一つのお別れ
「デートはどうでした?」
と、帰宅すれば笑顔のキッカさんに出迎えられた。
ーあれ?ひょっとして、図られた?ー
「あーっと……楽しかったし、パンケーキは美味しかったんだけど…ね?」と前置きをした後、エメラルドとのやり取りを全て話した。
全て話し終えると、「少しだけ、出掛けて来ます」と言って、キッカさんは転移魔法で何処かへ行ってしまった。ブランの事を訊きたかったのにブランは疲れてしまったようで、部屋で寝ていた。
キッカさんが帰って来たら訊こうと思い、私も取り敢えず自室へと戻った。
そして、キッカさんが帰って来たのは翌日のお昼前だった。
なんと、本当にブランの親戚─叔父夫婦が居たらしく、しかも、その叔父夫婦はずっとブランを探していたそうだ。なんでも、ブランとその両親の3人は馬車に乗っている時に事故に遭い、ブランの両親はそのまま亡くなってしまったが、一緒に居た筈のブランだけが行方不明になっていたそうだ。
その原因は、ブランが白色の狼だったから─らしい。
狼でも白色は珍しいらしく、ブランを見た孤児院の院長が事故現場からブランを連れ去り………キルソリアン子爵に売ったと言う事だった。
「もともと狼は群れで暮らす生き物ですからね。その叔父夫婦は、ブランが生きていると知って、とても喜んでくれまして、すぐにでも引き取りたいと言ってるんです。」
「それは、良かったね!」
と、ブランの頭を撫でると、ギュウッと私にしがみついて来た。そのブランの背中をポンポンと優しく叩きながら「どうしたの?」と訊けば─
「もう、リアには会えなくなる?」
と、私にしがみついたままで顔だけ私を見上げて、その見上げて来る目がウルウルで──
ーギュンッと胸を鷲掴みにされてしまったのは仕方無いよね!?ー
それでも「いつでも会えるよ!」なんて、軽々しくは言えない。ブランが子供だからと、無責任な事は言えない。1年後の私が、どうなってるかなんて分からないから。
「ブラン、ごめんね。また会えるかどうかは…分からないの。私も、また……自分の国に還る日が来ると思うから。」
「その国に帰ったら、リアにも家族が居るの?」
「うん、居るよ。」
仲のいいお父さんとお母さん。それに、ツンデレで可愛い弟が居る。
「そっか、じゃあ、リアも…家族と一緒に居られるんだね?なら、リアに会えなくても我慢する。僕にも、叔父さんと叔母さんが居るから。」
ーちょっと!ブラン、良い子で可愛過ぎない!?ー
同意を求めようと、バッと振り返ってキッカさんに視線を向けると、「ブラン、良い子──っ」と言った後、キッカさんは声を押し殺して泣いていた。
そしてその日は、キッカさんもイチコもニコもブランも狐と狼の姿になって、皆で一緒に寝た。そう、もふもふに囲まれて!もふもふパラダイス!その中でも、キッカさんの三つの尻尾は最高に気持ち良い毛並みだった。流石は、三尾の妖狐である。
それから一週間後─
「「本当に色々とありがとうございました!!」」
と、ブランは、「本当に会えて嬉しい!!」と迎えに来てくれた笑顔いっぱいの叔父夫婦と一緒に、その叔父夫婦の住んでいる領地へと旅立って行った。
「ブラン、ありがとう。どうか、幸せにね───」
それから3日後──
「そうか、ブランが叔父夫婦と…」
「はい。その叔父夫婦も、ブランに会えて本当に嬉しそうに笑ってて…本当に、良かったです。」
今日は、二度目のルーファスさんとの約束の日。
二度目の今日は、平和なままで予定通りのお店へとやって来た。このお店のお勧めは、フルーツのタルト。悩みに悩んだ末、私は桃のタルト、ルーファスさんはりんごのタルトを選び、それを食べながらブランの事を話した。
「ウィステリア殿には、兄弟は居るのか?」
「弟が居ます」
「また…会えると良いな…」
「そう……ですね……」
“また会える”─と言う事は、元の世界に還ると言う事だ。還りたいと思っている筈なのに、何故か素直に喜べない自分が居て──
ールーファスさんに言われたから?ー
「……」
なんて自分勝手な思いなんだろう。還りたい、還るつもりでいるのに、ルーファスさんに“会えると良いな”なんて言われて……少し傷付いているとか………。気付かれないようにソッと息を吐いた。
今回のお勧めのタルトも美味しかった。キッカさんとイチコとニコにお土産にと買ってしまった。
そう、キッカさんの分も───
『この1年を楽しむと言うのなら、私は遠慮しますから、ウィステリア様はルーファス様とのデートを楽しんで下さい』
と言われて、今日も2人だけの“デート”となったのだ。
ルーファスさんからは、やっぱり砂糖口撃が繰り出されるし、やっぱり眼科を勧めなきゃいけないと思ったりもするけど……素直に、ルーファスさんと居ると楽しいなと思う。だから、この世界に居る間は……間だけでも、側に居られたらなぁ─と思う事にした。
たくさんの思い出を………作る為に───




