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森の入り口に幌馬車が停まっていて、犬と私は幌の掛かった荷台へと押し込まれ、犬は更に、その中に置かれた小さな檻の中へと閉じ込められた。


「お前はそこに座っておけ。逃げたり、馬鹿な真似はするなよ。逃げても…また捕まえるだけだからな。」


「………」


指示された通り、犬の入っている檻の横の床に直に腰を下ろした。そんな私を見た犬が、檻越しではあるが、私の方へと体をくっつけるようにして擦り寄ってくれた。私と犬の間には冷たい鉄の棒があったけど、その犬の温もりが私の気持ちを少しだけ落ち着かせてくれた。



それから、私と犬を捕まえた2人とは別に、他に2人の男の人が乗り込んで来た後に、幌馬車は静かに走り出した。外は、もう真っ暗になっていた。






ガタゴトと振動が激しくて、お尻が痛いやら腰が痛いやら……それでも馬車は休む事なく走り続けている。


ー一体、どれ位進んだんだろう?ー


少し前、「食え」と言われて出されたのは、少し硬くなったパンだった。取り敢えずは、素直に食べておいたけど、犬は寝ているのか、出された肉はまだ食べていない。それから、体中が痛くて眠れなかったけど、目を閉じて寝たフリをした。





「で?あのガキはどうする?どう見ても未成年だろう?娼館どころか、俺達の()()すらさせられないだろう。」



“娼館”…“相手”…


気付かれないように、ギュッと自分の腕を抱きかかえる。


「相手をさせられないのは残念だが、あのガキの瞳の色が黒なんだ。髪と瞳が黒なのは珍しいから……()()()()()だろう?」


「なるほどな」


ははは────っ


「─────っ……」


それから男達は愉しげに笑った後、ヒソヒソと話し出した為、それ以上は何も聞き取る事はできなかった。



“高く売れる”



ー売られる?誰に?ー


ギュウ─ッと、震える体を押さえ付ける様に、更に自分を掻き抱く。すると、犬がフサフサと私の背中を撫でるかのように尻尾を当てて来た。


「───ありが……とう…」


と、私は小さな声で呟いた。








いつの間にか寝ていたらしく、気が付けば馬車内は明るくなっていた。体中が痛みで悲鳴を上げそうになりながらも我慢して、また硬いパンを食べて犬を撫でて──少し落ち着いた頭で考える。




4年前の召喚と違う事─


あの白い空間には行っていない。女神アイリーン様にも会ってはいない─と言う事は、私の召喚には、女神様や神様は関わっていないと言う事だろう。


瞳の色がそのままの黒色で、名前も覚えている─と言う事は、()()()()()()()と言う事。それは──この世界でも…命を落とす可能性があると言う事。


「………」


召喚された場所には誰も居なかった。本来なら、召喚した人の元へと辿り着く筈なのに。召喚に…失敗した?なら…失敗したとしたら、その人が私を…探してくれる?

話を聞く限りでは、私を未成年だと思っているから……最悪の事態だけには…今すぐにはならない。ただ、売られて買われてしまった後は……分からない。

なんとか…私を探してくれる人が居るなら、それ迄なんとかして耐えれば…何とかなる?


魔力はある筈なのに、全く流れを感じる事ができない。ソッと首に嵌められたモノに手を当てると、ソレはやっぱり酷く冷たいモノだった。


ーコレが…魔力の流れを止めている?ー


犬の足に嵌められた足枷を見る。アレも、そうなのだとしたら、この仔は犬じゃなくて魔獣なのかもしれない。魔力の流れを止められているから、元気がないのかもしれない。


ーこの仔の枷だけでも外せれば…何とかなるかもしれないけどー


どうする?──と考えているうちに、幌馬車の進むスピードが少しずつ遅くなって、ガタンッと音を立てた後、幌馬車が完全に停車した。


「降りるぞ!」


その一言に、また自然と体が震え出した。










降りた先には、小さな煉瓦造りの小屋があり、私と犬は同じ部屋に放り込まれた。そこでも特に何かをされる事もなく、美味しいとは言えないものの、きちんと食事も3食出された。部屋の扉には外から鍵が掛けられ、唯一部屋にある小さな窓には格子が填められていて、逃げられないようになっている。


逃げる手段を考えてはみるけど、魔法が使えないから、全く良い案が思い浮かばない。




そんな日々を5日程過ごしたある日─


珍しく女の人が来た─と思えば、なんの躊躇いもなく服を剥ぎ取られ、そのまま水風呂に入らされた。


「──っ!?」


まだ、暖かい時期で良かった。そうでなければ、風邪どころか、最悪───



それから、ガシガシと遠慮のない力で髪や身体を洗われた後、真っ白なワンピースを着せられた。





「ふん。まぁ…顔は普通だけど、その色だからなぁ…未成年なのが残念だ。」


私を連れて来た男がニヤリと嗤う。

そんな男を見て、私はまたグッと手を握り締めた。






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