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頑張るだけ


*ルーファス視点*




「どうせ、1年は還れないみたいなので、この世界を楽しもうと思ってます」


と、言って目の前で笑っているウィステリア殿が─


ー可愛いー


あの、透き通るような藤色の瞳が綺麗で、気が付けば目で追ってしまっていたが、今のウィステリア殿の瞳の色は黒。漆黒を表すような──吸い込まれそうになるのは、俺がウィステリア殿が好きだからだろうか?どんな色の瞳であっても、可愛いものは可愛いが……


「キッカ殿、一つ訊きたいのだが……ウィステリア殿の髪か瞳の色を変える事はできないのか?」


髪も瞳も黒色─とは、この国では本当に珍しい色持ちとされる。そのせいで、ウィステリア殿は枷を嵌められて、キルソリアン子爵に買われてしまったのだ。“二度目は無い”とは言い切れない。


「正直、瞳の色を変えるのは難しいわね。髪色なら何とかなるかも…」


キッカ殿がパチンッ─と指を鳴らせば、ウィステリア殿の髪色が琥珀色になった。髪色が変わると印象も大分変わるから、街を歩いていても、ウィステリア殿とは気付かれ難いかもしれない。


「あ、キッカさんと同じ色だね!なるほど……狐色?」


キッカ殿と楽しげに笑っているウィステリア殿も、やっぱり可愛い。


「……ルーファス、顔が緩みっ放しだぞ?」

「…それは仕方無いだろう?」

「開き直ったのか………くくっ──」


アレサンドルには笑われたが、本当に仕方無い。意識しなくても、ついつい笑ってしまうのだ。

目の前にウィステリア殿が居る─と言う事が嬉しい半分、信じられないが半分だ。だから、“本当に居るんだ”と自分に言い聞かせるように、目はずっとウィステリア殿を追っている。

そのウィステリア殿は、キッカ殿と喋っている時はコロコロと表情が変わって、見ていて飽きない─いや、ずっと真顔だったとしても飽きないだろう。

相変わらず、俺に対してはバッサリのアッサリだったりもするが──


取り敢えずは、側に居ても良い許可は取れた…筈。物理的、精神的な距離を空けて──

1年後には、また還ってしまうかもしれないが、それ迄は、俺は俺のやれる事は全てやる──それしかない。最後に、この世界に残る事─俺を選んでくれたら嬉しいが──。


「ウィステリア殿、今度一緒に、街で人気のパンケーキ屋に行かないか?2人が嫌なら、キッカ殿も一緒で構わない。」


「パンケーキ……食べてみたいです!」


パアッ─と笑顔になるウィステリア殿。


ー反則だろう!ー


「ぐぅ──っ」


と唸りながら、左手で口を押さえる。ウィステリア殿が笑っただけでこの始末……。少し頭がおかしくなったのかもしれない─と思う位に色んな感情が湧いて来る。


ーエメラルド殿でも王女殿下でもない。ウィステリア殿だからだー


アレサンドルとキッカ殿からは、生温かい目を向けられたが、ウィステリア殿からは「宜しくお願いします。」と、取り敢えず約束を取り付ける事ができたから、全く気にはならないし問題にもならない。

ウィステリア殿が、この1年楽しもうと言うなら、俺もその手助けができればと思うし、一緒に楽しみたいと思う。


ーウィステリア殿は、甘い物が好きなようだから、先ずは、()()()()からだなー


そして、今度の俺の休みの日に─と約束をして、その日はアレサンドルと共に邸を後にした。











*王城にて*



「久し振りに、“微笑みのルーファス”を見たな。」


「アレサンドル、しつこい……」


「揶揄っているわけではないからな?お前が、ちゃんと笑えていて…良かったなと思っただけだ。」


ポンポン─と、安心したような顔をしたアレサンドルに肩を叩かれる。


ー俺は、そんなに心配される程笑ってなかったんだろうか?ー


「まぁ…1年後はどうなるかは分からないが…彼女がこの世界に居る間は頑張れ。無理強いだけはするなよ?」


「無理強いなんてしませんよ。俺を選んでもらう努力をするだけだ。」


無理強いはしない。



本当は、ウィステリア殿を捕らえて、囲ってしまいたい程離したくない─と思っているが、これでは彼女の心までは手に入らない。彼女の心も欲しい。元の世界に還りたくない─と思ってもらえるような存在になりたい。


アレサンドルの執務室へと向かっていると、前方から聖女エメラルド殿が、護衛騎士を連れて歩いて来るのが見えた。

護衛騎士が王太子アレサンドルの姿を確認すると、エメラルド殿に声を掛け、そこでエメラルド殿もアレサンドルに気付いたようで、その場で立ち止まり俺達2人にニコリと微笑み、軽く頭を下げた。


「こんにちは。アレサンドル様……ルーファス様。」


「こんにちは。エメラルド殿は、神殿からの帰りか?」


「はい。今、戻って来たところです。あの……ルーファス様……」


と、エメラルド殿が私に声を掛けて来た為、「何でしょう?」と訊けば、「今度、一緒に街に出掛けませんか?」と尋ねられたが、その場で断った。断った俺を、護衛騎士達は“信じられない”と言うような顔で見て来たが──


俺がエメラルド殿の手を取ることは無い。

既に、王太子アレサンドルの近衛に戻った俺が、エメラルド殿の護衛につく事も、もう無いだろう。


目の前のエメラルド殿の目は、儚げに揺れていたが、俺の心は全く揺れる事はなかった。




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