九六子の運命の殿方
わたくし原九六子は誇り高き侯爵家の四女でございます。
3人の姉は皆華族の殿方に嫁いでいきました。
わたくしももう20歳なので早く嫁がねば行き遅れとなってしまいます。
侯爵家の娘である上に可愛い顔をしたわたくしには縁談が腐るほどございました。しかしその中で両親が勧めたのは財力のある倉島伯爵家との縁談でございました。
運命というものは本当にあるのだと感動致しました。
何故ならわたくしと龍之介さまは幼き頃より相思相愛の仲だったからでございます。
思い起こせば龍之介さまとは11年前のわたくしが9歳の時に父と母に連れられて行った伯爵邸での出会いが運命の始まりでございました。
わたくしは侯爵家の娘でありながらも貧しく、華族といえども生活は質素なものでございます。
公侯爵は無償で貴族院議員をやらされていたこともあり、また華族としての体裁を保つ為の使用人を雇ったりの出費がかさむこともあり、大名の子孫か事業の成功者でもない限り公侯爵は財力に乏しくなってしまったとお祖父様がおっしゃっておりました。
そんな誇り高き理由で平民と変わらぬ生活を強いられることに腹を立てていたわたくしは、平民である女中たちに難癖を付けていじめることで憂さ晴らしをしており、それは伯爵邸でも同じでございました。
中庭をウロウロとしていたわたくしは、ほうきで落ち葉を掃いている14歳くらいの背が高い女中を見つけたので、仁王立ちをして難癖を付けてやりました。
「ちょっと、あなた!!ほうきで掃いたあとに砂埃が舞っていましてよ!!埃が舞わぬように落ち葉を掃き集めるのが女中の仕事ではなくて!?」
年上の女中に威張り散らすのは特にスカッとするものでございます。
しかし女中は生意気にも「は?誰?」と眉を寄せて言ってきたのです。とても腹が立ちました。
「わたくしは侯爵家の原九六子ですわ!!!あなたがた平民とは違う世界の華族ですのよ!!!ひれ伏せなさい!!!」
「は!!?ここは伯爵邸なので侯爵家は部外者です。邪魔だからあっちへ行け」
「なんですってぇ~!!?」
そのとき、中庭の木々の向こうの方から殿方の話し声が聞こえました。
殿方にわたくしが女中をいびっている姿を見せる訳には参りません。
わたくしは女中の無礼を水に流し、興味本位から殿方の話し声がする方へと歩を進めました。
木々の間から覗くと、12歳くらいの美男子が、おそらく世話係であろう大人の男性と剣道をしておりました。
その美男子のお顔を見た瞬間、わたくしの心臓は飛び跳ねておりました。なんと素敵なおかたなのでしょう……!!!
そう、わたくしはその美男子に一目惚れをしてしまったのです。