表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/75

二度目の召喚の日常

「気に入ったよ。二つとも貰うよ。」


ヒュッ─と息を呑む。


「ありがとうございます。では──」と、呆然と立ち尽くす私を余所に、旦那様と人攫いの人が商談を始めた。


ー買われて………しまった?ー


犬─魔獣は檻の中で微動だにせずジッとしていて、そんな魔獣を「可愛らしいわ」と言いながら夫人が檻越しに撫でている。




どれ程の時間が経ったのか─長く感じたその時間は、実際は2、30分位だったかも知れない。商談が成立したらしく、人攫いの人は、旦那様から何かを受け取った後「元気でな」と、下卑た笑みを浮かべながらこの部屋から出て行った。


「さて───」と口にしながら、旦那様は私の方へと視線を向けた。


「お前、名前は?」


「………」


ー名前……“神咲志乃”は勿論の事、“ウィステリア”とも言わない方が…良いよね?ー


「ふむ─“名前が分からない”、“あまり喋らない”のは、本当のようだな。」


ーそんな設定になっていたのかー


「珍しい色持ちだけど…こんな普通の子を買ってどうするの?」


「珍しい中でも、黒の色持ちは特に珍しいからね。今ではなくても、きっといつかは…色々と役に立つだろう。それ迄に、この()の世話やウチで使用人としてでも働かせれば良い。」


ー狼?魔獣ではなく?ー


「せめて、成人していれば…もっと使()()()があったでしょうに……」


その夫人の言葉と冷たい視線にゾッとする。この人達は、私を人間(ひと)として見ていないのだ。

それでも、未成年と思われている事と、暫くの間は犬─狼?と一緒に居られる事、使用人として扱われそうだと言う事に一先ずホッとする。


「一つだけ確認しておくが…お前は16歳と言う事で間違いは無いな?」


「………」


コクリ─と頷く。


ー二十歳ですけどね!アジア系の顔万歳!ー


この世界での成人は、確か…18歳。それ迄後2年。

それ迄には───


ー頑張れ…私!ー


キュッと手を握り締めた。










*買われてから3ヶ月*



今迄に分かった事は──


私を買ったのはジェイミー=キルソリアン子爵。夫人の名はシエンナ。

クロスフォード王国の辺境地に住んでいる。外商で宝石等の貴金属を取り扱っていて売上も良いらしく、子爵と言ってもかなり裕福な暮らしぶりである。お金に余裕があるから、娯楽で人間(ひと)を買ったりしているのだ。


そして、あの犬だった魔獣からの狼は──


「ノワール、シエンナ様が呼んでる…」


まさかの狼の獣人の子供だった。

クロスフォード王国では珍しいが、獣人の比率が多い国もあるそうで、この子─ブランは両親を病気で亡くしてしまい、孤児院で暮らしていたところを、その孤児院の院長に売られてしまったそうだ。


検問の時に“魔獣”と言ったのは、獣人の子供を、枷を嵌めて檻に入れていると知られれば罪に問われるからだった。


このブランが…可愛い。普段は狼の姿をしているけど、夫人であるシエンナ様の側に居る時だけは人型の姿になる。と言っても、耳と尻尾だけはフサフサのままで、これがまた可愛くて……私にとっては唯一の癒しとなっている。


「ノワール…大丈夫?」

「うん。大丈夫。」


心配そうな目で私を見上げてくるブランに、私はニッコリ笑ってブランの頭を撫でた。



私には“ノワール”と言う名前が与えられた。本当の名前ではないから、私を縛る事ができないらしく、今でも首には枷が嵌められたままで、魔力の流れを止められたままである。







「来るのが遅いわよ」


「すみません」

「あの…僕がすぐにノワールを見付けられなかったから…」

「ブランは本当に優しい子ね。ふんっ。ブランに免じて許してあげるわ。その代わり、西の物置場の掃除を今日中に仕上げなさい。」


「…はい………。」


西の物置場とは、屋敷の敷地内の西側にある倉庫みたいな建物で……軽く日本の2階一戸建て以上の大きさがある。とてもじゃないけど、今日中─半日で掃除ができるモノではない。


今日は“ご飯抜き”と言う事だ。いつもそうだ。シエンナ様は、態と出来ない仕事を私にやらせて、できるまではご飯抜きにするのだ。


「はぁ──……すぐに行かないと………」


掃除道具一式を持って、私は西の物置場に向かった。







キュルル───


「お腹空いた………」


掃除が終わったのは日付を跨いた後だった。

ふと窓の外を見上げると、そこには満月が輝いていた。部屋にある小さな窓を開けて夜空を見上げる。


4年前に見上げた夜空は…もっと輝いていたような気がするのは…自分の置かれている環境の違いのせいだろうか?


「………」


勝手に召喚された上、女なのに魔導士だと絡まれて…見下されて…失恋?して還って…これから独り立ちして頑張ろうとしたら…また勝手に召喚されて……この仕打ち……。


「一体、私が……何をしたって言うの?頼まれて…助けただけなのに……」


1人、日本に還ったのが悪かった?


「────ふっ………」



二度目の召喚後、私はこの時、初めて涙を流した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ