女中のタマ・4
ここ倉島邸の女中はあたしを含めて20人いる。
女中頭のおハナちゃんは1番長い間ここで働いているという理由で、2年前に結婚して辞めていった先輩の代わりに女中頭になってしまったのだという。
今日おハナちゃんは風邪をひいてしまい、仕事を休んだ。
怪我や病気をした女中が寝かされる部屋のベッドに寝ているおハナちゃんに朝食の梅干しお粥を持って行くなり、おハナちゃんが弱々しい声で申し訳なさそうに言った。
「おタマちゃんごめんね。まだ入ったばかりなのに1人にしてしまって……。新人さんの面倒を見ることができる女中がいないから……」
「謝らないでくれ。あたしは前も女中をしていたから大丈夫だ」
そう返事をしながら、あたしはキョロキョロとして盆を置く場所を探した。
ベッドに座りながら食事が出来るちょうどいい高さの台がベッドの足元にあった。
あたしはそこに盆ごとお粥を乗せると、そのままおハナちゃんの食べやすいベッドの横まで運んで続けて言った。
「すっかり治るまで気兼ねなくゆっくり休んでくれ。食器はまた取りに来るからな」
「ありがとう……」
あたしはおハナちゃんが寝かされている部屋を出ると、元門番のお兄さんこと愼志朗さん――ここに来て会ったときは驚いたが、そういえば昔龍之介の贈り物を届けに来たのを思い出して納得した――に言われたあたしの掃除場所のメモを見ながら歩いた。
今からの持ち場は本邸の客間か。
桶に水を入れて雑巾2枚とホウキと塵取りを持って、本邸のお勝手口から入って玄関近くにある客間へと向かった。
そのとき廊下の窓を拭いている背の低い女中を見かけた。
その子は踏み台に乗っていても窓の上の所に手が届かずに背伸びをして雑巾を持った手先を震わせながら足元をグラグラとさせている。
「おお、危ないな。窓の上のところはあたしがやってやるからあなたは低いところを拭いてくれ」
あたしは自分の雑巾を両手に1枚ずつ持つと、廊下の窓の上の部分全部を両手を高速に動かしながら拭き漏れのないように且つ流れるように垂直に拭いていった。
廊下の窓の上部分の全てを拭き終えたあたしは遠くの窓の下部分を拭いている小さい子に「終わったから行くな!!」と大声でひとこと声をかけてその場を後にした。