タマの戸惑い
奥様も襦袢姿になり、あたしは奥様が先に布団に横になるのを座って待っていた。すると奥様があたしの前に敷いてある掛け布団を持ち上げながらぶっきらぼうに言った。
「寝なさい」
あたしは戸惑いながらも「はい」と答えて足の裏が地面につかないように四つん這いになって歩いて敷き布団の上で寝転んだ。
奥様はあたしの足の裏が布団に触れないよう、足だけ出るように布団を掛けてくれた。
奥様と並んで仰向けに寝ながらあたしは何だか嬉しくなっていた。
「奥様。あたし何だか幸せです」
奥様が「あらそう。よかったわね」と素っ気なく答えたので、奥様に視線を向けて見ると頬が赤くなっていて、奥様は小声で「昼寝でいいならいくらでもさせてあげるわよ」と付け加えて言った。
あたしが幸せだと思ったのは奥様が優しくしてくれて何だか温かい気持ちになれたからなのだが。
そのとき廊下を早足で歩く音がして、ふすまの向こう側からヨネの声がした。
「失礼致します。奥様に倉島様という伯爵家のお客様が見えました」
奥様は怪訝な表情になった。
「倉島……?伯爵……?知らないわね」
そう言って起き上がったので、あたしも起きようとした。そしたら奥様は「あなたは寝てなさい」と言い、そそくさと着物を着て出て行った。
奥様が居なくなった茶の間は、よその家に行ったときに1人にさせられたみたいな感じで落ち着かなかった。少し緊張していて眠れないな。と思っていたら気付いたらぐっすりと眠っていた。
意識の向こうで奥様の声がした。
「タマ、起きなさい。伯爵様があなたに用があるそうです」
肩を揺すられて起きたあたしは朝と勘違いしていた。
なんであたしの部屋に奥様が居るのだ?
部屋が茶の間だということに気付いてようやくさっきまでの出来事を思い出した。
奥様に着物を着せてもらったあたしは下男に抱きかかえられながら客間へと向かった。
客間の廊下の前で正座をした奥様が「失礼致します。女中のタマを連れて参りました」と言い、ふすまを開けると白髪と白髭にまみれたお爺ちゃんと10代半ばくらいの女の子が座卓の向こう側に正座をして待っていた。