龍之介の愛しのタマ・2
お祖父様は僕と侯爵家の令嬢を結婚させるつもりらしいけど、僕はタマと結婚する。
亀太郎さんとキヨさんの幸せそうな姿を見て僕の思いはより一層強くなった。
絶対にタマと結婚をしてタマを幸せにするためにも伯爵の爵位を必ず継ぐ。
何はともあれまずはタマと相思相愛にならなくては何も始まらない。
けれども僕は今まで女性を口説いたことなど無いからどうすればいいのか分からなくて、ただひたすらに自分の気持ちを伝えることしか出来なかった。
タマと夜の食事を約束した僕は今日は何でタマを喜ばせようかと考えていて、それだけですでに幸せだった。
ミルクチョコレートとキャラメルとみたらし団子はタマの好物だから必ず買って持っていこう。
そうだ。今日視察に行く新店舗の近くには美味しい大福屋もあったはずだ。それも持っていこう。
他にも何かいい物があれば贈り物にしよう。
僕の頭の中はタマのことでいっぱいだった。
タマが生きていたことで僕の世界は色鮮やかになり、タマと同じ敷地内に住み、毎日タマの顔が見られるということで毎日がキラキラと輝きだしていた。
昨日まではタマの部屋でタマと一緒に朝食を取っていたが、今日から女中の仕事をすることになったタマと一緒に朝食を食べることは出来ない。
淋しく感じながら食事の間――長テーブルの周りに椅子が並んでいる食事を取る部屋で、愼志朗さんや女中たちがそう呼んでいるので僕もそう呼んでいる――へと1週間ぶりに足を運んだ。
部屋のドアを開けるとお祖父様と九六子さんがすでに席に着いていた。
「遅かったな。今日はこっちで食べると聞いたから待っておったぞ」
上座に座っているお祖父様と目を合わせた僕は「申し訳ありません」と頭を下げて席に着いた。席に着いてすぐに「いただきます」と手を合わせて食事が始まった。
僕の席は九六子さんと向かい合わせの席で、九六子さんは僕と目が合うとニッコリと微笑みかけてきた。僕は思わず九六子さんから目を逸らした。