総一郞のつぶやき・1
私は咄嗟に台所へ入っていた。
「何をしてる!!?」
驚いた九六子は鍋の中に薬と思われる粉をぶちまけ、私に振り向くと顔を青ざめさせながら引きつり笑いをして言った。
「は……伯爵様……!!?あ……タマさんに頼まれて料理を見ていたのです……」
「今鍋に入れた物は何だ!!?」
「あ……タマさんに頼まれたものなので何かは分かりません……」
「嘘を付きなさい!!私はずっと見ていた!!それは九六子さんの着物の懐から出した物だろ!!」
「ち……違います……!!!わたくしは何も存じ上げません!!!」
そう大声で言い、私を横切って逃げようとしたので腕を掴んで引き留めた。
「タマが頼んだものだと言うならきっと隠し味か何かだろう。九六子さんが味見をしてみなさい」
九六子は顔面蒼白になった。
「い……嫌です!!!毒見など女中の仕事ではないですか!!!タマにやらせればいいではありませんか……!!!」
「毒見……!?私は味見だと言ったんだ。我が屋敷の食事に今まで毒など入っていたことは無い。九六子さんも我が屋敷に来てから何度も食事をしたであろう。どれも毒見などしておらん。さぁ、味見をしてみなさい。それともそこまで嫌がるのはさっき入れたものが毒だと知っているからかな?」
「タ……タマに……タマさんにさっきの毒を入れるように言われたんです……!!!」
「何故侯爵令嬢がたかが女中の言うことを聞くんだ?もういい。行きなさい」
私がそう言ったと同時に廊下を早足で歩く音がして台所の前で止まった。見るとタマが目を丸くさせて立っていた。
「伯爵様、裏庭では無かったのですか?何のお話ですか……?」
私は鍋の料理を流しにぶちまけた。
それを見たタマは「あっ!!!」と叫んだ。
「すまない。この料理は焦がしてしまったのだよ」
「焦げ!!?」
そう不思議そうな声を出しながらこちらへ駈け寄ると、鍋と流しに捨てられた料理を交互に見つめ、悲しそうに言った。
「焦げてない……まだ食べれる……あたしがこれ食べます……」
貧しい家庭に育ったが故の言動なのだろう。流しに落ちている肉を拾おうとするタマの腕を掴んだ。
「すまない。嘘をついた。この料理には毒が盛られたから食べてはいけない。このことは他言無用だ。別の料理を今から作ることは出来るか?」
「毒……?」
タマはしばし不思議そうな顔をしていたが、すぐに「分かりました」と言うなり壁時計を見た後、冷蔵箱のところまで小走りをすると、中を見ながら大きな声で言った。
「オムライスにお肉を入れたのでもいいですか!?」
「それでいい」