龍之介と亀太郎
亀太郎さんはやや声を震わせながら言った。
「キ……キヨの身請けに来ました……!!!」
楼主はしばし黙り込んだ後5千円に手を伸ばした。
「……これはとりあえず頭金としてもらっておこう。キヨの身請けにはもう5千円必要だ」
案の定、欲深い楼主は倍の額を提示してきた。
亀太郎さんは懐にしまっていたあとの5千円を取り出した。
「ならばこれで身請けが出来ますね」
楼主はその5千円を見つめると「嘘だろ……?」とつぶやき、少し考えると「頭金が一万ということだ!!身請けにはあと一万必要だ!!」と言い出した。
亀太郎さんは身体を震わせて怒りながら言った。
「さ……さっきあと5千円で身請け出来ると言ったじゃないですか……!!?」
「そんなこと言っとらんが?証拠でもあるのか?」
僕はすがさず口を挟んだ。
「楼主は確かに5千円が頭金であと5千円で身請け出来ると言いました」
楼主は呆然としながら僕に視線を移した。
「わ……若様……なぜこんな貧乏人の肩など持つのですか……!!?」
「亀太郎さんと僕は友人だからです。知人に新吉原三業組合の取締がいるのですが、この件を話したらどうなるでしょうか?」
楼主は一瞬沈黙した後作り笑いをした。
「い……嫌ですよ……そんな……この一万円で身請け了承ですってば……」
亀太郎さんの表情が一気に明るくなった。
「キヨを……早くキヨをここに連れてきてください……!!!」
そのとき2階で話を聞いていたらしいキヨさんが顔を真っ赤にさせて目には涙を溜めながら階段を下りてきた。
「本当に……!!?」
キヨさんはそう言って両手で口を覆いながら大粒の涙を流すと、ゆっくりと亀太郎さんに歩み寄った。
「キヨ……!!!迎えにきたよ!!!」
目を潤ませて言う亀太郎さんにキヨさんが駈け寄ると亀太郎さんはキヨさんを強く抱きしめて、力強い口調で言った。
「結婚しよう……!!!」
キヨさんは何度も頷きながら「本当に……!!?」「本当に……!!?」と繰り返し言っていた。
僕は亀太郎さんとキヨさんの5年間を思うと不憫で心が痛む一方で、5年越しではあったがようやく結ばれることに心底良かったと思っていた。と同時にキヨさんと相思相愛な亀太郎さんを羨ましくも思っていた。




