表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/214

第百一話 妾は皆を迎えるのじゃ!

 ツバサの一件に触れるゴーレムは一体としておらなんだ。妾はそれに救われた。


 聞かれたならば、王として平然を装ったでたろう。しかし平気な訳があるまい。子を失ったのじゃ。


 ツバサの元には毎日顔を出した。今であれば、人前で「ママ」と呼んでも許してやると言うたのに、彼奴は反応を示さんかった。勿体無い事をする。


 ツバサだけにかまけてはおられぬ。妾には王としての使命があるのじゃ。アドちゃんと取り決めた一ヶ月でやらなければならない事リストを遂行して行く。


1.全ての区画を繋ぐ水路の基礎作り。これはゴーレムに指示をした。


2.全ての区画と王都を繋ぐ道路を作る。これもゴーレムが完遂した。


3.各区画に土を溜めておく。これもゴーレムによって終わっておる。


4.王都の建物配置の見直し。これはアドちゃんが見直し、妾が了承した。後は英太任せじゃ。


5.防壁の建設。ゴーレムがやった。


6.畑を作る。ゴーレム。


7.酪農場を作る。ゴーレム。


8.薬草園を作る。ゴーレム。


 ほとんどゴーレム任せじゃ!


 一応、派遣するゴーレムを決めたのは妾じゃったが、そこはゴレンヌにそれとなく促された。妾は決定をしただけなのじゃ!


 唯一、妾がテーブルについて考えねばならぬ事……それが9つ目の……


9.国の統治制度を確立する


 であるっ! 法じゃ! 悪い事をしたら焼き尽くす! ではいけないんだよ。と、五分の精霊が言っておった。


 はっはっはぁ! 国王自ら法整備じゃあっ!! 妾が法を司ってやるっ!! 


☆★☆★☆★


 ……無理じゃった。


 アドちゃんの言っている事が殆ど理解出来ん。


 移民たちの営みや、生活の水準も把握しておらぬのじゃ。人間国ではこう、魔王国ではこう、獣人、エルフ、ドワーフ……それぞれに特有の営みがあるのじゃろう。


「僕はサーシャが産まれてからは、エルフ王国に張り付いていたんだよ。エルフたち以外のことは、たまにお散歩しに行った時の知識だよ」


 それであれだけ詳しいのじゃから、凄いの一言しかないが、それでは多くの種族を受け入れるには足らぬ。


「デベロ・ドラゴにおける法律の基本方針を決めるんだよ。グゥインと僕では決められる事に限りがあるし、詳細な法律を定めるのは英太たちが帰ってきてからだよ。あくまで大枠のルールを決める段階なんだよ」


「大枠のルールであるか……どのような事じゃ?」


「 基本理念の決定だよ」


「理念……皆が幸せになる国じゃ!」


「それは素晴らしいと思うんだよ。それをもう少しだけ具体的にするよ。共存国家とするのか、種族ごとに住み分けをするのか……グゥインはどう考えてるんだよ?」


「六芒星の形をした区画を、それぞれの種族に分け与え、王都では種族が共存する……英太と話しておった事じゃ」


「基本的にはそれでいいよ。じゃあ、六つの区画はどう別けるんだよ? 第五区画はエルフ王国が貰い受ける事は確定事項として、約束を今ここでしてもらうとして、それは譲らないとして、残りは早いもの勝ちになるのかな? それとも、力の強いものが奪うのかな? 争いの種になるんだよ」


 ぐぬぅ……主だった種族は六くらいじゃと思っておったが……そうか、土地は戦争の種か……そうなると……


「保留じゃっ!」


「それぞれの種族ごとに、価値観は違うよ。後々の摩擦を考慮しないとだよ。統治の基盤をどうするか。外部との関係性をどうするか。他国との交易を許可するか。訪問者に対するルールをどうするか」


「保留、保留、保留、保留じゃっ!」


「……だよ。とりあえず、英太が帰って来たら話し合うんだよ」


「あいわかった!」


「次は、統治体制の骨組みだよ」


「統治体制とはどういうことじゃ?」


「国の決定権を誰が持つか? だよ」


「それは、妾にきまっておろう!」


「保留ばっかりのグゥインに任せるのは難しいよ」


「ならばっ!」


「適当に決めるのはもっとダメだよ」


「……妾と英太が揃って決める」


「僕も基本的には『王制』でいいと思うんだよ。現状もそうなんだけど、英太が不在の時の意思決定が問題ありだよ」


「……だよ、じゃのう」


 いちいち言葉が難しいのじゃ……此奴はなんなのじゃろうか……


「最低限のルール設定はしないとだよ」


「それはそうじゃの」


「具体的には『暴力行為の禁止範囲』『私闘の可否、決闘のルール』『所有権の確立』『土地や物資の所有権をどうするか』『魔法や能力の使用制限』『最低限の安全確保ルール』だよ」


「決める事が山ほどあるのぅ……」


「基本的なルールは、移住者が暮らしていた国の物を暫定的に流用していいと思うよ。僕としてはサーシャが幸せになれるなら何でもいいんだよ」


「サーシャなら、大概の事は楽しそうにするじゃろう」


「だよ」


「まぁ、何を決めるかを明確にしただけでも、充分な進歩じゃ」


「だよ。現段階では細かい法整備はせずに、方向性を決めるにとどめておくんだよ」


 こうして、アドちゃんが提案した一ヶ月の目標は、かなり甘めに見れば全て達成する事が出来た。


☆★☆★☆★


 そうこうしておる間に、満月の日になってしもうた。


 アドちゃんは、英太滞在の間に創造クリエイトするものリストを製作しておった。王都の配置換えは後々するとして、水路だけは整えたいようじゃった。


「アドちゃんよ、移民の歓迎パーティーはどうするのじゃ? 何もしないのは失礼に値せぬか?」


「国王自ら歓迎すれば充分だよ。それに、何人来るかもわからないし、そもそも、ここには土と草木しかないんだよ」


「ううむ……そうか……妾が歓迎するだけで光栄か……それはそうじゃの……」


「光栄とまでは言ってないけど、まぁ、いいんだよ」


 妾は最高の出迎えをする為に、プランを練り上げた。故に、第一区画での出迎えは、アドちゃん一人に任せる事にした。


「コフッ……いがぬ、少し炎が漏れ出てしもうた……アドちゃんは……よし、おらぬな」


 アドちゃんは既に第一区画に送り込んだ。結界の隙間は既に開いておる。人間が通れるようになるまでもう間もなくじゃ……


 妾が外の世界の者にしてやれる最大限のもてなし! それは、ブラックドラゴン本来の姿を見せてやる事じゃっ! 偉大なる漆黒の竜を目の当たりにした者は、涙を流して感動するのじゃ!


 さて、隠れるかの……英太は妾に会いとうて仕方ない筈じゃ。真っ先に我が家に訪れるじゃろう。妾を探して慌てふためく英太の前に、本来の姿で颯爽と現れるのじゃ! 英太も涙を流して喜ぶに決まっておる!


 むっ……ゴーレムたちが妾を守ろうと集まって来よる……彼奴らは外敵ではないし、そもそも妾に護衛など要らぬというのに……ゴーレムたちを散らすか……むぬっ! 第一区画から人の気配が……この強大な力は、ゴレミかっ!? 逞しくなりおって……


 妾がゴレミの成長っぷりに感動しておると、突然巨大な光が放たれた。


 なんじゃこの光は……英太か? 否、圧倒的な魔力量じゃ……英太にはこのような芸当は出来ぬ……勇者の類……むぬっ……タイミングを逃してしもうた……英太は猛スピードで妾の元に縋り付くじゃろう……さて、第一区画に注意を向けて……


 ぬぬぬっ!? 英太の気配が第一区画から消えたぞ……すぐ側におる!? 何が起きたのじゃ……ぐぬぬぬぬっ……考えておっても仕方ないのじゃ……颯爽と登場せねばならぬぞ!


 妾は本来の姿に変化した!


 そして、英太の元へと姿を表す!! 妾は英太たちの元へと飛んだ!


 厳かに、王としての威厳を意識してゆっくりと地上に降り立つ。その存在感に、誰もが慄くことじゃろう。


 よしよし、皆言葉を失っておるわ……


 さて……英太が縋りつきやすい様に、いつもの少女形態に変身してやるとするか。


「はっはっはっはー! 妾がデベロ・ドラゴの王、グゥイン・鏑木である! 善きにはからえ! 英太よ! 人間国への使い、まことにご苦労であった! その栄誉を讃えて、そなたにドラゴンメッセンジャーの称号を与えよう!」


 さあっ! 英太よっ! 久しぶりの妾に縋り付くのじゃ!


「グゥイン、俺はお前の使いっ走りじゃないんだよ」


 英太は涙ではなく、呆れた顔で妾を見ておった。そしてドライアドが本来の姿になって魔素を消費した妾を責め立てる。想像していた感じと違うのじゃ……無念なのじゃっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ