兄妹のティータイム③
女魔導士ウィステリアを蔑ろにする─と言う事は、彼女を選んだ女神アイリーン様を否定すると言う事だ。
喩え愛し子でなかったとしても、この国を救ってくれる者に対する態度ではない。
ただ、今回の事例は少し難しいところもあった。同じ召喚された者であり愛し子のエメラルド殿が、ウィステリア殿を庇わなかった事。エメラルド殿が一言言えば、脳筋騎士達も態度を改めたかもしれない。
とは言え、ルーファスは少し置いといて、ウィステリア殿にもきちんとした態度、対応をした騎士も居たから、それは言い訳にはならない。それに、エメラルド殿に関しては、アズールもバーミリオンも思うところがあるようで、エメラルド殿にはあまり良い顔はしていなかった。
兎に角、国王陛下はメイナードからの報告にキレて、私とメイナードに騎士団全体に調査を入れさせ、今迄の行いを全て報告する事となった。
騎士たる者、相手を見て態度を変えるなど、あってはならない。それさえ忘れてしまった脳筋騎士は、所属部署に関わらず、それなりの人数にまでのぼってしまった為、単純に“不名誉除隊処分”とはいかなかった。
特に酷い者数名は不名誉除隊処分としたが、残りの者達は一旦城付きの騎士から外し、各辺境地へと配属し最低3年の辺境地生活をさせる事になった。
ー命があったら、また王都に戻って来れるだろうー
そんな訳で第二騎士団に所属する近衛騎士も数名居なくなった為に、ルーファスはそのまま妹に付く事になってしまったのだ。同時に、妹を監視する役割もあったが……。
そんな理由を、王族の一員でもある筈の妹は全く知らない。知ろうともしないのだ。
そんな妹だ。父も母も最初は色々と頑張ってはいたが、あまりにも変わらない妹、寧ろ傲慢さが酷くなり──色々と諦めてしまった。
そんな王女だ。コレを、侯爵以上の家に降嫁させる予定は全く無かったし、そんな条件があるとも言った事は一度も無い。
良くて、“元気で子が生まれれば誰でも良い”と言っているような者で、基本は幽閉だった。何故侯爵以上じゃないと結婚できない─と思ったのか…
「色々説明は省くが、ルーファスが今迄お前に付いていたのは、ただ単に人員不足だったからだ。特に、お前付き近衛が数人配置移動になったからな。3年程前、お前付きの近衛の顔ぶれがガラッと変わった事には……気付いていなかったんだろうな…。そんな訳で、ルーファスはお前の側に居たいから居たのではなく、私が、仕方無くお前に付けていただけだ。」
「…………」
体を震わせているのは、怒りからなのか…ショックからなのか…。
ふぅ─と、軽く息を吐いてから本題に入る。
「それで?ウィステリア殿を再び召還した──いや、させたのは……お前か?アリシア。」
ピクリッ─と、固く握り締められていた手が反応した。そのまま小首を傾げて不思議そうな顔をして
「どうして……その事をお兄様が知っているの?」
妹は否定する事も無く、本当に不思議でたまらない─と言う顔をしている。妹は腐っても王族だから、召還については必ず幼い頃に教えられている。召還を行う魔導士もまた、その者達だけには知らされる──が、魔導士に知らされるのは、魔法陣の図と、召還魔法は1人や2人、少人数での魔力量では成功しないどころか、ルールを守らなければ、人数があっても全員が魔力の枯渇に陥り死んでしまう─と言う事だけを伝える。その為、6年前の召還に関わった10人の魔導士達は今回の召還には関わってはいないだろう。
“喩え魔力が足りても、そこに神の許しが無ければ成功する事はない”
と言う事は、女神アイリーン様が許した者にしか知らされない事であり、今では父である国王陛下と王太子である私しか知らない事である。魔力が足りたとしても、召還はできないのだ。
妹は、魔力が足りないから召還は成功しない─と言う事だけを知っている。そう、成功しないと分かっていて、1人の魔導士に召還魔法を使わせたのだ。
この馬鹿で愚かな脳内お花畑な妹は、聖魔法しか使えはしないが、魔法陣を描く事は得意としていた。描くだけで発動させる事はできなかったが、魔力持ちの者に発動させ、そこから蝶やリスなど、小動物を作り上げて遊んだりしていた。
きっと、召還の魔法陣を見て覚えて描き、それを魔導士に発動させたのだろう。
「失敗すると分かっていて、何故、召還魔法を使わせた?」
「何故か?失敗すると分かっていたから、召還させたのよ?あの女の跡を辿るのが大変で…2年も掛かってしまったけど……何故か、2年経ったある日、あの女の魔力がこちら側と繋がっている跡が見付かったと、あの魔導士から連絡があって……それで、召還させたのが半年前だったかしら?」
ふふっ─と笑う妹はソレだけを見ると綺麗だ。
「魔法陣を展開して暫くは頑張っていたけど……やっぱり魔力が足りなかったみたいで、倒れてしまったわ。あの女は……どこに落ちたのかしら?ざまぁ無いわ。私のルーを誑かした罰を受けたのよ……ふふっ…」
更なるその笑みに、私はゾッとした。




