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それぞれ



「──と言う事で、あの馬鹿2人は元の世界に還りました。」


と、話してくれた菊花さんの顔は、何とも晴れやかな笑顔だ。そして、続けて教えてくれたのは──



3ヶ月前、バーミリオンさんとエラさんの間に、第1子となる女の子が生まれたそうだ。名前は“ティリア”。私の名である“ウィステリア”に似せた名前にしたそうで……嬉しいやら恥ずかしいやら。

子供が生まれても、2人は相変わらず仲が良いそうで、可能な限りは2人での子育てで頑張っているそうだ。


ー谷原先輩なら、良いパパになりそうだよねー




アズールさん─本間君は、相変わらず国中を駆け回って魔獣を狩りまくっているらしい。そんなアズールさんには、最近よく一緒に組む女魔道士がいるらしく、「ついに英雄アズールにも春が!?」などと噂が広まっているそうだ。


菊花さん情報によると、本間君のお義父さん()()()人は、新たに再婚したそうで、今では幸せそうに暮らしている─との事だった。


ー本間君も、その彼女と幸せになってくれると良いけどー




メイナードさんにも婚約者ができた─と言うか、同じ城付きの女魔道士─カエラさんとはずーっと恋仲だったそうで、ずーっと隠していたようで、私も全く知らなかった。「メイナードは侯爵家嫡男で、カエラ嬢が子爵家で女魔道士だったから、色々あってね……」と困った顔をしたのはルーファスさん。


ーあぁ、分かります。よーく分かりますー


あの世界は、女魔道士を良く思っていない。男と言うだけで魔道士はそれなりの地位も認められているのに……。じゃあ、何故メイナードさんとカエラさんが婚約できたか?と言うと──



『女魔道士に対する考え、対応を変えなさい。でなければ、今後一切私はこの世界を救う為の聖女や、その聖女を護るために同行させる者達を召喚する事はしない。今回の行いは……赦せるモノではない。』


と、女神アイリーン様が、神殿に降臨したのだとか。


ーきっと、アイリーン様も……必死なんだろうなー


何となく、千代様が『ふふっ』と微笑んでいる姿が思い浮かんでしまうのは……気のせいじゃないと思う。


兎に角、アイリーン様の御言葉で、これから女魔道士が生きやすい世界になれば良いなと願うしかない。




私とはあまり接点の無かったデレクさ───


「あぁっ!!!」

「どうした!?志乃!?」

「志乃様!?」


いきなり叫んだ私に驚くルーファスさんと菊花さんに「少し待ってて」と言って、自室のクローゼットの中に仕舞い込んだままのモノを取り出して、また2人の居るリビングへと戻る。


「あの、コレ、デレクさんから、“コレはウィステリア殿が持っている方が、ルーファスが喜ぶだろうから”って、私がこっちに還って来る時にもらったんだけど…」


そう。それは、黒色の革でできた鞘に収められている短剣。


「これを…デレクが?」


その短剣を手に取り、短剣を見るルーファスさんの目はとても優しい。


「一度目の召喚で志乃が還った後……志乃の色と俺の色で作った短剣なんだ。」


ーゔっ…やっぱりそうだったのか…嬉しいやら恥ずかしいやら…ー


「もう……使う事はないだろうけど…コレ、志乃が持っていてくれるか?」


「分かった。私が…大切に保管しておくね。」


「うん。ありがとう。」


フワリと微笑んだルーファスさんは、少し寂しそうな目をしていた。










その日の夜─



入浴を済ませ、温かいお茶を飲んでから、ルーファスさんと一緒にベッドへと入る。

いつもは、ルーファスさんが私の背中から抱き付くようにして寝る──のだけど、私は体ごとルーファスさんの方へと向けた。


「ん?志乃、どうし───」

「ルーファスさん。こっちの世界で生きていく事に……向こうに還れなかった事、後悔してない?」


私は自分で選んで還って来たけど、ルーファスさんは違う。勿論、死にかけていたルーファスさんを掬ってくれた千代様には感謝しかないし、ルーファスさんがこの世界で生きていてくれた事は、本当に嬉しい。嬉しいんだけど─


「志乃、前にも言ったけど、俺は志乃の側に居られる事が一番嬉しいし大事な事なんだ。勿論、もう家族にも……アレサンドル達にも会えないのは寂しいけど、寂しいだけで後悔とかは全くない。俺の幸せは……志乃の側にしかないから。志乃を幸せにするのも、俺でありたいから。」


「ルーファスさん……」


チュッ─と、軽く触れるだけのキスをするルーファスさん。嬉しくて、少しウルッとしてしまい、グッと我慢する。


「そう言えば……志乃は何で()()は“ルーファスさん”って呼ぶんだ?」


「“普段”?」


ーん?私、いつも“ルーファスさん”って呼んでるよね?ー


不思議に思ってルーファスさんの顔をジッと見つめたまま考える。


「あれ、無意識だった?」

「ん?」


お互い寝転んで向き合ったままで、ルーファスさんが両手で私の両頬を包み込んだ。


「志乃は、()()()は……俺の事……“ルー”って呼んでるんだ。」


「────へい!?」

「アレ、無意識だったのか……でもさぁ……アレがまた……そそられるんだよね……」

「そ……そっ!????」

「──本当に、志乃は可愛いな───」

「はい????」


ーあれ?何で()()()()()()()入ってるの!?ー


おかしい!さっきまで切ないうるうるな話してなかった!?どこでどう話が変わったんだ!?


「えっと、ルーファスさん?明日は……お互い早起きしなきゃいけなかったよね?早く寝た方が良いよね?」


「そうだな、早く()()()()()早く寝ようか?」


「違っ─そう言う意味じゃなくて──!」


ーそれに、絶対早く終わらないよね!?ー


コレも、絶対言っちゃいけないヤツだから言わないけど!





そのまま、何故か意地悪スイッチの入ったルーに攻め立てたられた。確かに、いつもよりは……早く終わったけど……いつもよりも更に意地悪だったけど………。




その翌日。


「体力回復メニューです」と、イチコとニコからいつもよりも豪勢な賄いを出されたのは──ルーファスさんには秘密にしてもらった。






兎に角、二度も召喚を喰らって不遇な体験もしたけど、今の私は────




とても幸せです。


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