放課後の図書室
4年前の夏─
「今日は図書委員の当番だから、先に帰ってて。」
「分かった。それじゃあ、また明日ね。」
高校1年生の私は図書委員で、その日は当番だった為、いつも一緒に帰っている友達とは別れて、放課後は図書室の本の整理や貸出カードの確認作業をしていた。私の通っていた学校は進学校で、放課後も残って教室や図書室で勉強している生徒は比較的多かったが、あの日はテスト明けと言う事もあり、5人程しか居なかった。その中でも目を惹くのは─
久保清香さん
彼女は校内一の美少女と言われている。成績もトップクラスで、吹奏楽部ではフルートを担当しているとか。
ー天は二物以上を与えているー
と、久保さんを見る度に思っている。その反面、私には二物どころか一物も無い。本当に神様は不公平だ。
その久保さんの座っている席の真反対側に座っているのは─
本間広翔君
彼もまた、バスケ部で1年生唯一のレギュラーで、これまた成績もトップクラス。イケメンで爽やか。
ーやっぱり、天は二物以上を与えまくっているー
何か一つでもくれませんか?と、思っているのは内緒にしておこう。因みに、私は至って普通の女子高生─だと思う。不細工ではない(願望)と思うけど、可愛くもない普通。頭も普通。特技と言えば弓道。中学から始めた弓道だけど、それなりの成績を残せた。この高校に入学したのも、弓道部があったからだ。
「この本、借りたいんだけど」
「あ、はい。それじゃあ、図書カードの提示をお願いします。」
本を借りに来た人の制服のネクタイの色は臙脂色。と言う事は2年生。この人もまた──イケメンだ。
因みに、1年生が紺色で、3年生が水色のネクタイをしている。
後の2人は、図書室の端の席に座って勉強をしている3年生だった。
私とその先輩がやり取りをしている間に、久保さんは帰る支度をして立ち上がり、本間君は本を探しに行く為に立ち上がった。その2人が私の居るカウンター近くを通り過ぎようとした時、辺りの景色が暗転した。
「「「「えっ!?」」」」
一瞬、自分の目がおかしくなったのか?意識を失ったのか?と焦ったけど、私だけではなく、近くに居た他の3人も驚きの声を上げた為、図書室全体が暗くなったのだと言う事が分かった。それじゃあ、停電か何かか?と思考を切り替えた時、足下が地に着いていない─浮遊感に襲われた。
「「うわぁーっ」」
「「きゃあーっ」」
何処かに着いた感じがして、怖くてギュッと瞑っていた目をソロソロと開けると──
「えっと……大丈夫?」
と、目の前に先輩が居た。
「えっと?大丈夫で───っ!!すみません!!」
どうやら、私は無意識のうちに先輩にしがみついていたようで、それに気付いた瞬間、勢い良く飛び退いた。
「そんなに…思い切り飛び退かなくても……」
と、先輩はくくっ─と笑った。
「ここは…何処?」と呟いたのは久保さんだった。
改めて周りを見渡すと、そこは、真っ白な空間だった。その空間に、私と先輩と久保さんと本間君の4人だけが佇んでいる。
『貴方達には、やってもらいたい事があります』
と、どこからともなく女の人の声が響いて、金色の光がキラキラと舞い上がったかと思うと、その光の中から驚く程の美女が現れた。
ギリシャ神話?に出て来るような真っ白な服を着ていて、髪は金髪で腰の下辺りまであり、その瞳は吸い込まれそうな程綺麗で透きとおった青色をしている。
“女神”─まさに、この人の為にあるんじゃないだろうか…とさえ思う。
『私は平和を司る女神アイリーン。貴方達を呼んだのは、私なのです。』
ーはい。この人は、本当の女神様でしたー