キッカ邸
「「ウィステリア様、ブラン、お迎えに来ました」」
はい、今、私達の目の前に、見た目狐獣人の双子が居ます。
ピンと立った耳に、フッサリとした尻尾がユラユラと揺れていて、クリッとした大きい目は、キッカさんと同じ琥珀色だ。
王城へ向かう為に馬車に乗ったけど、馬車が向かったのはアマリソナ領の外れにある王家所有の邸だった。
その邸内に、有事の際に使用する、王都に転移する為の魔法陣が設置されていた。
「ウィステリア殿は、こちらに戻って来た事を知られたくはないんだろう?」
と、アレサンドル様の気遣いのお陰で、その転移魔法陣で王都へと帰る事にしてくれたのだ。その為、キッカさんと別れてから2時間も掛からずに王都迄帰って来る事ができた。
王都迄数日は掛かると思って、その間どうしようか─と悩んだりしていたから、本当に助かった。
そして、転移先は王城ではなく、王都の中心から少し外れた場所にある小さな邸だった。その邸に転移した後、キッカさんに言われていた通りに預かっていた指輪を嵌めると、ポンポンッ─と、見た目狐獣人な双子の2人が姿を現したのだ。
ー可愛い!もふもふしたい!ー
すると、ちょんちょん─と、前足で私の足をつついて来た狼姿のブランに「どうしたの?」と訊けば『僕をもふもふして良いよ?』と言われた。
ーえ?ブラン、可愛い過ぎない?ー
あれ?と言うか、“もふもふしたい!”って、声に出してしまってた!?
「ウィステリア殿、キッカ殿が戻って来てからで良いから、一度ゆっくり話をする時間を作ってくれないか?」
これから暫く─1年程はこの世界で暮らす事になるなら、“はい、ここでサヨナラごめん”では駄目だろう。
「分かりました。また、キッカさんが戻って来たら相談して、アレサンドル様に連絡します。」
「話を受けてくれてありがとう。それと、これだけ先に確認しておくが…残った3人には伝えておくか?それとも──」
「取り敢えずは、今はまだ内緒にしておいて下さい。」
「分かった」
正直、バーミリオンさんとアズールさんには会いたいけど……エメラルドに会うには、まだ心の準備ができていない。
「それじゃあ、私はこれで──」
「ウィステリア──殿!」
「はいっ!」
挨拶をして失礼しよう─と思ったところで、今迄殆ど喋っていなかったシーヴァーさんに呼び止められた。
「あの…さっきは…本当に……少し浮かれ過ぎて…自分勝手な事を言ってしまって…申し訳ない。」
へにょり─と困ったように笑うシーヴァーさん。
「その…また改めて、俺との時間も作ってくれないだろうか?勿論、キッカ殿も一緒で構わないから。」
再会した時の強引なシーヴァーさんは何処へやら……何なら、垂れ下がったケモミミが視える位に困ったような顔をしている。
「──ふふっ…分かりました。必ず、シーヴァーさんにも連絡しますね。」
「ありがとう、ウィステリア殿」
フワリと、あの笑顔で微笑まれてドキッとする。
「──っ!そっ…れじゃあ、取り敢えず…これで失礼しますね!」
と、私はブランを連れて双子の狐─イチコさんとニコさんの元へ向かい、4人揃ったところで双子のうちの1人が転移魔法を展開させ、私達はキッカさんの邸へと転移した。
キッカさんの邸は、外観はこの世界の建物となんら変わりはなく、大きいのは大きいけど、比較的小さ目の邸だった。3階建てで、1階には応接室や小さなホールや食堂があり、2階には執務室や客室がある。
そして3階はプライベートフロアになっていて、キッカさんや双子の狐の部屋は勿論あるが、何より──
「和室がある!しかも、炬燵がある!のは何で!?」
ーいや、嬉しいですよ?嬉しいけど、全く寒くないからね?ー
『“雰囲気が大事!”とキッカ様が言ってました。』
「雰囲気!?」
な…なるほど?だから、その炬燵の机の上には…みかんも置いてあるんだね…。そのうち、餅とか出て来そうだよね…。
『それでは、ウィステリア様のお部屋にご案内しますね。』
と、案内された部屋は、とてもシンプルな家具で揃えられた部屋だった─と言うか、何となく雰囲気が日本にある私の部屋のものと似ていた。
『キッカ様から、“志乃様の部屋に似せて用意するように”と言われました。いかがですか?』
ーキッカさんの配慮が半端無いー
「いかがも何も、本当に嬉しいです!キッカさんもそうだけど、イチコさんもニコさんも準備してくれてありがとう!」
『喜んでもらえて良かったです。』
イチコさんもニコさんも顔の表情はあまり変わらないけど、フッサリした尻尾は素直なようで、その尻尾がユラユラと揺れていた。
ーいつか、あの尻尾をもふもふさせてもらおう!ー
それから、ブランの部屋にも案内してもらってから邸内の説明を受けた後、4人でお茶をしながら話をした。イチコさんもニコさんも良い子だし、勿論ブランも良い子だから、キッカさんが帰って来る迄、4人で仲良く過ごせそうで良かった。
ーキッカさんは、いつ帰って来るかな?ー
“少し時間が掛かるかも─”と言っていたキッカさんだったが、その翌日の夕方にはこっちに帰って来た。
フラフラの状態で─
「一体何があったの!?」と思ったりもしたが、キッカさんはそのまま休む事なく、居残り3人の事後処理をする為に、また何処かへと行ってしまった。
そして、翌日の早朝にキッカさんは邸へと帰って来たが「話はまた後で……」と言って、そのままベッドへダイブ。それからキッカさんは、三日三晩寝続けた。
ー事後処理って、大変なんだなぁー
と、私は呑気に思っていた。




