浄化の旅②
あの日の出来事以降、シーヴァーさんは、私とバーミリオンさんに声を掛けてくれるようになった。
シーヴァーさんは、いつも穏やかな顔をしていて誰にでも優しい。“理想の騎士らしい騎士”と言ったところだろうか?
「あの…アリシア殿下から離れていても、大丈夫なんですか?」
ここ最近、昼食を取る時に魔導士達側に来るから、少し心配になり尋ねると
「この旅には、“近衛”ではなく“騎士”として同行してるから、私が殿下に常に付いていなければいけない訳じゃないんだ。もともと、騎士で交代で付く予定だったし、アズール殿も居るし……アレだろう?」
シーヴァーさんが苦笑しながら指を差した方に視線を向けると、相変わらず騎士達に囲まれているアリシア様とエメラルドが居た。
「確かに、アレなら、ルーファスさん1人が居なくても大丈夫そうですね。」
と、バーミリオンさんも苦笑した。
旅も半年を過ぎると、水と油だった魔導士と騎士の関係も…少しだけ軟化したような気がする。
浄化も順調で、国内の8割の浄化が済んでいて、このままいけば、予定より早く終わるかも知れない─との事だった。
そして、今日は久し振りに野営ではなく、王家が所有する邸で寝泊まりする事となり、お昼からは自由時間が与えられ、アリシア様とエメラルドとアズールさんは、数名の騎士を連れて街へと買い物に行ってしまった。
「エラさんとバーミリオンさんはどうする?」
「リアはどうする?」
「んー…街に出て食べ歩きしたかったんだけど…」
この土地の事はサッパリ分からないし、街であの団体に出くわしても……と悩んでいると
「それじゃあ、私が案内しようか?」
と、シーヴァーさんが声を掛けてくれた。
なんでも、シーヴァーさんは伯爵令息で、この領地に別荘を持っているらしく、この土地に詳しいとの事だった。
ー伯爵……貴族か……ー
何故か、胸がチクリとしたのは、気のせいだろう。
シーヴァーさんのお言葉に甘えて、エラさんとバーミリオンさんと私と、もう一人、魔導士のメイナード=フォーガンさんと5人で食べ歩きをした。何でも、メイナードさんとシーヴァーさんは幼馴染みらしい。
兎に角、シーヴァーさんのお勧めの食べ物はどれも美味しかった。邸に帰る頃にはお腹がいっぱいになっていた。
「あ、可愛い」と、邸の帰り道にあるお店のウィンドウ越しに薄藤色の宝石が付いたアクセサリーが目に止まった。
ー可愛いし欲しいけど、この旅には不要のモノだよね…それに……ー
「どうかした?」
「え?あ、何でも無いです。さぁ、邸に帰りましょう!」
声を掛けてくれたシーヴァーさんは、少し納得いかないような顔をしたけど、また直ぐに穏やかな顔に戻り、5人で帰りの途に就いた。
王都からも随分離れて来ると、それなりに魔獣や魔物も現れたが、討伐も穢れの浄化も問題なく進んで行った。
そろそろ、浄化の旅も終わり─と言う頃
「久し振りに、一緒にお茶でも飲まない?」
と、エメラルドに声を掛けられた。
「「………」」
エメラルドと私は今、エメラルドのテントの中で2人きりでお茶をしている。何故2人なのか─と言うと、丁度、エラさんとバーミリオンさんは近くの街迄買い出しに行っていて、アズールさんは見回り担当の時間だったからだ。
「えっと……アリシア様と一緒に居なくても…大丈夫なの?」
「シアなら大丈夫。寧ろ、シアが…久し振りにウィステリア達と話して来たら?って勧めてくれたから。」
「そっか……」
“シア”と“ウィステリア”──
そう呼ぶエメラルド。このお茶のお誘いも、エメラルドの意思ではなかった。
日本から一緒に召喚されて来た筈だったけど……もう、私とは…交わる事は無いのかもしれないな─と思った。
******
「私も、“リア”と呼んでも良い?」
「え?無理です。ごめんなさい。」
「ぶはっ──」
「即答!」
「ふふっ」
↑上から順番に
シーヴァーさん
ウィステリア
メイナードさん
バーミリオンさん
エラさん
思い切り笑っていたメイナードさんに「何故“駄目”じゃなくて“無理”なの?」と訊かれたから、素直に答えました。
「近衛騎士と言うのは、それだけで人気があるんですよね?イケメンでエリートだと聞きましたから。そんな人から愛称呼びなんてされたら、ご令嬢方から魔獣や魔物より恐ろしい攻撃を喰らいますから。」
「ぶはっ──」
「リア、正直に言い過ぎだからな?間違っては無いけど。」
「ふふっ」
やっぱりメイナードさんには爆笑されて、バーミリオンさんには突っ込まれて、エラさんには笑われた。
「納得いかない……」
と呟くシーヴァーさんは可愛かった。
「それじゃあ、せめて、私の事を“シーヴァー”ではなく“ルーファス”と呼んでくれないか?私だけ…家名呼びでは…少し寂しいから。」
「え?」
「ぶはっ─」
ーえ?メイナードさん、そこ、笑うところだった?ー
『メイナード、後で覚えておけよ?』
『………』
と、ルーファスがメイナードに耳打ちした言葉は、ウィステリアの耳に届く事はなかった。
    
 




