変わらない景色、時間
雑踏の中、見えた君が手を振っていた
「...はっ!...夢...か」
病院のベッドの上で目を覚ました。僕は昔から体が弱かった。ただの風邪でも治りが遅いし、重い病気にかかろうものなら死にかけるだろう。こんな状態だからか、僕はいつもいつ死のうかと考える日々だった。唯一、僕の心を癒してくれるのは夢の中だけ。最近は同じ夢ばかり見る。
雑踏の中、僕だけを置いていく友人、家族。消えていくその影を追いかけると、誰かが手を振っている。とても綺麗な黒髪の女性。でも、顔はモヤがかかったように見えない
いや、意図的に見えないようにしているのだろう。私はその女性を見ると安心するのだ。しかし、同時に思い出すのが怖い。
「.......」
病院の屋上へ来た。真下では子供達の遊ぶ声が聞こえる。遠くからは心地よい風と、人々の生活音。何度飛び降りようと思ったことか。それでも私は怖くてできない。
「あぁ...母さん、分かっているよ。僕が死んだら悲しいよね。...父さん、分かっているよ。強くならなきゃいけない。......でも、それを教えてくれたあなたたちはもういない」
「俺がいるだろ?」
「誰だ!?」
突然背後から声がして、咄嗟に振り返るがそこには誰もいなかった
「はは...まさか友人の声まで聞こえるようになるとは...僕もいよいよ心にガタがきたわけだ」
「―――――さん。―――――さん!」
誰かの声がする。また幻聴か。やめてくれ。今ならとても良い夢を見られそうなんだ。誰も死なない、誰も死ななくていい世界。
僕はこの世から消えてしまった。