したら、良き遊び相手になってくれると良いな。
「グゥイン、人間は雌じゃなく、女性って言うんだよ。相手を尊重していかないと嫌われるぞ。ざまあされるぞ!」
……そうか、ギルマスは娘と英太がくっつくかもと思って遠ざけたのか。
うむ、人間たちの呼び名で呼ばねばならぬな。如何に高貴な存在であろうとも、寄り添わねば嫌われてしまうかもしねぬ。
何せ妾は……邪神なのじゃからの。
「うむ、嫌なのじゃ! 撤回する! 女性たちよ! 仲良くしてくれ!」
不安じゃった……人間たちが妾を恐怖の対象さとして捉える事が……妾のせいで、デベロ・ドラゴが忌み嫌われる事が……
そんな不安を分け合ってくれるかのように、英太が妾の手を取った。
「大丈夫だよ」
英太の言葉は力強かった。
「よろしくお願い申し上げます。国王様」リーナが頭を下げる。
「家族共々お世話になります」マリィも同様じゃった。
「ガハハハッ! 女じゃねえけどよろしくな! じゃねぇな! よろしくお願い申し上げます。グゥイン様」ギルマスは豪快じゃ。
「我もだ! 宜しく頼む」いつの間にかフェンリルもおる。
「グゥインなりの普通でいい。でも、相手を尊重していこう……出来るな」
「うむ、出来るのじゃ!」
その時、ギルマスが笑った。
「ゴレミ嬢が言ってた通りだ。可愛らしさと厳かさを兼ね備えてるな」
「本当、こんなに可愛いとは思わなかった」
「グゥインちゃんは可愛いんです!」何故かサーシャが胸を張る。
「むむむ、可愛いと言われるのはこそばゆいのじゃ! よし! 貴様らに命令じゃ!」
「何?」
「貴様らを友達として任命する! 妾をグゥインと呼び捨てにするのじゃ! 妾も其方らを呼び捨てにする! 五分の盃じゃ!」
妾の提案に、皆が惚けた顔を覗かせた。
「呼び捨てはまあ良いとして、国王なんだから五分はやめとこう。みなさん、仲良くしてあげてくださいね」
その場にいた全員が英太の言葉に頷いた。不安に感じる事は無かったのじゃ。