タマと九六子・1
ガチャリとドアを開けると九六子さんは首をかしげて可愛らしく「お邪魔致します!」と言って入ってきた。
「足の裏が痛くて座ったままで申し訳ない!!九六子さんもどうぞお座りくだされ!!」
あたしは机を挟んで向こう側にあるソファーを手のひらで指し示した。
九六子さんはあたしの向かいのソファーに腰掛けると握っていたキャラメルを1粒あたしに差し出した。
「タマさんキャラメル食べたことないと思いお持ち致しました!一緒に食べましょう!」
「おお!!!キャラメル!!!諭吉もよく与えてくれた!!!大好物だ!!!ありがとう!!!」
あたしはキャラメルの包み紙を剥いでキャラメルを口に放り込んだ。
やはり誰かと食べる物は美味しい。
九六子さんは少し驚いたような声で言った。
「諭吉さんってどなたですか?タマさんは龍之介さま以外にも情人がいらっしゃるの!!?」
「諭吉も龍之介も情人ではない。諭吉は前の職場の主の息子だ。子どもの頃からあたしに毎日菓子を与えてくれた親切な人だ」
「タマさん、以前は女中をされていたのですよね!?伯爵家の妾なんて大出世じゃないですか!?」
その質問にあたしは暗い気持ちになった。
「ああ……あたしはかつては女中のタマだった……だが今じゃ妾のタマになってしまった……。あたしは女中に戻りたい……」
九六子さんは驚いた顔であたしを見つめた後いきなり机をバンッと叩いて立ち上がり、大声を出した。
「え!!?タマさん妾になりたくないのですか……!!?女中に戻りたい!!?」
いきなり机をバンッと叩いて大声を出すのであたしはビクッとした。
自分の心臓に手を当ててドキドキを確認しながら答えた。
「あ……ああ。妾などにはなりたくはない。あたしは女中に戻りたいのだ……」
「ならばわたくしが女中に戻して差し上げますわ!!!なんと言ってもわたくしは龍之介さまの妻ですもの!!!」
「おお!!!そんなことが出来るのか!!?九六子さんはすごいのだな!!!」
「ええ!!!わたくしはすごいのです!!!何故ならわたくしは誇り高き龍之介さまの妻なのですから!!!」