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女中のタマ・2

「なぜ町医者の所にあのガキがいるの!?」


 怒った声で聞く奥様にあたしは再び頭を下げて言った。


「あたくしめが連れて行った次第でございます!!」


 そう答えた直後にあたしは肩に強い衝撃を覚え、気付けば背中と後頭部を廊下に叩きつけていた。

 

 目の前が白くなり、耳鳴りがして一瞬何が起きたのか分からなかったが、奥様が蹴ったあとの格好をしているのを見て、蹴飛ばさたことが分かった。


 奥様は冷酷な目であたしを見下ろしていた。


「女中の分際でなに勝手なことをしているの?わたくしはあの小汚い虫けらを病院に連れて行ってもいいなどと一言も言ってないでしょ?今すぐ連れ戻して来なさい」


 蹴られて廊下に叩きつけられたことで背中と後頭部が痛くて息が苦しかったが、息を荒げながらもなんとか起き上がり、座った姿勢が崩れたままの格好で声を絞り出した。


「今連れ戻したら龍之介は死んでしまう……!!!そんなことは出来ない……!!!」


「なに!!?その口の利き方は!!?女中の分際で生意気ね!!!」


 奥様は鬼の形相であたしの襟首を掴むと手を上げた。あたしは思わず目をきつく閉じて身を縮めた。


 しかしいつまで経っても何も起きないのでそっと目を開けて見ると、次男の賢吉が奥様の背後からあたしを叩こうとしている右手を掴んで止めていた。


 助けてくれたのか……?


 そう思いながら賢吉を見上げた。


 賢吉はまつ毛が長くて奥様に似た綺麗な顔をしている。

 今年で15歳だそうで、兄弟の中では一番頭がいいという噂もある。


 今日は日曜で学校が休みだから憲吉を含め三兄弟も奥様と一緒に昼飯を食べていたのだ。


 賢吉は一瞬だけあたしと目を合わせるとすぐに逸らして、どこか奥様に似た冷たい口調で言った。


「お母様、やり過ぎです。気に入らないのなら解雇すればいいだけの話じゃないですか」


 あたしの頭の中は真っ白になった。

 思わず叫んでいた。


「解雇……!!?それは困る!!!あたしのお母ちゃんは怪我をしていてあたしが稼がないと家族のご飯が買えなくなってしまう……!!!」


 賢吉は再度あたしに視線を向けた。

 奥様に似た冷たい視線だった。


 奥様の手を放した賢吉はあたしの前まで来てしゃがむと、あたしの顎を人差し指でクイッとすくい、顔を近づけて薄ら笑いを浮かべた。


「これだけ綺麗な顔をしてるんだから女中より儲かる仕事はいくらでもあるだろ?そんなに金に困ってるなら俺が買ってやろうか?」

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