ただ……ただ泣けた
顔を上げると目が合った
俺に向かって、にこりと微笑んだ
可愛くて、美しくて、ドキッとしたけど
誰だか分からなかった
こんな美人な知り合いがいたっけ?
よく見てから
ようやく君だと分かった
一年振りだったけど
化粧をしていたけど
横顔はそのままだった
烏のように黒い長髪の毛は
風が吹き抜ける度に
ヒラヒラゆれて
茶色のブラウスの首もとからは
白い肌が覗いていた
それを見ただけで
色っぽく感じた
1mくらい離れているのに
俺の鼻へやって来る柔軟剤
他の子なら、嫌になる匂いなのに
不思議と君の匂いだけは
もっと、嗅いでみたいと思った
焦る心臓の脈打ち
セミの鳴き声に混じって
うるさく聞こえる
下心に火をつけて、
君に話しかけようとした矢先
駅の中に入ってきた君の同級生
俺の邪魔をしてくれるなよ
ガタンゴトン
電車がホームに入ってくる音
ピッ
ICカードの鳴る音
ガチャン
扉が開く音
わざと君の後ろに並んで
車内に入る
君は空いている席を見つると
奴とそこへ座った
俺はそのまま通り過ぎて
2車両目に移って
いつものドア前を陣取った
ドアが閉まります
ああ、そうだ
俺の涙腺も閉めてくれないか
ああ、すごく、いい匂いだった
読んで下さりありがとうございました。