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第九十六話 妾は立派な王になるのじゃ!

「さあ、月は丸く光っておる! この時を逃すな! しばしの別れじゃ!」


「ああ、行くぞ、サーシャ! ドラゴレミ!」


「はい!」


「お供します!」


 英太が、サーシャが、ドラゴレミが……結界の隙間へと飛び込んで行った。妾はそれを眺めるだけしか出来なんだ。


 この結界は、妾を閉じ込める事に特化した結界じゃ……


 『死の大地』に魔素を届ける為に……


 移住者を探す為に……


 妾の友達である英太とサーシャ、そして側近であるドラゴレミは、外の世界へと旅立った。


「英太よ……頑張って来るのじゃぞ」


 妾は大量の魔素を栄養にする。じゃが、人の姿に変化しておれば魔素の消費も少ない。


 妾だけならば200年は持つ。アドちゃんとツバサが加わっても100年は余裕であろう。全く焦る必要など無かったのじゃが……


 ユグドラシルの大樹が問題じゃった。彼奴が必要とする魔素の量は妾たちの比ではない。このままでは半年程で魔素が尽きてしまう。


そのせいで魔素が必要になったのじゃが、悪いことばかりではない。ユグドラシルの存在によって『死の大地』に住みたいと考える者は多く存在するであろう。


「だよ。サーシャたちを信じて待つんだよ。グゥインはこの国をちゃんと整備して待つんだよ」


「わかっておる! 妾は国王であるからな!」


「なら涙を拭くんだよ。鼻水も出てるんだよ」


「ぬっ……これは、木が発する目に見えぬ粉のせいであってだな……」


「それはドライアドの加護で対処済みだよ。木のせいにするなら、いつでも加護を取り消すんだよ」


 ぐぬぬぬ……生意気な奴じゃな……しかし、妾も竜の親じゃ。これしきの事で腹を立てる訳にはいかぬ。


「拭くのじゃ! 英太よ、鼻をちんとする紙をここに!」


 妾の言葉に反応するものはおらなんだ。そうじゃ、英太はおらぬのじゃ。


「グゥイン様、わらわがペロペロしてあげようか?」


 ツバサはそう言うが、王が人前で鼻水をペロペロされる訳にはいかぬ。


「よい! これで拭う」


 妾は目の前にある葉っぱを引きちぎった。


「だよっ! 何するんだよ! 葉っぱに見えるけど、これは僕の身体だよ!」


 妾はアドちゃんの肩から生える葉っぱに鼻水を収めた。その辺に捨てる訳にもいかず、いつもアイテムボックスにゴミを収納してくれていた英太に感謝をした。


「すまぬな。ツバサよ、ペロペロで治癒してやれ」


「承知したのじゃ」


 ツバサのペロペロで、アドちゃんの葉っぱみたいなものが回復してゆく。


「だよ。ツバサのペロペロもグゥインみたいに回復効果があるんだよ?」


「わらわはグゥインさまと同じスキルを持っているからね」


「それは大変だよ。大人しくしておくんだよ」


「当然じゃ! わらわはもう正式な戦い以外では暴れないって約束したのじゃ!」


 そうじゃ。ツバサは約束を守っておる。もう勝手に暴れる事などないのじゃ。日々成長しておる。


 さて、英太たちの頑張りに負けぬように、妾も国のために奔走せねばならぬな。


 「………………」


 先ずは……何をすれば良いのじゃ?


 何もわからぬ……


 土を耕すのは……ゴーレムたちで十分じゃ……


 尻尾肉を干し肉にする? 既に大量に保存してあるのじゃ……


 やれる事……出来る事……


 英太がおらなんだら創造クリエイトも使えぬではないか……


「英太がいないと何をしていいかわからないんだよ?」


「ぐぬっ……そうじゃ……創造クリエイトが使えぬと、街を生み出す事は出来ぬ……妾はどうすれば良いのか……アドちゃんよ、知恵を授けてはくれぬか?」


「思ったより素直で安心したんだよ。僕が色々教えるから、ちゃんと王様として成長していくんだよ」


「うむ、妾は成長中であるからな!」


 アドちゃんの講義が始まった。妾とツバサだけではなく、デベロ・ドラゴに居る全てのゴーレムを集結させた。


「改めまして、アドちゃんだよ。これから、『デベロ・ドラゴ』に沢山の人を迎え入れる事になるんだよ。最初は少ないかもしれないけど、どんどん増えていくと思うんだよ。だからね、大地に栄養を与えていくんだよ」


「アドちゃん様、お言葉ですが、既に我々はその作業を行っております」


 挙手をしたのはドラゴレンヌじゃった。


「だよ。ゴレンヌはいつも頑張ってくれているね。英太の指示で、水を撒く場所と撒かない場所を分けていたよね? その検証結果はどうだったんだよ?」


「はい。死の滝の水を撒いた区画の大地は、徐々に栄養を取り戻しております。撒いていない大地は依然として干からびて、ひび割れております」


「だよ。実験はここまでで充分なんだよ。ここからは水を撒く量を増やして行くんだよ」


「どうするのじゃ?」


「水路を作るんだよ」


 アドちゃんの提案、ひとつ目は『水路の作成』じゃった。英太がおれば創造クリエイトで一発じゃったが、ゴーレムたちに頑張って貰わねばならぬ。


「王都を囲むように水を引くんだよ。水路の部品は英太が帰って来たらお願いするよ。ゴーレムさんたち、基礎作りをお願いするよ」


「承知しました」


「完成は一ヶ月後になるんだよ。それまでは、ゴーレムさんたちのマンパワーで水を運んで欲しいよ。量は3倍を目指すよ。それに加えて、ユグドラシルの大樹と、精霊創樹の落ち葉も各地にばら撒くんだよ。肥料だね。僕の計算では、一ヶ月続ければ、最低限人が住めるだけの栄養を手にする事が出来るよ」


「アドちゃんは博識じゃの」


「だよ。サーシャを喜ばせたいからね。あぁ、サーシャの笑顔が見たいよ」


「では、早速……」


「ゴレンヌ、待つんだよ。作業開始は明日からでいいんだよ」


「ですが、我々は睡眠を必要としません」


「わらわは眠いのじゃ」


「妾は眠れぬぞ」


「夜は休む……って事に慣れるんだよ。外の世界のみんなは、基本的に夜は身体を休めるんだよ。その生活に慣れるんだよ」


「あいわかった」


「でも、授業はもう少し続けるんだよ」


 アドちゃんは、この一ヶ月でやることのリストを用意した。


1.全ての区画を繋ぐ水路の基礎作り

2.全ての区画と王都を繋ぐ道路を作る

3.各区画に土を溜めておく

4.王都の建物配置の見直し

5.防壁の建設

6.畑を作る

7.酪農場を作る

8.薬草園を作る

9.国の統治制度を確立する


「だよ!」


 アドちゃんの話は明け方まで続いた。夜は眠れと言うた側からこれじゃ……話好きには困り果てる……


 1から9までは、ゴーレムたちが分担する。アドちゃんは、分担の管理をドラゴレンヌではなく、妾に求めて来よった。


「『ドラゴレム』なんて名前をつけながら、グゥインはゴーレムの能力を把握してないんだよ」


「それは、妾は鑑定スキルを持たぬ故にだな……」


「上に立つ者は、下の者の事を把握してないとダメだよ。何万人もの国民を把握しろとは言わないんだよ。配下のゴーレムだけは把握しろって事なんだーよ! はい! この子はだあれ?」


 アドちゃんは、一体のゴーレムを妾の前に連れて来た。ドラゴレミやドラゴレンヌと同じ黒いゴーレムじゃ……ということは幹部の筈……あのエルフっぽいゴーレムは第五区画のゴーレムじゃろう……彼奴なら……わからぬ……完敗じゃ……


「すまぬ……妾は其方の名前を把握しておらぬ」


 妾はゴーレムに頭を下げた。


「そのようなお言葉……悪いのは、グゥイン様の印象に残れない私めにございます」


 ゴーレムは妾の頭より低い姿勢を取っていた。


「頭をあげよ。其方の名前を教えて賜れ」


「はっ……ドラゴレゾーにございます」


「ドラゴレゾーか! 英太が名付けたゴーレムじゃな!」


「はい。ですが英太様が名付けて下さったのは、ゴレゾーです。現在の名前はグゥイン様から頂いた誉れ高きものであります」


「だよだよ! ここでアドちゃんアドバイスだよ! 国王! みんなのドラを取るんだよ!」


「なな! 何故じゃ!? ドラを取ったらドラゴンっぽさが無くなってしまうであろう!」


「充分あるんだよ。ドラゴンっぽくはないけど、ブラックドラゴンっぽさはあるんだよ」


「しかしのぅ……」


「みんな、呼びにくそうにしてるんだよ。だよね?」


 ゴーレムたちは一様に首を横に振った。呼びにくそうとは……実は妾も気付いておった……悔しいが……ここはアドちゃんの意見に従おうか……


「ゴーレムたちよ! 其方らの名前から『ドラ』を取り除こうぞ! そして、妾に名を教えて賜れ! 妾は名前を覚えるのじゃ!」


「だよ。まだ名前の無いゴーレムも居るんだよ」


「妾が全員の名前をつける!」


 一瞬の静寂の後……歓声が湧き上がった。


「……なんじゃ!?」


 ゴーレムたちは、心から喜んでおった。雫こそ流れておらなんだが、妾や英太が涙を流す様にも似ておった。


 妾を王にしてくれるのは、此奴らの存在なのじゃ。


「妾は立派な王になるぞ!」


 妾は宣言した。歓声はしばらく鳴り止まなんだ。

 

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