犬からの魔獣?
『昼食をとった後、目的地に移動する』
と言われた後、また犬のいる部屋に閉じ込められた。
そこに居る犬もまた、誰かに洗われたのだろう。白い毛並みが黒ずんでいたけど、今では奇麗に真っ白な毛並みに戻っていた。
「お前は……綺麗だね。綺麗だから捕まったの?」
檻越しにヨシヨシと頭を撫でると、犬は目を細めて嬉しそうな顔をした。
「その足枷さえ外せれば…お前だけでも逃がしてあげられるのに……」
4年前もそうだった。
“容姿=能力”なんじゃないか?と思ってしまう位、普通の私だけ普通で、しかも扱いが他の3人より酷かった…よね?まぁ、その分エラさんやメイナードさんはじめ、魔導士の人達からは可愛がってもらえたけど。
今回のこの召喚も、私がもっと可愛かったら、人攫いに捕まえられる前にヒーローが現れて助けられて─なんて…なってたんじゃないか?とさえ思ってしまう。
ー卑屈かよー
「………」
口調が崩れてしまったのは許して欲しい。
現実逃避?してしまったのも…許して欲しい。
兎に角、4年前あんなに頑張って得た魔法が、ほぼ役に立たない。剣は…苦手だったから、今手元にあったとしても、4人もの男の人達を相手にする事なんて無理だ。
「弓……」
が、一番良いけど、魔法が使えないから創れない。
「………」
無理にでも…魔力を使えるように…頑張るしかない?
それから、魔力の流れを戻そうと色々試して頑張ってみる事にした。
「移動するぞ」
前以て言われていた通り、昼食をとった後、また幌馬車に乗せられて移動する事になった。
ただ、今回は、犬は以前と同じ檻に入れられたが、私は荷台床下に作られた、人1人がやっと入れるような隙間に押し込められ床を閉じられ、その上に何かが置かれているようで、下から押してもその床を開ける事はできなかった。暗くて少し苦しさもあったけど、布団が敷かれていたせいか、体の痛みが無いのが救いだった。
何時間か走り続けた後「停まれ!」と言う声と共に幌馬車が緩やかにスピードを落とした。
「何かあったんですか?こんな所で検問なんて…普段はありませんよね?」
床下に居るせいか、外での会話がハッキリと聞こえて来てた。
「さあな、詳しくは分からないが、荷物と人探しの通達があったんだ。中を検めるぞ。」
「へーへー、どうぞどうぞ。」
ギシッ─
床の軋む音がする。
ーここで、私が床下から音を立てれば……ー
ガンッ──
「どうした!?」
私が下から床を叩こうとする前に、逆に上から振動と音がした。
「あぁ、すみません。そこの魔獣が悪さをしそうだったんで、忠告…しただけです」
「この魔獣はどうするつもりだ?」
「この魔獣の毛皮を希望してる人が居ましてね。今から渡しに行くところなんです。」
「………」
その忠告は、犬…じゃなくて魔獣と私への忠告って事だよね……“おとなしくしていろ”と言う事なんだろう。
魔獣は人間に危害を加えたりする為、討伐対象となっている。その為、魔獣を捕えた後は食肉にしたり、毛皮でコートを作ったりする事は当たり前の事なのだ。あの犬も…その為に?魔獣の割におとなしいのは、やっぱりあの足枷のせいか…。
「よし、特に問題は無いな、行って良いぞ。」
「───っ!」
ギシギシと音を立てながら、2人分の足音が荷台から遠ざかって行った。そしてまた、幌馬車は静かに走り出した。
ガタンッ─ガタガタガタガタ───
ー助けを求める事が…できなかったなー
「………」
それからまた数時間走り続け、とある宿屋に着いたのは夕方頃だった。
その宿屋は賑やかな街中にあり、宿の中も宿泊客らしき人達が多く居たが、そのエリアを通り過ぎ、奥へ奥へと通路を進んで行き、見張りの人が居る扉を潜り抜けて、更に奥へと進んで行った。
因みに、犬は檻にシートを掛けられて、私は着ているコートに付いているフードを被らされていて、周りからは容姿を見られないようにされている。
そして、豪華な装飾が施された扉を開けると、奥にあるソファーに夫婦らしき男女が座っていた。
「それで…今日はどんなモノを持って来たんだい?」
男の人は白髪に金眼で、人好きのするような微笑みを浮かべて、人攫いの男に問い掛けた。
「一つは、以前、夫人が欲しいと仰っていたモノで、もう一つは…珍しいモノをお持ちしました。どうされるかは、旦那様にお任せします。」
そう言うと、犬の檻に被せられたシートが捲られて、中の犬が晒されると、“夫人”と呼ばれた女の人が「まぁ!可愛らしいわ!」と、顔を綻ばせた。
「ほら、お前も顔を出して、旦那様に顔を見せろ」
「………」
そう言われてソロソロとフードを捲り、“旦那様”と呼ばれる人を見る。
「ほう…これはまた…珍しい色持ちだな。」
「はい。まだ未成年のようです。それに…身内なども…居ないようで…。数日の間確認していましたが、この娘を探しているような人物は居ませんでした。」
“探しているような人物は居ませんでした”
その言葉に、私はショックを受ける事しかできなかった。




