2人の殿下
「今日は、お誘いを受けていただき、ありがとうございます。」
フワリと微笑む王女殿下─アリシア様は、本当に綺麗な女性だ。私達と同じ年には全く見えず、16歳で既に魅力的な女性である。
「同じ聖女のエメから、よく貴方達の話を聞いていて、一度ゆっくり話をしてみたいなと思っていたの。迷惑…ではなかったかしら?」
コテン─と小首を傾げる様は、あざとさは全く無い。寧ろ、スマホが手元にあれば写真を撮っていただろう。
「迷惑ではありません。お誘い、ありがとうございます。」
にこやかに返事をしたのはバーミリオンさん。
先輩の対応はいつもスマートだ。
ー私以外にはだけどー
すると、アリシア様が視線を軽く後ろに向けると、部屋の壁側に控えていた騎士─近衛騎士が一歩進み出てから一礼した。
「彼は、私の近衛の1人なの。城内とは言え、私は王女だから、近衛を必ず付けなくてはいけないの。彼の同室を許して下さいね?」
「私は、ルーファス=シーヴァーです。私の存在は、無い者と思って下さい。」
それだけ言うと、彼はまた壁側の方へと戻り、また静かにその場に控えていた。
近衛になるには、顔面偏差値が高くないと駄目なのか?と訊きたくなる位、他の騎士団よりもイケメンが多い─と言うか、イケメンしか居ないなぁ…と思っていたけど、彼もまた……イケメンだった。
それが、彼と初めて会った時に思った事だった。
「やっぱり、ウィステリアは姿勢が綺麗だな。」
「殿下……また来たんですか?」
「ウィステリアぐらいだぞ?私にそんな言い方をするのは…ははっ─。」
「………」
殿下─アレサンドル様は、最近よく魔導士の訓練場へとやって来る。それこそ、最初の頃は、魔導士達は恐縮して気を使っていたけど、今では慣れてしまったようで、挨拶をした後は放置している。殿下は殿下で、そんな魔導士達の態度が心地良いらしい。
『媚を売るような視線や、獲物を狙うようなギラついた視線が無いからな。』
ー王太子と言うのも、色々大変なんだなぁー
それとは別に、私の事を心配してくれてもいるんだろう。
合同訓練で第三騎士に勝った私。あの翌日─
「本当に、魔導士になる女は、女じゃないよな?」
「男に、しかも騎士に勝つとかさぁ……絶対マトモな結婚はできないよな!」
「良くて後妻、悪くて……」
「…………」
その日は、早目に訓練を終えた私が、席を確保する為に1人先に食堂に来て、バーミリオンさんが来る迄席に座って待っていると、第三騎士団の騎士3人が私の後ろ側に座って、そんな話をしだしたのだ。
チラチラと、後ろに居る私を気にしているあたり、態とそこに座り、態と私に聞こえるように言っていると言う事が分かる。
ーどの世界にも、騎士であっても小さい男って居るんだなぁー
と、溜め息を吐いた時
「お前達には、騎士としての矜持はないのか?」
「な──っ!殿下!」
「負けた相手を貶めるような発言をして、恥ずかしくはないのか?そもそも、勝ち負けに性別は関係無い。努力したから勝てた─それだけだろう?」
「すみません!」
「私に謝ってどうする?謝る相手が違うだろう?」
「──っ!失礼…します!」
第三騎士の人達は、結局は私の方を振り返る事なく去って行った。
それ以降、殿下は何かと私の事を気に掛けてくれるようになったのだ。
「今日は、この後話があるから迎えに来たんだ。」
「王太子殿下直々に─ですか?」
バーミリオンさんが呆れたように聞くと、殿下の後ろに控えている近衛騎士の人が苦笑していた。
殿下に連れられてやって来たのは、会議室のような部屋だった。そして、そこには既にアリシア様とエメラルドが居た。
私達の後から、更に何人かの騎士らしき人達とアズールさんが来て、皆が席に着いたのを確認した後、アレサンドル様が口を開いた。
聖女─アリシア様とエメラルドの浄化のレベルが高くなり、尚且つ安定した事。
剣士であるアズールが、“勇者”レベルになった事。
魔導士であるバーミリオンさんと私の魔法のレベルも高くなり安定した事。
「1ヶ月後に、浄化の旅に出る事が決まった。」
それは、私達が召喚されてから、丁度1年後の事だった。
******
浄化同行メンバーは、召喚された私達4人の他に
聖女アリシア様。
エラさん合わせて魔導士が8人。
所属部隊関係なく、騎士が20人。
他、薬師や料理担当の人も数名いる。
浄化の旅に出てから2ヶ月。
王都から離れるにつれて、穢れは酷くなる傾向があるらしいが、今のところは特に問題なく浄化はスムーズに行われている。
何と言っても、浄化をする2人の聖女が……圧巻の美しさなのだ。聖女が祈ると、瞬く間に金色の光が溢れ出し、その光が一気に穢れを飲み込み──消し去るのだ。誰もがその姿に目を奪われる。同性の私でも見惚れてしまうのだから、常に聖女2人の周りに騎士達が群がっていたとしても……不思議ではない。
そう。旅が始まってから2ヶ月、私とバーミリオンさんは、未だにアリシア様どころかエメラルドとさえ、話す事ができていなかった。
 




