タマと九六子・2
九六子さんはずっとあたしの部屋にいた。
なのですっかり打ち解けていつの間にか九六子ちゃんと呼ぶ仲になっていた。
夜ご飯もあたしの部屋で一緒に食べた。
おかげで淋しくなかった。
「わたくしってタマさんよりも可愛いし若いじゃないですか!!?」
「そうだな!!九六子ちゃんはあたしより可愛くて若い!!!」
「その上華族で身分があってタマさんみたいに底辺な人たちとは違う世界の人じゃないですか!!?」
「そうだな!!九六子ちゃんは身分があってあたしとは違う世界の人だ!!!」
「だから龍之介さまと釣り合うのはわたくしで、龍之介さまが好きなのもわたくしなのですよ!!?」
「そうだな!!龍之介と釣り合うのは九六子ちゃんで龍之介が好きなのも九六子ちゃんだな!!!」
「そうです!!!わたくしは本妻でタマさんみたいな下等で不細工で年増な女に負ける訳がないのです!!!」
……ん?今なにかあたしの悪口が聞こえたような……?
そのときドアをコンコンと叩く音がした。
「タマ!!?居るの!!?」
龍之介の声だった。
あたしは九六子ちゃんと仲良くなれて嬉しくて上機嫌で返事をした。
「おお!!居るぞ!!!」
「入ってもいい!!?」
「おお!!いいぞ!!!」
ガチャリとドアを開けて入ってきた龍之介は一目散にあたしの横まで大股歩きの早足で来て「タマ!!!ごめん!!!」と言いながら椅子に座っているあたしに腰を折り曲げて抱きついて来た。
「おお!!どうした!!?」
「今帰ってきてお祖父様からタマを妾として連れてきたって聞いて驚いたよ!!!ごめんね!!!酷いことをして……!!!」
龍之介の声は泣きそうな声だった。
「龍之介は悪くない。これはいろんな事情が絡み合った結果だ。それに龍之介なら酷いことはしないと分かっているから安心している。気に病まないでくれ」
「僕はタマを妾になんてしたくはないんだ……!!!僕はずっとタマと結婚したくてこの伯爵家で頑張ってきた……!!!タマ以外の女性と結婚する気なんてない……!!!僕が好きなのはずっとタマだけなんだ……!!!」
――今なんて……?
あたしが混乱したと同時にガタンッと音がしたのであたしと龍之介はそちらへ注目した。
九六子ちゃんが立ち上がった拍子にソファーが倒れた音だった。
九六子ちゃんはワナワナと震えながら大声を出した。
「タマさんなんかよりわたくしのほうが若くて数百倍可愛いのに……!!!龍之介さまが好きなのはわたくしなのに照れ隠しでそのようなことをなさるなんて酷いですわ……!!!」
龍之介は呆然としながら言った。
「……あなたは誰ですか……?僕にとってタマより可愛い人なんてこの世にいませんよ……?」
私が龍之介の言葉に驚いたと同時に九六子ちゃんはワナワナと震えると大泣きして部屋を飛び出して行った。
「九六子ちゃん……!!!」
あたしは咄嗟に立ち上がろうとして足の裏が地面について「いてっ!!!」となって椅子の上でうずくまった。