龍之介と亀太郎
昨晩、お祖父様はタマを僕の妾にすると言っていた。
そんなことはしたくない。
けれどもお祖父様は本気だった。
一体どうすればいいのだろうか……?
悶々としながらも取引先との交渉などこの日の仕事をこなし、夕方にはタマとの約束を果たすために吉原へと向かった。
吉原は苦手だ。喪拉破さんのような人が当たり前のように大勢居る欲望が渦巻く場所だからだ。
けれどもタマの願いを叶える為なら勇んで足を踏み入れる。
大門のところで自動車を降りると、門を入ってすぐのところにいる俥夫にしま屋の場所を聞いたら分かると言うので人力車に乗せてもらい、そのまま案内してもらった。
人力車に乗っていると、横から何人かの遊女たちが人力車と並走しながら声をかけてきた。
「龍之介さま!!!」
「今日も来てくれたのですか!!?」
「昨日身請けした子はやっぱり足が1番速かったからですか!!?」
「あたしたちも結構足速いんですよ!!?」
僕は少々困りながら答えた。
「昨日の人はずっと好きだった人なんです。足の速さは関係ないですよ」
遊女たちはその言葉に足を止めると「ずっと好きだった人だって!!!」「ウソ――ッ!!!」と大きな声で言いながら悲鳴を上げた。
また何か噂になるのかな。
そう思いながらも視線を前方へ移すと、大きくしま屋と書かれた看板を掲げた日本家屋が見え、その前に立って2階を見上げている小柄な男性が視界に入った。
タマが言っていた亀太郎さんだ。