龍之介と亀太郎
タマの言った通り、気が抜けたように眉も目も垂れ下がっていて口が半開きになっている。
人力車を降りて会計を済ませた僕は亀太郎さんに声をかけた。
「亀太郎さんですか……?」
ポカンとした顔で僕を見上げた亀太郎さんは「はい……」と気の抜けた声で答えた。
僕は2階の窓を見上げた。そこにはおしろいを塗った綺麗な女性の姿があった。彼女も亀太郎さんを見ている。
「あの方がキヨさんですね?」
「はい……あなたは……?」
「昨日しま屋から脱走した女性を覚えてますか?亀太郎さんに助けてもらったと言ってました」
「ああ……はい……」
「彼女に頼まれてキヨさんを助けに来ました。キヨさんの身請け金はいくらですか……?」
「この前ここの楼主に聞いたときは5千円だと言ってました」
「楼主の許可は出ているのですね……?」
「はい……僕には無理だろうが5千万用意してきたら身請けさせてやるって……」
僕は懐から一万円を包んだ風呂敷を取り出した。
「ここに一万円あります。ここの楼主はもしかしたら間際になって倍の額を請求してくるかも知れません。なのでまず5千円を風呂敷から出して手に持ち、あとの5千円は風呂敷に包んで懐に入れておいてください」
亀太郎さんは垂れ目を見開いて「え?このお金は……!?」と戸惑っていた。
「さっきも言いましたが、僕の大事な女性があなた達を助けたいと言っています。僕は彼女の望みを叶える為ならお金も労苦も全てを惜しみません。だからどうかこのお金でキヨさんを身請けして欲しいのです」