タマの戸惑い
松尾家の皆で朝食を食べたあと、諭吉、賢吉、栄吉は仕事へ行き、あたしは茶の間で奥様と2人きりになった。
奥様はいつもと同じようにぶっきらぼうな口調であたしに聞いた。
「あなた普段仕事以外では何をしているのかしら?」
「寝てます!」
「……寝るのが好きなの……?」
「好きです!」
奥様は女中を呼ぶと、座卓と座布団を部屋の隅っこに寄せさせて布団を2組敷かせた。
まさか寝るのが好きと言ったからといって今すぐ寝させてもらえるとは思ってなかったのであたしは驚いていた。
昨日から奥様は一体どうしたというのだろうか……?
布団を敷いたヨネがあたしと目を合わせると優しく微笑んだ。あたしも微笑み返した。
ヨネはサワと一緒に廊下に出ると正座をして一礼しながら「失礼します」とふすまを閉めた。
茶の間は再び静かになった。
奥様は「このままじゃ寝苦しいでしょ」とあたしの背後に回ると帯をほどいて着物を脱がせてくれた。あたしの襦袢はつぎはぎまみれで、それを見た奥様は「どうしてこんなボロを着ているの!?」と驚きながら「少し待っていなさい」と言って茶の間を出て行った。
茶の間の引き戸にはふすまと障子があって、障子の引き戸のほうからは障子紙越しに陽が差し込み、外からは小鳥たちの鳴き声が聞こえていた。
少しして戻って来た奥様はキッチリと畳んである真新しい襦袢を2枚持って来た。
「これはまだ未使用だから安心して使いなさい」
おそらく奥様のであろうその襦袢に戸惑った。
「あたしがもらってもいいのですか……?」
「あげるために持って来たのよ。このボロはもういらないわね?」
ぶっきらぼうにそう言いながら座ったままのあたしの襦袢を新しい襦袢に着替えさせてくれた。