王都への道
“最低でも1年は還れない”理由は、至ってシンプルなものだった。
女神アイリーン様が、まだ眠りに就いているからだ。
アイリーン様の“許し”がなければ、還れないから。
「私、どうしたら良いんですか?」
引っ越しして独り暮らしを始めて、残りの大学生生活を満喫して、就活して恋もできるかな?なんて思っていたのに。アイリーン様が目覚めて正規の手順で日本に還ったら、あの日のあの時間に戻れるんだろうけど─。
ーこの世界で1年過ごすなんて…どんな苦行?ー
この世界は、私にだけ……優しくない。やっぱりこの世界は“顔面偏差値=待遇”なんだ。
「卑屈か!」
「何を言ってるんだ?兎に角、ウィステリアが還れないと言うなら、その間、また王城で過ごすか?」
「え?嫌です。」
サラッと、王城を“家”呼ばわりしないで下さい。いや、アレサンドル様にとってはそうなんだけど、私の知ってる家は、日本によくある2階一戸建てのシンプルなモノだからね!
「相変わらずのバッサリ具合だな…くくっ……」
「えっと…すみません。その気持ちだけは有り難いんですけど、王城はもう……懲り懲りなので……。」
王城に行けば、騎士は勿論の事、貴族の令嬢も居る。その人達に会わずに過ごす事は不可能だ。魔導士だからと言う理由だけで、またチクチクと口撃されるのは真っ平ごめんだ。
『それなら大丈夫よ。この国の王都の外れに私の邸があるから、そこで過ごせば良いわ。』
その方が、王城よりも安心だから─と、キッカさんはアレサンドル様に視線を向けたままニッコリと微笑んだ。
それから、キルソリアン子爵をはじめ、人身売買についての捜査をする事になり、その日のうちに王都からの捜査隊が転移魔法でやって来た。
因みに、私とブランの枷も、キッカさんが一瞬で破壊してくれました──跡形無く……。あれ?捜査する為には必要だったのでは?と思ったけど、敢えてキッカさんには言わなかった。
キッカさんとブランと私は被害者と言う事で、色々捜査員に話を聞かれたが夕方前には解放され、アレサンドル様が私達3人の身請け人─保護者となってくれた為、アマリソナ領を離れて王都に帰っても良いと言う事になった。
その翌日─
「また何かあった時は、話を聞きに行くかもしれません。」と、捜査員の人に言われ「分かりました」と答え後、キッカさんとブランと私は、アレサンドル様達と一緒に王都への帰路に就いた。
王都行きへの馬車の中には、アレサンドル様とシーヴァーさんと、キッカさんと、狼姿でキッカさんの足元で寝ているブランが居る。そこでまた、キッカさんが馬車内に結界を張った後に話した事は──
キッカさんは、居残り3人の日本での存在を無にし、3人に名を返す為に、直ぐに日本へ渡りに行くと言う事だった。6年の月日が空いてしまった為、少し時間が掛かってしまうかもしれないが、存在を無にした後は、また直ぐこの世界に戻って来るから、私は王都の外れにあるキッカさんの邸で待って居て欲しいと。
勿論、私には行く所なんてないから、喜んで待ってます!ブランに関しても、キッカさんが戻って来てから、ブラン本人の意見も聞きながら決めよう─と言う事になった。
そして、キッカさんの邸に、キッカさんの魔力で創られた侍女が2人居るらしく、何でもその2人に任せてくれれば良いと言われた。
名前は、“イチコ”と“ニコ”と言う、双子の狐の女の子だそうで、取り敢えず、一度アレサンドル様達と王城へ行って、『コレを指に嵌めるとその2人が迎えに来てくれるから』と、キッカさんから指輪を渡された。
ーえ?もふもふパラダイス?ー
と思ったのは仕方無い。
兎に角、キッカさんは、『主には……ネチネチ言われるよね……』と、遠い目をして呟いて『それじゃあ…ウィステリア様、私が還って来る迄は邸から出ないようにね。』と言った後、張っていた結界を解除して、この馬車からその姿を消してしまった。
それから馬車には3人と寝ているブランだけとなり、気不味くなるかな?と思っていたけど、アレサンドル様が、この4年の間にあった事を話してくれたりして、予想外に気不味くなる事はなかった。
「それじゃあ、エラさんとバーミリオンさんは、まだ結婚はしていないんですか?」
「あぁ、結婚はしていないよ。婚約はしているけどね。」
あれから4年……でも、バーミリオンさん達は私みたいに年齢が戻ったわけじゃないから23歳──あ、そうか、私よりも三つ年上になってるんだ。
「バーミリオンがね、名前を思い出してから、本当の名前でエラ嬢と結婚したいからと言っていた。」
ーえ?何!?バーミリオンさん、素敵じゃないですか!?ー
キッカさん、少しでも早く、バーミリオンさん─谷原先輩に名を返してあげて下さいね!
 




