龍之介と亀太郎
亀太郎さんは震える手でお金を受け取った。
「本当なら断るべきなんでしょうが、僕はこのお金が死ぬほどありがたいです……!!!キヨを身請けするために毎日働いて夜も草鞋を作って売って生活も切り詰めて、それでも5年間で900円貯めるのがやっとでした……ここしま屋は27歳を過ぎたら切見世送りになることで有名です……だから今すぐにでもキヨを助け出したいのです……!!!」
亀太郎さんは涙を流しながら「ありがとうございます……!!!」と深く頭を下げた。
そんな亀太郎さんに僕は心が苦しくなった。
大好きな女性が5年間もの間男たちの欲望の為に物のように扱われ、一体どんな気持ちだったのだろうか……?
もしタマが同じ目に遭えば僕はきっと気が狂ってしまう。
しま屋の楼主が無理難題を言い出すといけないので、僕は亀太郎さんと一緒にしま屋に入った。
しま屋の楼主は亀太郎さんを見るなり「またおまえか。ビンボー人は帰れ」と言い、その後ろに居る僕には両手をこすり合わせながら「これはこれは若様!本日も誰か身請けされますか!?今日のお薦めは――」などと態度をコロコロと変えた。
亀太郎さんはもじもじとしながら着物の裾に隠していた5千円を楼主に差し出した。その金を見た楼主の目の色が変わった。